第22話 遺跡エリア2層目



 “夢幻のラビリンス”探索だが、相変わらず他のライバルに遭遇しないのは大いなる利点である。この時間、他の従兄弟がまだ突入していない可能性をさっ引いてもだ。

 階層構成に関しては、どのダンジョンも共通している特性らしい。どんどん階層を下って行けば、敵が強くなって行くのも同じく共通の特性なのだろう。


 つまりは、強いカードを得ようと思えば深く潜るに越した事は無いって理屈である。朔也さくやがそう思っていたら、次の小部屋で遭遇したのは何とスライムの大群だった。

 隙間に隠れている奴も含めて、ざっと10匹近くはいるだろうか。これは合成素材獲得のチャンスと、朔也は部下に入り口で待機を命じて単身で小部屋内へ。


 もちろんお姫は飛んでついて来たけど、まぁ彼女には戦闘能力は無いし良い事に。そして慎重に1匹ずつ、スライムを自ら退治して魔石へと変えて行く作業を行う事数分。

 たまに反撃の素振りを見せるスライムだけど、コイツ等は基本姿を見せた状態では良いカモでしかない。例えば岩壁の隙間から不意打ちとかされれば、探索者も危ないかもだけど。


 それ以外だと、動きも遅いし弱点の核も丸見えだしで哀れな奴らである。そんな朔也の苦労は、何とか実って何と4枚ものカード化に成功してしまった。

 やはり弱い奴相手だと、スキルも作動しやすいのかも知れない。


「やったね、お姫さん……この短期間で4枚なんて、考えてみたら初めてかも! 嬉しいけど、弱い敵だから確率も高かったのかなぁ?

 自分の持ってるスキルながら、良く分からないのは気持ち悪いね」


 そんな呟きに、気にするなとゼスチャーで励ましてくれる妖精のお姫は良く出来た娘なのかも。何にしろ、これを元手に、更に合成が可能になったのは嬉しい。

 朔也が唯一成功したのは、同じカード同士を組み合わせる強化合成のみである。それでも朝に確認したら、『錬金術(初心者)』のスキルも生えていたし先行きは明るい。


 是非とも老ノームのアカシアに師事して、この合成スキルを今後とも極めて行きたい所。魔結晶をエネルギーに使うので、数をこなすのが大変なのが難点だけど。

 それは探索を頑張って、素材を含めて回収すれば済む話である。5日目ともなれば、段々と慣れて来て2層のゲートもスライムの小部屋から20分後には発見出来た。


 その間にカード化に成功したのは、大ネズミが1匹のみと残念な結果に。それでも、1層で合計5枚はかなりの大成功な部類な気が。

 ゲートの前で休憩しながら、朔也の意気は上がり調子である。


【遺跡スライム】総合F級(攻撃F・忠誠F)×4

【遺跡ラット】総合F級(攻撃F・忠誠F)


 ただし、やっぱり安定の総合F級ばかりなカードは、喜んで良いのか不安なレベル。まぁ、1層での結果なので、その辺りは仕方が無い。

 2層での成果に期待しつつ、朔也は一行を率いてゲートを潜って2層の地へ。そこも相変わらずの遺跡エリアで、篝火かがりびの焚かれた石の通路が左右に続いている。


 壁も石が積み上がった造りで、冷たい印象であまり長居はしたくない感じ。まぁ、探索目的なので通り抜けるだけだし、仲間の召喚ユニットも一緒なのが心強い。

 やっぱりダンジョンの雰囲気は、慣れないと相当なプレシャーである。ソロ活動で無くて本当に良かった、例え仲間達が総じて一言もしゃべらなくても。

 妖精のお姫なんて、存在自体が騒がしくてある意味救われている。



 そして2層の探索を開始して、数分もせずに敵と遭遇した。向こうから体格の貧相なパペットが、2体通路を歩いて来ている。顔ものっぺらぼうで、戦闘コックさんに似ていなくもない。

 武器は2体とも、木製のバットのような凶器持ちで強そうな雰囲気。とは言え、コックさんの遠隔攻撃を受けて、ドタバタ駆けて来る姿はちょっと間抜けかも。


 そしてエンの一撃を受けて、呆気無く崩れ落ちて行くところを見ると強くは無かったみたい。実際に鍋フタの盾で攻撃を受けた感触も、そんなに強烈でも無し。

 取り敢えずカード化はさせてみたかったけど、2体目のパペットもエンが倒してしまった。それは仕方が無い、次の遭遇に期待して朔也は通路を進み始める。


 そして突き当りの小部屋に、やっぱりゴブリンの群れを発見。今回は弓矢持ちのゴブが混ざっているようで、ここは慎重に作戦を進めなければ。

 何しろ唯一のコックさんの遠隔フォーク投げは、命中力はあるけど威力はあまり無いのだ。精々がタゲ取りと言うか、敵の気をく役目になる程度。


 そして弓矢持ちのゴブと、遠隔の撃ち合いをしても勝てる気はまるでしない朔也である。所詮はゴブリンだろうって気もするが、弓矢に関して向こうは本職かも知れないのだ。

 それなら弓矢が使えない、接近戦に持ち込むのが一番の手ではある。ただし、隻腕せきわんの戦士は膝が悪いので、長い距離を走るのが苦手と言う特性が。


 考え抜いた末、結局はいつも通りに剣持ちゴブから倒す作戦となってしまった。小部屋の入り口に待機して、近付いて来た奴から倒して行けばそれ程脅威な敵ではない筈。

 ゴブリンは悪賢い一面もあるけど、大抵は考え無しで体格も人より劣っている。教本によると、獣人の中では最弱種には違いが無いそうだ。

 それならこちらも、そこまで慎重になる必要もない。


 そんな朔也の予想は、半ば的中してまずは作戦通り。こちらの攻撃に反応して駆け寄って来たゴブ集団は、エンによってあっという間に半壊してくれた。

 ただし、さすがに弓矢使いゴブだけは、その場に残って矢を射かけて来ていた。それでも矢をつがえる時間を利用して、朔也が逆に駆け寄っての一撃で戦闘終了。


 弓矢の弱点は、こんなところにもあったようだ。今後の活用時には、その辺も念頭に入れておかなければ。そんな事を考えながら、戦後処理のドロップ品回収を行う。

 嬉しい事に、最後に倒したゴブリン弓使いがカード化してくれた。他にも転がってる魔石(極小)や、粗末なナイフを拾いながら思わず笑みをこぼす朔也である。


【ゴブリン雑兵(弓)】総合F級(攻撃E・忠誠F)


 相変わらず強くはないけど、まかりなりにも弓使いユニットである。忠誠心も最悪に低いけど、少なくともこちらを攻撃して来る事は無いだろう。

 そう自分を慰めながら、やはり2層も同じかとがっくり肩を落としてみたり。ここは3層に期待だけど、果たして現在の戦力で攻略出来るかは今のところ不明である。


 その後も2層の探索を続けて、どうやらここの通路はパペット兵の見回りがマストだと判明。時折すれ違うと言うか、出遭ってのバトルが何度か。

 そして小部屋には、スライムや大ネズミがたむろっていたり、ゴブリン集団がくだを巻いていたり。小部屋では新たなカードは回収出来なかったけど、ドロップはまずまず。


 そして、通路で倒したパペット兵のカード化には何とか成功。朔也自身で3体倒して、ゲット出来たのは1枚のみなので確率はあまり良くはなかった。

 とは言え、こいつはひょっとして戦闘コックさんと合成が可能かも?


【遺跡パペット兵】総合F級(攻撃F・忠誠E)


 名前は全然違うけど、恐らく同じ指示待ちのパペット兵士だと思われる。戦闘コックは包丁とお玉で武装して、簡素なエプロンを着用しているけど。

 この遺跡エリアで入手したパペット兵は、スッ裸で武器は木製バットの形状の棍棒のみである。果たして合成が可能か、その辺はノームのアカシアに訊ねておくべきだろう。



 そして30分以上うろつき回って、ようやく新たなゲートを発見。これで初の3層へと辿り着く事が出来る、朔也は嬉しさに小さくガッツポーズ。

 『魔法の巻き糸』を操っていたお姫も、糸を切ってやったねと浮かれている模様。相棒の探索の上達具合に、素直に喜んでくれているのが微笑ましい。


「よっし、それじゃあ少し休憩してゲートを潜ろうか。お姫さん、そこに座ってポッキーでもかじって、それから用意して貰ったお茶でも飲もうか?」


 それにウェ~イと喜びの表現で従う、甘味大好きな妖精のお姫であった。お茶や簡単なスナックは、毎日の突入前にメイドが支給してくれるのだ。

 5日目ともなると、向こうもこちらの嗜好しこうを完璧に把握してくれており。お茶はカフェオレで、スナックは甘い品がメインとなっている。


 しかもお姫の分もしっかり用意してくれて、妖精でも食べやすい品が増えて来ている気も。ちなみにエンも休憩に誘うけど、一度も応じて貰った事は無い。

 彼は肌の黒い人間に見えるけど、恐らくは人間型のモンスターなのだろう。種族は不明だが、エルフとか鬼人とか人と似た種族はいっぱいいる。


 嗜好も風習も恐らく違うのだろう、ただ単に心を開いてくれてないだけかもだが。忠誠度Fなら、まぁそれも仕方が無いのかも知れない。

 短い休憩を終えて、朔也は一行を従えて次の層へ。ゲートを潜って出た先は、やっぱり重厚な石造りの遺跡エリアだった。息苦しい雰囲気も同じで、通路が左右に続いている。


 ただし、この層の通路で出遭ったパペット兵には、インプが1匹付き添っていて朔也はパニックに。そいつが先制で、いきなり妙な魔法を撃って来たのだ。

 それを受けた途端、朔也は吐き出しそうな気分の悪さに見舞われてしまった。コックさんに指示を出すどころではなく、胸を押さえてしゃがみこんでしまう。


 その間に、2体いたパペット兵士がこちらへと突っ込んで来る。視界の端にそれを確認しつつ、何も対応が出来ない時間の中で。エンだけは、何事もなくそいつ等を簡単に始末して行ってくれていた。

 そして厄介だと思われた、宙を舞っていたインプも投げナイフでサクッと始末。隻腕とは思えない無双振りで、遭遇した3体の敵をたった1人で始末してしまっていた。


 そしてインプが倒された瞬間、朔也の気分の悪さも完全に治まってくれた。心配そうなお姫の顔が間近にあったが、一呼吸する間もなく完治である。

 アレも魔法だろうか、インプのサイズは妖精のお姫よりは大きいけど、精々がラグビーボール程度である。そんな奴に致命的な攻撃を受けるなんて、やっぱりダンジョンって恐ろしい。

 油断していた訳じゃないけど、1層降りただけでこの難易度である。


 “訓練ダンジョン”では3層を攻略して、こっちも多分平気だと勘違いしていた気がする。初見の敵と言う事もあって、相手の戦法も良く分からなかった部分もあるけれど。

 やはり魔法とか飛び道具は怖い、体験して素直にそう思う朔也である。ここは素直に戻るべきか、それとももう少し無理をしてこの階層の探索を続けるべきか。


 悩んでみるが、一緒に出現したパペットの強さは2層と変わりは無さそうだ。と言うより、F級ランクの筈の隻腕の戦士が強過ぎて判断はつきにくい。投げナイフにしても、一体どこから取り出したのやら?

 エンのF級認定は、朔也にもずっと謎である。フットワークが致命的に悪いのが、マイナス点として大きいと判断されているのかも。片腕が無いのもそうだ、それさえなければ恐らくC級以上は硬い筈。


 とにかくエンのお陰で助かった、そんな相棒の戦闘能力を信じて朔也はもう少しだけ進んでみる事に。帰りは帰還の巻物もあるし、危ないと感じたら即帰る感じで。

 それからやっぱり不安なので、さっき入手したばかりの弓持ちゴブとパペット兵士を追加召喚する事に。枯れ木も山の賑わい、これで敵の攻撃も多少はばらける筈。

 またインプに出遭っても、これでマシになったと思いたい。





 ――そんな感じで、賑やかさを増した一行は3層をもう少しだけ進む事に。






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