第14話 続・渓谷エリア
「おっと、ようやくカード化1枚成功だな……まぁ、即戦力にはならないだろうけど。名前は渓谷テントウかぁ、安定のF級ランクだね。
1層のモンスターだし、当然と言えばそうだけど」
ようやく1枚目のカードをゲットした
戦力不足は否めないけど、取り敢えずは1層の探索をこのまま進めるつもり。幸いにも、まだ体力は充分に残っているし、ここまで傷も負っていない。
若さと気合でもう少し進む予定の朔也、せめて1時間程度は頑張りたい所存である。戦力不足はいつもの事だし、ひょっとして良いカードに巡り合うかもだし。
まぁ、そんな叶う筈の無い願望は取り敢えず置いといて……
さっき遭遇した、岩に擬態した大トカゲもそうだし。空から奇襲を掛けて来たハーピーや、大鷹モドキにもついさっき遭遇した。1羽だけだったのだが、これがなかなかの強敵で。
隻腕の戦士が倒した結果、角の立派なヤギと同じく魔石(小)をドロップしてくれた。ついでに鳥の尾羽も落として、どうやら何かの素材らしい。
こんな感じで敵との遭遇率と、それからドロップ率はここまでは良好をキープ。落ちていた魔石を拾って、少しだけ休憩するよと戦士に告げると。
峡谷の斜面に背中を預けて、不動の仕草で休憩を始めてしまった。さすが歴戦の戦士といった具合だが、果たしてこの戦士に感情の類いがあるのかは不明である。
朔也は休憩後、召喚モンスターを従えて探索の続きへ。渓谷エリアは曲がりくねって、奥へと谷底の道は続いている。そして唐突に、それは新たなゲートで終わりを告げていた。
どうやら台所エリアと同じく、この渓谷エリアもそんなに広くは無かった模様だ。30分程度で第1層を踏破してしまったみたいだけど、さてこの後はどうしよう?
続けて2層へと進むには、前衛陣の戦力に思いっ切り不安がある。引き返すにも、もう少し経験値を稼ぎたいって気持ちの方が大きくて考え
どうしようか迷っていたけど、結局はこのメンツでもう少しだけ進む事に。無理をせずに経験値稼ぎと割り切って、ペースを落として慎重に進めば大丈夫だろう。
そして出来れば、カードをもう1枚か2枚は追加でゲットしたい。そう思って侵入した第2層だったけど、エリア的には大きな変更点は見当たらず。
そして出て来る敵も、1層と同じタイプの連中ばかり。何度も遭遇したハーピーがメインで、大トカゲや角ヤギの不意打ちにも注意が必要だなって感じ。
大鷹モドキも1度襲撃して来て、危うくその爪にガッチリやられそうに。そのまま空にお持ち帰りとかされずに済んで、本当に良かったなと思っていたら。
逆方向からもう1匹が襲い掛かって来て、召喚していた大蜘蛛が1匹持ち去られてしまった。まぁ、カーゴ蜘蛛でなくて良かったと、取り敢えず戦闘に本腰を入れての迎撃体制へ。
その場はそれ以上の被害も無く、何とか2匹の大鷹モドキを退治する事が出来て良かった。ただし、これで仲間モンスターがまた減ってしまった、期待はしてなかったけど被害は被害である。
そうなると、これ以上進もうって気力も萎えて来る。
「どうしよう、仲間も減っちゃったし……ここは安全を優先して、無理せず戻ろうか?」
そう隣を浮遊する妖精に問い掛けると、彼女はそれよりアレを注視しろと近くの樹木を指し示して来た。それは何度も通り過ぎて来た、断崖に生えた生育の悪い枝葉の樹木だった。
その割に太い
勇ましく斬り掛かったその先制打を、驚いた事にそのツタ植物は避けてしまった。クネッとした動きは、まるで擬態した蛇の様でちょっと気持ち悪い。
と言うか、これも擬態モンスターだと分かって、朔也も慌てて戦いに参加する流れに。妖精の指摘が無かったら、不意打ちで酷い目に遭っていたかも知れない。
ただまぁ、モンスターと判明したらただの長い紐なので、剣で細切れにしてやれば良い。そう言う意味では、この妖精も大事な戦力の一員には違いない。
そして戦闘終了後に、魔石(小)と長く頑丈な蔦紐をゲット出来た。ついでに【人喰いツタ】のカードもゲット出来て、ようやく運が向いて来た感じ。
コイツはE級ランクで、まずまず使えそうなモンスターかも。
【人喰いツタ】総合E級(攻撃F・忠誠D)
とは言え、やっぱりコイツも戦術は【密林クモ】と同じで、待ち伏せがメインなのだろう。つまりは移動しながらの戦いには、とことん不向きで召喚コストの無駄って気が。
だからと言って、朔也の手持ちのカードはごく
まぁ、取り敢えず今日はこれ以上の探索は断念して帰路につく事に。HPは減っていないけど、朔也の気力はかなり消耗してしまっていた。
MPも同じく、この数値は時間が経過してもなかなか回復してくれないみたいで辛い。薬品頼りとなると、お金も掛かるし資金が潤沢で無い朔也としては取りたくない手段である。
妖精も文句はないみたいで、フワフワと帰り道のルートを飛んでついて来てくれている。隻腕の戦士も同じく、油断なく隣に並んで歩く姿は頼もしい限り。
戦闘無しだと、15分余りでゲートを抜けて“訓練ダンジョン”の峡谷エリアを戻る事が出来てしまった。そして改めて老ノームと対面して、さっきまでの経過を報告する。
朔也にとって、この老ノームはこの屋敷の誰より喋りやすい相手である。人間関係的には情けない感じもするけど、本当の事なのだから仕方が無い。
或いは、亡くなった祖父とだっら探索について話が弾んだかも知れない。ただし、それを知るのは永遠に不可能となってしまった。
それを残念に思いつつ、朔也は今日の探索の結果報告。
そして
一応はF級のカード1枚とE級のカード1枚を追加でゲット出来たけど、即戦力には程遠い感じ。まだまだ朔也の戦力は、決して万全ではないままである。
それでも今日は第2層まで潜れたし、次回はもう少し奥まで進めそうな感触があった。何よりF級の癖に、やたらと強い【負傷した戦士】が嬉しい誤算過ぎる。
希望もそれなりにある訳で、さじを投げて寝込むレベルでは決して無い。明日も頑張って、レベル上げとカード化での戦力増強を頑張る予定だ。
そうすれば、いつか合成の素材も揃って良いサイクルの流れに乗れる筈。新当主の言う祖父の形見のカード収集には程遠いけど、千里の道も一歩よりである。
そんな訳で、今回の“訓練ダンジョン”探索はこれにて終了に。
それは朔也が、お昼のバスケットを食堂に返しに行った時に起こった。夕食間近の時間なので、誰も利用する者はいないだろうと思っての立ち寄りだったのだけど。
意に反して、広い食堂に
彼らが仲が良いとは知らなかったが、歳も近いし従兄弟同士なので悪くは無いのだろう。体型もどちらもポッチャリ型で、いかにも運動不足が見て取れる。
両者とも高校生くらいだろうか、或いは大学に入りたてとか。次男である
それとも《カード化》スキル頼りで、実はレベルは高かったりするのだろうか。目敏くこちらを見付けたのも、
おやつを前に談笑をしていたのが、こんな時間になってしまったとか。だとしたら、本当に仲が良いのか……ただし、朔也を見る目は気持ちの良いモノでは決してない。
それは、釣られて振り向いた
「ようっ、誰かと思ったら
聞いた話じゃ、俺の兄貴にカードデッキを全て奪われたそうじゃないか。あいつは親族の中でも鼻摘まみ者でね……俗に言う、金持ちボンボンの我が
自分の意に沿わないと、平気で暴力も振るう最悪な性格なのさ」
「ははっ、従兄弟どころか兄弟仲も悪いってね……まぁ、あんな性格じゃあ仕方が無いけどな。お前もそう思うだろ、気に入らなかったらやり返していいぞ。
そう言って、ガハハと楽し気に笑い合う次男コンビである。朔也はそうですかと、取り合わない風を装ってその場を穏便に去ろうとする。
その態度が気に入らなかったのか、更に絡んで来る両者である。あわよくば食堂から、老ノームへの贈り物用に洋酒か何か貰えないかと聞こうと思ったのだけど。
そんな雰囲気ではなく、居合わせたメイドもこのガラの悪い従兄弟たちにはどことなく迷惑そう。向こうもプロなので、間違っても顔には出さないけど雰囲気で分かってしまう。
かく言う朔也は、ポーカーフェイスは苦手な部類なのかも。次男コンビに詰め寄られ、ウザいなコイツ等的な表情を浮かべたのは仕方の無い事か。
それが伝わったせいか、今や向こうも怒れる態度を隠そうともしていない。朔也は何もしておらず、ただ絡まれるのが厄介だと判断してその場を立ち去ろうとしていただけなのに。
或いは彼らに同意して、厄介な長男の
つまり朔也に、取れる手段はほぼ無いって感じ。
「おいっ、この
さっさと自分から、権利を放棄してこの館から出て行く事だなっ!」
「そもそも妾の子なのに、俺たちと同じ権利を持ってるのもズルいよなぁ……おっと、レベルは4でちゃんと《カード化》スキルも持ってるのか。
うんっ、称号はともかく【妖精の加護】ってのは何だ?」
何故か激昂している
ボッケの中に潜んでいた妖精は、このポッチャリ次男コンビにいたくお怒りの様子。その小さな淑女の様子を見て、逆に次男コンビは爆笑し始める。
一体何が面白いのか、お人形ごっことは年相応だなと、馬鹿にした笑いなのは雰囲気で察せるけど。朔也が真面目な表情を崩さないでいると、向こうも次第に笑いを収めて行った。
それから、こっちはレベル15だとレベル違いを通達して来る
思いっ切り肩をド突かれて、その場に転ばされてしまった。やったのは
そして一言、
相手の
向こうもハッキリ、やられたらやり返すのが家系の教訓だと言っていたし。痛みに引っくり返った光孝は、まるで陸に打ち上げられたトドのよう。
みっともない姿ではあるが、それ以上に反撃が怖いので。なおも
それから静かに、そして素早く食堂を去って行くのに成功するのだった。春海は意外とビビりなのか、喧嘩沙汰には加わる素振りは無くて助かった。
まぁ、あのポッチャリ体型だと喧嘩も強くは無さそうではある。
――何にしろ、
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