第15話 4日目の探索活動
何だか自分自身で、洋館での行動範囲を
ただし、それによってこの広大な館の行き来が、面倒になってしまっている感は
厄介に絡んで来る連中さえいなければ、3食と自由が約束されている館の生活は快適そのものだ。もっとも、毎日の“夢幻のラビリンス”
とは言え、時間制限も特に無いので、その点では気が楽に探索に赴けると言うモノ。もっとも、大きな目標である祖父のかつての持ちカード収集が
朔也としても頑張りたいのだが、
それでもこの3日で、何とか盛り返して主力カードも揃って来た。どれも低ランクのカードには違いないけど、ダンジョン低層をうろつくのに不便はない。
むしろ、MPコストに見合った召喚ユニットとも言えるし。
それから昨日の夜は、夕食後に貰った教本でしっかり探索関係の勉強もこなしてみた。そこに書いてある探索者の常識は、初心者にはとっても響いて為にもなった。
例えばダンジョンは成長するとか、その中で死亡した探索者は半日でその栄養分になってしまうとか。着ていた装備品も、ダンジョンに再利用されて宝箱の中身になるそうな。
何とも不思議な特性を持つダンジョンだが、日本どころか世界中に無数に存在するようだ。朔也の地元の町にしても、10個以上は生えているのは聞いて知っている。
ただし最近はその管理もしっかり成されており、ダンジョン=町の資産的な認識に。何しろ今となっては、安全でクリーンな魔石エネルギーは生活に欠かせない存在なのだ。
その他の各種レア素材や、金銀などの価値の高い資産にしてもそう。ただし幾ら儲かるからと言って、探索者の人気が必ずしも高いとは限らない。
何しろダンジョン探索は、自分のたった1つしかない命を懸けるのだ。たった1度の失敗で、人生をリタイアなんてのは良くある話で改めて取り上げる程でも無い。
そんな中、祖父の
老執事の
朔也にしてみれば、生前に全く接点が無かったのが残念でならない。それだけに、祖父が愛用していたカードの1枚でも収集してみたい気持ちは充分にある。
とは言え実力が追い付かず、今日も張り切って朝から祖父の元執務室に来てみたモノの。予定としては、やっぱり第1層をうろつき回ってのカード収集になりそうな予感が。
歯がゆい気もするが、まずは堅実にレベルアップを頑張るのみ。
「おはようございます、朔也様……毎日早い活動には、本当に恐れ入りますな。この調子で、カード化のスキルも向上させて、目的のカードをゲットして下さい。
日数は限られていますから、のんびりはしてられませんぞ」
「ええ、まぁ……頑張りますけど、A級以上のカードをゲットなんてかなり難しいですよね。いつになる事やらって感じですよ、取り敢えずは2層到達を目標に、今日はぼちぼち頑張ります。
他の従兄弟たちは、僕よりもっと進んでるんですよね?」
「いえ、それが……元から探索者の活動をしていた、
皆様がほぼ全員、召喚カードの戦力頼りで何とかって感じですね」
若い執事の金山も話に加わって、従兄弟たちの現状を報告してくれた。朔也としては、自分が大きく出遅れていない事実にホッと安堵のため息。
レベルに関しても似たような数値で、カード化の数では朔也の方が大きくリードしているらしい。どうやら他の従兄弟たちは、自身で戦闘して敵を倒すって考えは無いみたい。
それは昨日少しだけ話した、
そう言う意味では、朔也はラッキーだったのかも知れない。“夢幻のラビリンス”での探索目的は、祖父の愛用していたカードの回収に他ならないのだ。
つまりは、レベル上げや階層渡りは2の次って事でもある。まぁ、その2つが伴わなければ目的のカードに近付けないって理屈もあるかもだけど。
とにかくその言葉に、ちょっとだけ安心して今日も頑張ろうって気になれた朔也であった。老執事の毛利からは、近々大幅なテコ入れを新当主の
要するに、現状に
毛利は笑いながら、新当主に伝えておきますと一言。
「確かに急かされたって、急にレベルが上がったり探索が上手くなる訳ではありませんからな。新しい召喚カードや何かしらのアイテムを用意するよう、
朔也様も、他の者達に負けずに頑張って下さい」
そんな励ましに導かれ、朔也は4日目の“夢幻のラビリンス”へと入場を果たす。それから素早くメインの仲間を召喚しての、いつもの手順で探索準備を進めて行く。
突入前の準備に関しては、念の為に帰還の巻物を追加で購入した程度。使った事は無いけど、これで巻物は2枚となって気持ち的に少し余裕は出来た。
そして今回出た先は、どうやら昨日と同じく密林エリアらしい。初めて経験済みのエリアに出てくれて、探索にもちょっとだけ余裕が出て来そう。
経験と言うのは、それだけ大きいし進む方向も迷わなくて済む。今回も獣道は左右に2本だが、恐らくどちらへ向かっても間違いって事は無い筈。
そして早速、幾らも歩かない内に人の子供位の大きさのアリがお出迎え。そいつ等は3匹いたけど、隻腕の戦士は相変わらず頼りになる。そして戦闘コックに関しては、相変わらずの指示待ちスタイルといつも通り。
分かっていたけど、このパペットは朔也の指令が無ければ自衛の戦闘すらこなしてくれない。そんな彼に1匹の迎撃を命じて、朔也もゴブから入手した剣を手に前へと出て行く。
そんな初戦だが、数分も掛からずにこちらの勝利で終わってくれた。ドロップも上々で、魔石(微小)が3つと蟻の甲殻素材、それからカードもゲット。
今日は最初から、ツキがあるようで嬉しい限りである。
【密林アリ】総合F級(攻撃F・忠誠F)
まぁ、予想通りの雑魚モンスターではあったけど。恐らく召喚しても、昨日の蜘蛛と同じく戦力にはなってくれ無さそう。ちなみにカーゴ蜘蛛は、召喚して安定の荷物持ちの役割を果たしてくれている。
今の所は、貰い物のカードしか活躍してくれていないのは寂しい限りだ。ただし朔也も、パペットコックへの指示の出し方に慣れて来て、壁役位は即座にして貰えるようになって来た。
そんな感じで時間を稼いでくれていれば、隻腕の戦士が自分の敵をさっさと倒して駆けつけてくれる。朔也もフォロー出来るし、少しずつフォーメーションが出来て来た気も。
後はフワフワ飛んでいる、妖精の上手な使い方と言うか……忠誠度がBと抜群に高い彼女だが、実際は戦闘には積極的に参加はしてくれない。
よっぽど朔也がピンチになれば、恐らく手は貸してくれるとは思うけど。渡した魔玉の数にも限りがあるし、ホイホイ使われたらあっという間に破産してしまう。
そう言う意味では、彼女の戦闘参加は少ないに限る。だったらどう有効利用するかと言えば、ズバリ行き先を問えば良いのだ。
「さて、この後はどっちに進もうか……今日もちょっと頑張って、是非とも第2層に降りてみたいんだよなぁ。
どっちに行ったらいいかな、お姫さん?」
妖精の呼び名を“お姫”としたところ、彼女も気に入って貰えてコミュニケーションがよりスムーズに。チビ妖精のお姫は、ちょっと考えた末に右の獣道を指差してくれた。
朔也はそれに従って、右に続く獣道に沿って進む事に。ちなみに、戦闘貢献度の物凄く高い
これはまぁ、朔也の元に辿り着いたのも何かの“
それでも自分の事だとは分かっているようで、特に嫌がる素振りも無いので今後はこれで通す事に。戦闘コックとカーゴ蜘蛛は、もう少し活躍してくれたら名づける予定。
そんな日が来るかは不明だが、来て欲しいなと切に願う朔也である。特に戦闘コックに関しては、指示出しするのに名前が無いと超不便なので。
今の所は仮称で“コックさん”と呼んでいるけど、このまま定着する前に大活躍を見せて欲しい。そんな事を考えていると、一角ネズミの群れと遭遇した。
そこからすぐに戦闘に移行、先手でコックさんに遠隔攻撃を命じる。
放たれたナイフは、見事に敵の群れに命中を果たした。興奮した一角ネズミたちは、傷を負いながらも角を振りかざして突進して来る。そして戦士エンの攻撃範囲に入った途端、見事な斬撃に
朔也も何とか、弱った奴に止めを刺して見事に1体の《カード化》に成功した。今日は何だか調子が良い、ほんの20分の間にこれで2枚目である。
それから魔石やドロップ品を全て回収して、朔也は探索の続きに勤しむ。順調だと言って気を抜いては、いつ逆襲に遭うかも分からない。何しろ相手はダンジョン、その全貌は未だ不明なのだ。
とか思ってたら、妖精のお姫がまた例のアレがあったよと教えてくれた。指差す方向に目を凝らしてみると、どうやら1本の樹に群がるモスの大群が。
これはラッキーかも、今回も一気に経験値ゲットのチャンスである。お姫に魔玉を使っていいよと言付けて、朔也は仲間と張り切って戦闘準備。
2度目となると、あの大量の大蛾の群れの相手も余裕を持ってこなす事が出来る。魔玉の爆発で弱った連中を、戦闘コックに指示を出しつつ、自らも剣を振るって叩き落とす作業。
それを5分も続けただろうか、一時期囲まれて息継ぎがヤバい瞬間があったのだけれど。朔也も魔玉を使って、何とかそれを乗り切る事が出来た。
結局は、解毒ポーションを1本飲む程度の被害で、この
それからお楽しみのドロップ品集め、チビ妖精も手伝ってくれて彼女も相当にご機嫌そうだ。そして驚愕の、何と魔石(微小)が一気に30個も集まってしまった。
毒の鱗粉入りの瓶も、8本も拾えて大収穫である。この戦闘だけで、恐らく4万円以上稼げたのではなかろうか。魔玉とポーションは減ったけど、完全にプラス収益に思わずニンマリ。
妖精のお姫と一緒に、笑いの止まらない朔也である。
ダンジョンを出たら、忘れずに消耗品は補充しておかないと。何しろ午後からは“訓練ダンジョン”へと探索に向かう予定だし、ポーションも魔玉も命綱である。
まだまだ弱っちい、探索初心者の朔也にとってはまさにそう。油断して良い立場では決してなく、そんな一瞬の気の緩みで大怪我どころか命の喪失に繋がってしまうのだ。
偉大な探索者の祖父も、若い頃にはそんな時期もあったのだろうか。敷地内にダンジョンを抱えるとか、探索者でない者にとっては酔狂でしか無い行為だと思うのだが。
能力のある者にとっては、まさにレベルアップも可能な稼ぎ場である。そう言う意味では、祖父は勤勉に能力アップに励む探索者だったのだろう。
朔也にすれば、未だに雲の上の存在ではある。
――既に亡くなってるって意味でも、本当に手の届かない存在だったり。
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