第13話 初の渓谷エリア
老ノームとしばし歓談し、彼の
どうやらお酒とか辛い系のおつまみを持って来いと、そんな感じの
難しいミッションだが、何とか館からお酒とおつまみをゲットする方法を考えないと。そんな話をしながら、他にも合成装置の使い方についてなど、詳しい説明を聞き込んでみたり。
幸い老ノームのアカシアは、面倒臭がらずに朔也の話し相手になってくれている。ひょっとして祖父が生きていた頃には、酒を飲み交わす間柄だったのかも知れない。
まだ思いっ切り未成年の朔也には、無理な交流には違いないけれど。老ノームはそんな彼の相手も、面倒臭がらずにしてくれて有り難い限り。
そんな会話で得た知識で、朔也は何とかこの合成装置の特性を推測してみる。要するに、カード同士や魔石や特殊素材など、ダンジョン産のアイテムでの強化が可能みたい。
それのメリットだが、例えば愛着もあって戦いのフォーメーションも慣れているカードが手元にあったとして。ひょんな事から、ランクの上の奴を《カード化》でゲット出来たとする。
新たにそいつを味方として使って、戦術を1から教え込むよりも。古参の兵を合成で強化して、ずっと使い続ける方が合理的だって感覚だろうか。
それには朔也も、なるほどと得心がいった表情。
「それはいいかも……お爺さん、このカードの組み合わせで強くなる奴、何か無いかな? ちょっとお試しで、カードの合成を試してみたいかも」
「お前さん、
ついでに装置の燃料用の魔結晶に、それから各種素材も多ければ多い方がええな。そこに転がっとる空き箱を、お前さんの道具入れに使うとええよ。
探索での回収品を、その中へ溜め込んでおいても誰も盗りゃあせん」
「あっ、それは嬉しいな……ありがとう、お爺さん」
何だかんだと優しい老ノームの心遣いに礼を言い、朔也はそろそろ午後のダンジョン探索の準備を始める。昨日探索した台所エリアは、今日は取り敢えず置いておくとして。
墓地エリアは、アンデッドに対して備えが出来ていないからパス。そう言うと、老ノームは後ろの棚から古い水鉄砲を取り出して来てくれた。
どうやら貸して貰えるらしく、魔法アイテムなのかやけに格好良いデザインだ。使い方は、浄化ポーションをアタッチメントのように、上部から差し込めばオーケーの様である。
それで敵に向かって放てば、聖水系の苦手なモンスターはダメージを受けてくれるみたい。これは心強い装備品だけど、浄化ポーションが手元に2本しかない。
朔也は悩んだ挙句、やっぱり墓地エリアは明日に取っておく事に。浄化ポーションをしこたま買い込んで、準備万端で乗り込む方が良いに決まっている。
そんな訳で、今日は必然的に残りの1つのゲートに潜る流れに。確か渓谷エリアだった筈だが、どの程度の難易度なのかは入ってみないと分からない。
そして昨日よりは、断然に準備は整っていると思いたい。特にさっき購入した、腰に巻いたベルト式のポーションホルダーの存在感たるや。
既にポーションや解毒ポーションを差し込んで、魔玉も幾つかポーチの中に放り込んである。もちろん妖精にもお裾分けして、事前準備はバッチリだ。
それからゲートにインして、常連となった【負傷した戦士】と【戦闘コック】をすかさず召喚する。ついでに従兄弟に貰った、【カーゴ蜘蛛】も初召喚してみる事に。
まじまじと眺めてみるけど、体格はともかくあまり強そうではない。
【カーゴ蜘蛛】総合E級(攻撃F・忠誠D)
人が乗れそうな程に大きな蜘蛛だが、コイツは戦闘用では無いみたい。背中に大きな籠を背負っていて、荷物運搬用のモンスターなんだなとハッキリ分かる。
まぁ、これで
何よりそれが一番かも、取り敢えず後ろからついて来るようこの蜘蛛には命じておいて。それから鍋フタの盾を召喚して、自身も戦闘に備える朔也である。
その途端に、胸のカードがピロンと告知のベルを鳴らして来た。何事かと思って確かめると、どうやら例の妖精のカードのクエスト欄が更新された模様。
“希望の妖精のクエストボード”
『ダンジョン内で《カード化》を10回成功させろ』
『腹筋、腕立て、背筋20回1セットを3日続けろ』
『レベルを5に上げろ』
『鑑定の書を10枚使用しろ』
『水1リットルを一気飲みしろ』
『ダンジョン3階層に侵入しろ』
『違うダンジョン3か所に侵入しろ』
『ダンジョン内で宝箱を発見しろ』
「おっと……クリアしたクエストが消えて、新しいのに変わってるや。嬉しいな、クリア報酬でも良いアイテムがちゃんと貰えたし。
《カード化》10回は、何とか今日中に達成出来るかな?」
そう呟く朔也に、妖精は飛翔しながら頑張れのポーズで応援を飛ばしてくれた。朔也もガッツポーズで返して、さて本格的に探索に集中し始める。
出た場所は目論見通りの渓谷エリアで、両サイドが断崖の道がくねくねと続いている。断崖の高さは軽く30メートル以上、道幅は広い所でも5メートル位だろうか。
時折落石で道幅が狭くなった箇所や、断崖から生えた木々で視界が悪い箇所も見受けられる。敵の襲撃に備えながら、そんなルートを進むのはちょっと大変そう。
それでも“訓練用のダンジョン”なので、そこまで強い敵も出て来ないだろう。そう自分に言い聞かせて、朔也は召喚モンスター達に号令を掛けて剣と盾を手に進み始める。
このエリアも、幸いにも陽光なのか明かりは充分でこちらが照明を用意する手間が必要無い。それを有り難く思いつつ、敵の気配を探りながら進んで行く。
そして早速出て来たのは、女性型の翼を有する小柄なモンスターだった。ハーピーとかそんな感じだろうか、頭上を取られて一瞬冷やりとチームに緊張が走る。
ところが
「うわっ、上からか……コックさん、お玉の投擲で迎え撃って!」
敵は複数匹いたようで、味方がやられたのを察知して物凄い騒ぎよう。ギャーギャーと喚く声音は、間違っても人間のそれでは無い音域と声量である。
それでも怖気付く事なく、朔也は何とか頭上からの襲撃を鍋フタの盾で器用に
それが功を奏して、5分後には何とか全てのハーピーは魔石へと変わっていった。相変わらずの戦士の腕前はさすが、そしてカード化した敵は存在せず。
朔也もどさくさに紛れて、1匹に何とか斬りつけたりしたのだけれど。完全に止めを刺すには至らず、カード化作業については残念な結果に。
それでも初戦は快勝だったし、出だしは順調で探索に弾みもつくと言うモノ。そのまま峡谷を進んで行くと、間を置かずに次のモンスターの襲撃が。
今度は土色の大トカゲの様で、壁にへばりついて保護色を使って奇襲して来た。とは言え完全に騙せてもおらず、隻腕の戦士がカウンターで壁から叩き落す。
そこからは、朔也も協力してのフルボッコ作業へ。敵の大きな口は、咬み付かれたらさぞ大変だっただろう。まぁ、間合いにさえ気をつければ、何て事もなく戦闘終了へ。
探索から15分、まずまず順調な道のりである。
「これも残念……戦闘に参加してるのに、なかなかカード化が成功しないなぁ。まぁ、F級のカードを増やしても即戦力にはならないだろうけど。
それでも合成に使えるかもだし、一定数は集めたいよね」
そんな朔也の呟きに、隻腕の戦士も戦闘コックも無反応で側に
愉快でユニークな仲間達だが、幸いにもこの“訓練ダンジョン”の1層程度なら何とかなりそう。ただまぁ、欲を言えば後衛のサポート要員も欲しいし前衛も欲しい。
そこは朔也のMP量にも依存するし、何とも言えない問題ではある。つまりは自身のレベルにも関係していて、こうやって経験値を溜めて行くのも大事な作業には違いない。
そしてこの峡谷エリアだけど、敵の数は幸いにも豊富で有り難い限り。種類の方もかなりいるようで、次に出現したのは動物タイプの角の立派なヤギだった。
コイツはほぼ垂直な壁を駆け降りて来て、その突進をまともに喰らえば大ゴトだった。朔也は何とか躱す事に成功したけど、指示を出し忘れた戦闘コックはボーリングのピン状態で悲惨な目に。
派手に吹き飛ばされて、何とその1発で倒される始末。
まぁ、敵のヤギも自身へのダメージが酷くて、渓谷の底でフラフラ状態になってたけど。それを隻腕の戦士が一撃で倒してくれて、取り敢えず安全は確保出来た。
ピヨッた敵が相手だったので、出来れば朔也が止めを刺したかった。まだその辺の意思の疎通は確保出来ておらず、ここもカード化無しの残念な結果に。
それでもヤギは魔石(小)と立派な角をドロップしてくれて、朔也のテンションはちょっとだけ上昇。何より後ろから付き従うカーゴ蜘蛛の、初の見せ場と言うか仕事が出来た。
角は朔也の両手から少しはみ出すサイズで、リュックに入れて歩くのも大変だ。そんな時にこの従者の籠は、余裕の収納で超便利と言う。
それを確認して浮かれていた朔也だが、倒されてしまった戦闘コックの問題はどうするべきか。思えば、戦闘で召喚モンスターが倒されたのは初の出来事である。
手元に戻ったカードを確認すると、【戦闘コック】のユニット表示は灰色に変わっていて再召喚にはしばらく掛かりそう。さて困った、探索を始めたばかりなのに戦力半減だ。
考えた末、カーゴ蜘蛛もいるので【密林クモ】を召喚する事に。コイツも忠誠Fだけど、自衛はするし
ただ、コイツのメイン戦法は蜘蛛の巣を張っての待ち伏せなので、移動しながらの狩りには適さないかも。それでも蜘蛛の仲間がパーティにいるので、ご機嫌に従ってくれる可能性も。
そんな願いで召喚した【密林クモ】だったけど、案の定こちらの指示には反応が鈍い。それでもチームが移動を始めると、カーゴ蜘蛛と一緒に後ろをついて来てくれてひと安心。
そこから
大声を上げて盾で撃ち落とした朔也だが、何とか自力で1匹撃墜に成功!
相方の隻腕の戦士だが、朔也が1匹倒す間に3匹は撃墜していたようだ。後衛の蜘蛛2匹に至っては、タゲにもなっておらず呑気に
これは大いなる作戦ミスかも、とは言え他に代案も思いつかない。朔也の前衛能力なのだが、子供の頃に格闘技を習ったとかの履歴は当然無い有り様。
ナンチャッテ剣術でここまで
それがここまで順調に来れた、唯一の大きな要因なのかも。
――そしてこの先も、頼りっぱなしになる予感がヒシヒシ。
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