圭介

「圭介」eleven

「ええ、おはようございます」

 クラスの生徒は早く終われと言わんばかりの視線を僕に向ける。

「早く終わって欲しそうなので早く終わります」

 囃し立てる声が響き渡る。こちらもこちらで面倒だ。

「はしゃぎすぎないように。串とか気をつけてね。子供も来るから」

 うい、行ってきなさい。と発破をかけると、一目散に飛び出した。生徒もいた。何人かはだらだらと友人グループと話しながら教室を出ていく。

 僕は校内を歩く生徒の中の一人に携帯を使用している生徒を見つけた。一組の時田という生徒だったはずだ。

「携帯いじんないでねー」

 注意すると生徒は徐に携帯に向かって

「なんか面白いこと言ってみろよ」

 と煽り始めた。

「携帯いじんないであげてね」


「圭介」twelve

 漫画文芸部のコーナーを訪れる。ボディペイントを催していて、結構、生徒からは好評のようだ。一般客の中にも、様々な絵が腕にあしらわれている人がいた。

「先生もなんか描きます?」

 女子生徒の一人が僕に聞く。

「うーん、じゃあ、もちの絵をお願いします」

「それじゃあ意味がないですよ」


 漫画文芸部はボディペイントだけでなく、ポストカードや小説、漫画、イラスト集の発売もしている。そちらの方に寄ると、詩音が接客をしていた。

「大将やってる?」

 と近づくと、詩音は涙ぐむような表情でこちらを見た。

「あ、せっきゃ、うあ」

 おおかた接客がままならず、この30分で死にかけているのだろう。本人曰く、辞世の句を頭の中が駆け巡っていたらしい。

 

「圭介」thirteen

 中庭ではバンドの演奏が行われている。supercellの『君の知らない物語』だ。ちょうど僕が高校生時代に何百回と聞いた曲で、思わず泣きそうになった。

 確か二組の面々だ。ボーカルが心愛、ギターが林道、ドラムが矢沢でベースが波岡だ。さらにキーボードを颯太が務めている。存在感は薄かった。

 青春の音が中庭の端から端まで響いている。体が何かで満たされていく。夏の日差しは強く、鬱陶しかったが彼らがそれを吹き飛ばした。

 心が動かされる、という言葉を初めて正しく使う瞬間を見つけた日だった。

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