音街
「音街」13
私には現在高校二年生の姉がいる。つまり、私と同じ校舎で学校生活を過ごしているわけだ。
名を意紀という。彼女は生徒会長を務めていて、もう一人の姉、望見とは違って几帳面な性格だ。それでも生徒からは愛されるようで、文化祭では忙しそうに各イベントを走り回っている。
やはり望見は大学を放って文化祭に来ていて、私も出逢いざまに頭を撫でられた。意紀も撫でられていて、しかもそれを大勢の生徒に見られていた。
生徒会長の威厳は何処へやら、意紀は顔を赤くして、何も言わずに望見の手を払った。
「音街」14
一年坊が生意気にと言われるかもしれないが、というか望見に実際言われたが、私はクイズ大会に出場する。青春真っ只中だ。
タッグマッチの早押し対決で、私は高田柿子と出場する。「猫眼鏡」というチーム名だ。
クイズの勉強は程々にして来たし、何より横に高田柿子がいる。向かうところ、何だったっけ。忘れてしまった。まあ、敵はいないだろう。
開催場所である第二体育館に移動する最中、私は中庭が見える渡り廊下を通った。ちょうどバンドが曲を披露している。夏と星の歌だった。真昼の中に夏の大三角が見えるような心地だった。爽やかなギターに、重く、それでいて優しいベース。キーボードも綺麗な音色だった。
何より、ボーカルの声が透き通っていた。思わずぼうっと立ち止まってしまう。
その後高田柿子が後ろから驚かしてきて、私は情けない声を上げてしまう。
「音街」16
クイズ初心者のくせに偉そうに語らせてもらう。クイズの最中はプレイヤーの中に宇宙が展開される。その中に色々な知識の星があり、息を止めてそこに辿り着くような感覚。
そう表現するのは、最近『メン・イン・ブラック』という映画の影響かもしれない。
とにかく、私はその時、そう感じていた。クイズを読み上げる声が輪郭を失い、私の宇宙の中にとける。その宇宙の中では、あのバンドの曲が流れていた。
何だか、いつもより調子が良かった。
残り一問。相手の二人もなかなか強かったが、あと一問取れば私たちの勝ち。
「日本語ではハニホヘトイ」
その後の問題文は予測できた。『ドレミファソラシドは何語?』だろう。
しかし、答えがわからない。忘れている。いくら手を伸ばしても星には少しも届かない。渦に巻き込まれるような静寂を、「ピンポン」という鋭利な音が切り裂いた。
「イタリア語」
高田柿子だった。とても澄んだ声。落ち着いていて、それこそ美しい秩序が守られた宇宙のようだった。一瞬の無音。段々とギャラリーの歓声が混ざっていく。
「第十二回、クイズ大会の優勝は、猫眼鏡の二人だ!」
私は高田柿子の方を見る。困ったように笑っていた。彼女はピースを、私はグッドを同時に手で作る。
私たちの間だけの小さな宇宙があるような気がした。
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