圭介

「圭介」one

 多分、生徒よりも緊張している。僕は一組の担任になった。生徒の前で何を喋ったかは覚えていない。そもそも、軽い自己紹介しかしていないはずだ。

「意外と自分が思ってる自分の印象と他の人が思ってる印象って違うよな」

 親友である碧生がこの前酒の席で悟ったように言っていたのを思い出す。頼む、そうであってくれ。

 入学式がいよいよ始まる。入学生代表挨拶は僕の持つ一組から出た。金色の丸眼鏡が特徴的な女子だ。

 高校生からはきらきらとした、しかしどこか初々しい気持ちが溢れてみえる。早くも自分の高校生活を思い出し、恋しくなった。

 しかし、母校ではあるものの高校で新生活を始めるのだから、高校生活とも言えるだろう。

 そんな詭弁で自分を落ち着ける。そうだ。実質高校生活だ。

「新任挨拶」

 この入学式には、新任の先生を壇上に呼びつけて保護者と新入生に晒し者にする地獄の儀式がある。

 しばらく記憶が飛ぶ。高校時代のイベントである弁論大会を思い出した。確かあれもあれも毎年ほぼアドリブだったはずだ。

 

「圭介」two

 確か三年の時にやった弁論は、フリップネタだったはずだ。とにかく型を崩したい一心で考えた覚えがある。

 

「圭介」three

 僕は漫画文芸部の顧問になった。こういうのは個人の意思でどれになるか決められるものではない。まあ漫画は好きだ。体育会系の部活よりよっぽどましだ。

 早速部室の門を叩く。少年漫画にはつきものの、入門編だ。修行パートは飛ばすまでも無く、こちらが学ぶことも少なさそうだ。

 部室は本校舎から渡り廊下を渡った先にある特別校舎の二階、第二アトリエにある。

 この並びだけだとどこかの花子さんが出てきそうでもあるけれど、今はそれどころじゃない。早く場慣れせねばなるまい。

 離れ離れと場慣れが似ていることに密かに喜びを感じる。

 

「圭介」four

 後からだから言えることだけれど、僕はこの時に想像していた以上に、漫画文芸部に関わることになる。学生時代、小説の執筆が趣味だったのもあったが、それ以上に、社会人になって漫画やアニメの趣味が合う人がいなかったのだ。

 生徒相手に何が漫画だ、と言われても仕方がないとは思う。しかし、少年ジャンプを毎週全ての漫画読むほどの人間になかなか巡り会えなかった。そんな中での、あの温かさは今でも忘れられない。あの三年間尽力したこともあってか、僕は未だ漫画文芸部の顧問だ。

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