一年目 五月
颯太
「颯太」六
そういえばバンドメンバーについて触れていなかったと思う。
ギターの林道、ドラムの矢沢、ベースの波岡、そして僕の構成だ。よくともに行動する四人でもある。前にも書いたかもしれないが、中学からの友人である。
さらにそういえば、これも言って置かなければならないだろう。これは僕が二十五歳の四月から書き溜めている高校生活を追憶した手記である。卒業から何年も経つが、やはり高校生活が人生で一番楽しい時期だったと思う。羞恥を忍んでこれを残すことにする。
さて、話題は戻るが、僕はこの時この四人でサイゼリヤで夕食を嗜んでいる。嗜んでいると言う割に騒がしくしていた覚えがある。
確かその時はバンド名の相談中だったはずだ。当時出た案では「ニャンニャンワンワンパオンパオンランド」や「ボーカルがいないボーイズ」、さらに「エトセトラ」などが出た。エトセトラに関しては痛々しいので却下になった。
その場の気運がニャンニャンワンワンパオンパオンランドに傾いてきた頃、矢沢がエスカルゴをジェラートにつけて食べるという暴挙に出た。そもそも何かの映画に憧れて食べ始めたが、その味に飽きてしまったようだ。
僕たちは笑う。
「あ、ジェラートエスカルゴ良くない?」
波岡がそう提案した。
「颯太」(あとから付け足したもの)
後日、クラスのマドンナ的存在に声をかけ、ボーカルが決定した。また後日、彼女には彼氏ができたことが判明し、男子の大半が絶望する。その彼氏は文化祭でフランクフルト屋を大成功に導くのだが、ここでは省いておく。
「颯太」七
ある日の放課後、むらこう共に放課後を過ごしていた時のことだ。むらこうとは、村上光輝の略称である。
彼と校内をふらついていると、一つの水筒が僕らの進路に立ちはだかった。カブトムシのような取っ手の蓋を自慢げに被った水筒だ。
蓋には何かがアルファベットで書いてあった。
「これ、なんか英語とかじゃなくてhoonって書いてない?」
「めっちゃかっこいいじゃん」
「え、これ逆から読むと?」
「uoo、なんだこれ。μか?」
むらこうがそう言う。僕はしょっちゅうアルファベットを逆から読んでいたので、
「hは強いて言えばyでしょう」
と言うと、彼は「それはなかなか強いたなあ」
と返した。なかなか上手い返しだと思うと、彼も今気がついたようで、目を見合わせて、見張って、笑い合った。
「颯太」八
五月には定期考査があった。一点差で二位、これが結果だった。いつもより凡ミスが多く、解放宣言を解方と書いてしまった時には悔しさに打ち震えた。心情を察したのか空も曇りになった。空気のくせして空気が読めるらしい。
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