「はじめまして。ぽぽじろちゃんです」


 喫茶店の最奥に座っていたは、椅子に座りながら礼儀正しく頭を下げた。


 状況を飲み込むのに30分はかかったのだが、本筋とは関係がないため割愛する。

 どうやらぽぽじろちゃんは、着ぐるみでも何でもない本当のホホジロザメで、普段は太平洋に生息しているらしい。

 サメの中では珍しい、人語を解するサメのため、防水のスマホで暇つぶしにSNSをやっていたところ、同族を食べることを肯定する人間が目についたため絡んできたらしかった。


「どうやってここまで来たんですか?」

「? 泳いできましたけど」

「……」

 どうやらぽぽじろちゃんは大気中も泳ぐことができるらしい。

「まあどうぞ。おかけください、思考さん」

 ぽぽじろちゃんは礼儀正しく俺のアカウント名を呼ぶ。

 もともと交流予定のないアカウントだったので、「思考さん」と呼ばれるのは少し新鮮だった。

 コーヒーを注文して、一口啜る。


「では改めてお話ししましょうか」

「……ええ」

「思考さんは、サメやクジラなどの海洋動物を食べることに何の抵抗もないんですね?」

 まさかサメ本人から言われる日が来るとは思っておらず、言葉に窮する。

「ねえ。美味しそうにフカヒレスープを飲んでいましたものね」

「……まあ、そうです。俺は別にサメやクジラを食べることに抵抗はないです。牛や豚、鶏。もっと言えば野菜だって同じですね。それらを食べることと大きな差は感じません」

 ぽぽじろちゃんは悲しそうな表情で頷いた。

「思考さんは先日、海洋動物に知性があっても、それは関係ないと言いましたね」

 俺は首を縦に振った。

 まさかこんな知性レベルのやつが出てくるとは夢にも思わなかったが。

 人じゃん。

「人間より頭が悪いなら、そこに差はないと」

 俺はもう一度頷く。

 するとぽぽじろちゃんは目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。


 口呼吸なんだ。


「ではもし」


 改まった声色。


「もし、人間よりも頭のいい生物がいた場合、あなたはその生物を食べないのですか?」

「どうだろう。食べない気がするな」

「ふむ。ではもし、、あなたはどう思いますか?」


 その問いに対して、俺は少しだけ考えた。

 考えて、発信した。


「もしそんな生物がいるのなら、人間が食べられてもしょうがないかな、と思う」


 それを聞いたぽぽじろちゃんは残酷な笑みを浮かべた。



「それでは今から私と、知恵比べをしましょう」

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