フカ

姫路 りしゅう

孵化

 SNSで変なやつに絡まれた。

 何気ない投稿が変な人間の目に留まって、変な喧嘩を売られるのはもはや交通事故のようなものだったし、確かに俺の投稿は少々過激だったかもしれない。だからそういったリプライが来ることも、ある程度頷けた。


――――――――――

思考 @EdHiK-kZk6g


海洋生物を食べることに反対する団体の八割はフカヒレスープ飲んだら退会するだろうな。美味すぎるので。

――――――――――


 この投稿をした直後、繋がりも何もない『ぽぽじろちゃん』というふざけたアカウントから「サメを食べるなんてありえない」というリプライが届いた。


 プロフィールを見ると、予想通り海洋生物を食べることに反対する団体に所属しているようだった。

 SNSへの投稿は独り言のようなものなのでいちいち噛みつかれても困る。カチンと来た俺は返信を送った。


「なぜ食べるのが有り得ないのでしょうか。フカヒレやクジラを食べるのも、牛や豚を食べるのも同じじゃないでしょうか。」

「違います。サメやクジラには。あなたは人間を食べるのですか?」

「論理が飛躍しましたね。人間は食べませんよ。人間を食べないこととサメやクジラを食べることは別問題です。」

「同じです。ペットとして飼っている犬や猫を食べるのですか?」

「私は食べませんが、食べている人がいても何も思いません。そもそも知性のあるなしで判断をするのなら、牛や豚にもわずかながら知性はあるはずです。それらを食べるのはいいのですか?」

「海洋生物は、牛や豚よりもはるかに賢いです。」

「私たちは人間なんだから、基準は人間でしょう。それらが人間よりも賢くないのなら、等しく食べていいと思います」


 そう送ったら少しだけ反応が止まり、ダイレクトメッセージが飛んできた。


「直接会って話しませんか」


 反射で「会うわけねーだろ馬鹿」と思いスマホを投げ捨てたが、しばらくしているうちにじわじわと好奇心が浮き上がって来た。

 どんな人なんだろう。

 この人はどんな年代のどんな人間で、なにがあって海洋生物を守ろうと考えたのだろう。

 自分の人生を振り返ってみても、海洋生物を守ろうと志すタイミングは一度もなかった。

 気になった。

 この人の話を聞いてみたいと思ってしまった。

 ちょうどよく相手は都内のわりかし近いところに住んでいたので、俺はとある喫茶店を指定した。


「来週、ここでお会いしましょう」



**


 翌週、喫茶店の扉を開けると



 一番奥の席にホホジロザメが座っていた。 

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