第8話 謎の現象×主人公
「な……んだと」
しかし、綺羅は冷静に土壁を作り出し、俺の炎を難なくガードする。炎と土壁の攻防が5秒ほど続き、火と土が激しくぶつかり合ったが、同時に炎は切れ、土壁は崩れ落ちた。
「綺羅、なんでお前配信やってないんだよ。」
綺羅の実力を目の当たりにして、思わず口から言葉がこぼれた。
「はあ?普通、高校生で配信しねえって。良い大学に行かないといけないし、そもそも大変なんだよボケが。」
苛立ちが募る。綺羅の要領の良さに嫉妬している自分がいる。確かに高校生で配信している者は少ない。大抵高校卒業してから始めている人が多いイメージだ。それは危ないからって親が止めるのもそうだろし、大多数は部活や受験で忙しいからだろう。
なんというか俺より考え方大人じゃねえか。めちゃくちゃムカつくな。
火の粉がパラパラと落ちる中俺は綺羅を睨みつける。それにしても昨日の雑魚魔物から一転してレベルが高すぎる。頭が回らない。集中力が保てない。
弓矢を顕現しようとするが、思うように力が集まらない……ちなみにモテない、汚い、つまんない。今の俺は正にないない尽くしだ。
「雑魚魔物を少し狩っただけで調子に乗りすぎなんだよ」
綺羅の言葉が刺さる。確かに俺は雑魚魔物をオーバーキルしてみどりちゃんねるのおかげで運よく注目を浴びただけのただの凡人だ……それでも、手に入れたチャンスを諦める訳にはいかない。あいつを見返す為にも……!
俺は千鳥足気味でありながらも全力で近づこうとする。
「ぐあっ」
土壁で一発殴られる。それでも走り続ける。
「うっ」
足に土壁二発目の殴打がされ、俺は無様に倒れた。痛みが体中に広がり、呼吸が乱れる。目の前の景色はぼやけ、意識が遠のきそうになる。
配信アナリティクスが目の端に映る。投げ銭額は気付いたら四万円になっていた。
「まあ、特殊スキルっていってもこんなもんか。やっぱりつまんねえ奴だな」
綺羅は冷淡にそう言い放ち、俺を見捨てて去ろうとしている。ここで終わる訳にはいかない。視聴者たちが見守っている。俺の戦いは……復讐は……まだ終わっていない。
「まだ……終わってねえ……」
声を絞り出し、俺は再び立ち上がる。視聴者たちの応援コメントが流れる。
全力で走り出し、今度こそ綺羅に追いつく。右拳を振りかざし、渾身の力で一撃を放つ。
綺羅はつまらなさそうな顔を見せたその瞬間、彼は冷静に身を翻して俺の拳を避けた。そして、次の瞬間、俺のみぞおちに強烈な一撃が入る。
「ぐえっ……!」
俺は苦痛に顔を歪めながら倒れ込んだ。息が詰まり、全身に力が入らない。視界がぼやけ、頭の中が真っ白になる。殴り慣れてやがる……
「一生そうやってはいくつばってろ。負け犬が」
綺羅の冷酷な声が耳に響く。苛立ちと屈辱が混ざり合い、胸の中で炎が燃え上がったが、体が言うことを聞かねえ。視聴者たちのコメントがちらつき、応援と失望が入り混じった言葉が飛び交っている。
その時、『投げ銭10万ポイントアンロック』という自動音声が聞こえた。
"きたー"
"10万ポイントって、普通火力1.2倍とかよな"
"もしかしたら10倍とかなるんじゃね"
"この男まじむかつくわ"
"やり返せ、立てよいますぐ"
『火属性と闇属性の魔法力向上します。』
"闇属性とかあったんか"
"闇属性ってなんだっけ"
"拘束とのサポート系に特化してる属性魔法よな"
コメントが驚異的な速度で空中ディスプレイを埋め尽くす。自動音声を聞いた綺羅は一瞬振り返る。
闇属性か……闇属性は扱いが難しくて練習でしか使ってない……というか実践で使える代物でじゃなかった。俺はぎりぎり意識を保ちながら、火属性の魔法ではなく完全に好奇心から先に闇属性の魔法を使おうと思った。
「いけっ!」
空中から巨大な黒い手が顕現する。綺羅をすっぽりと包める3m程度の大きさの黒い手が綺羅に迫ろうとするが、その動きはなぜか不安定だった。綺羅は一瞬驚きの表情を見せるも、すぐに鋭い目つきで構えを取る。
「は?」と俺は呟く。すぐにその黒い巨大な手は崩れ落ち、何も捕らえることなく消え去った。
消失して啞然とした俺と綺羅だったが、一瞬のうちに、右腕に異変を感じた。何かが起こる予感がして俺は右手を見る。
現実とは思えない出来事が起こった。俺の爪が瞬時に真っ白に変わり、異様に長く伸び、不自然なカーブを描き、長さは2倍にも及ぶ。俺の右腕も急速に太くなり、その色は外側が青銅色に、内側が日の光を浴びない部分は白色に変わっていく。
「は?なんだよこれ」
混乱と驚愕の中、俺は声を上げる。
綺羅はそっと口を開く。「魔に近づいてやがる。地上の魔の濃度はゼロのはずだ」
その言葉に対する答えは見つからない。俺の身体がどんどん変化していく。何かが俺の中で目覚めようとしているような感覚がある。
「うわわわああああああ」
激痛が全身を駆け巡り、声も絶えず歪んでいく。首から頭にかけて、未知の形状が広がりつつある。その姿を理解することは不可能で、痛みだけが全てを支配する。
コメントから推測する事しかできない。
"白色の細長い角生えてるぞ"
"え?魔物化するん?"
"化け物じゃん"
"地上で見るの初じゃね?"
「あああああああああああああ」
意識が途切れ、闇の中に飲み込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます