第7話 クソナード vs ヤンキー


 放課後の中庭は、学校内の静かな喧騒とグラウンドの活気が交じり合う場所だ。夕陽が柔らかな光を差し込み、木々の葉がそれを受けて輝く。風がそよぎ、花の香りが漂い、心地よい静寂が庭を包んでいた。そんな場所に俺はクラスメイトの綺羅と見つめ合っている。


 いや、睨み合っているといった方が正しいだろう。


「逃げなかったみてえだな」

「うん、まあ」


 3mほどの距離をとりながら会話する。綺羅は不機嫌な顔をする。


「その容量の得ない返事……まじでムカつくなあ」


 綺羅の言葉に、空気が一瞬しんと凍りつく。彼の不機嫌さが、放課後の静寂をさらに強調する。

 こいつカルシウム不足すぎるだろ。牛乳とりなさいってお母さんいつも言ってるでしょう!


 綺羅は言葉を続ける。


「校舎裏に読んだ理由は大体わかるだろ?」

「ああ、俺をボコりたいんだろ。クソ野郎」


 正直、俺はこういう好戦的なセリフを言うタイプじゃない。だがしかし、これは良い機会だと思った。火に油を注ぎ、綺羅の怒りを煽ってやる。

 10万人いる配信者人生の始まりだ。新たなスタートをきるなら、少しは盛り上げないとな。麻也に振られた俺にはもう失うものは何も無い!ガハハハッ。


 クラスの調子乗っている奴を俺のスキルでしばく。その結果、俺は人気者になり、綺羅は居心地が悪くなって、クラスで幅を効かせづらくなる。


 完璧なプランだ!思わず笑ってしまう程の完璧なプラン。


「へえ、雑魚で端っこにいる癖によく言うじゃん」


 今の発言で分かった……やっぱり綺羅は自分以外に目立つ奴が単に気に食わないだけだろう。


「配信つけろよ。お前の普段の能力じゃどうせ俺には勝てねえ」


 言われなくてもそのつもりだ。


 中学で魔法が一番強いって噂では聞いた。病院送りの噂も本当だろう。高校生になったらだいぶ減るが、中学で魔法を喧嘩で使う奴はそう珍しくない。というか、喧嘩で目に爪をブッ刺して失明させようとするキチガイタイプとかじゃないよなお前……


 「うーん……まあ、今更考えたところでどうしようもない」と判断し予定通り圧倒的火力で勝つ脳筋戦法で行く。


「配信は最初から開始してる。」


 相手にも分かるように空中ディスプレイの配信画面を表示する。


「なるほどな。俺を投げ銭の餌にして、倒すってことだ。」

「そっちから先に喧嘩仕掛けてきたんだろ」

「ふん。ぶっ潰す」


 投げ銭額はまだ一万円にも達していない。フォロワーは10万人もいるが、まだ俺に投げ銭するほどの価値がある男、信頼がある男だとは思われていないようだ。フォロワーの数を過信していたな……と痛感する。


「お前のその偉そうな態度、今日で終わりにしてやるよゴミ野郎」


 やべえ、ちょっとイキりすぎた。俺の宣戦布告に、綺羅は今にも血管がぷつんと切れそうなほど怒りを顕にしている。やべ、さすがに言い過ぎたかも。


 綺羅は手を地面につけた。


 やっぱり噂通りの土属性か。瞬時に地面から硬化した土がせり上がり、俺の股下を狙ってくる。こいつ、意外にせこい!


 どんなに強靭な男でも金的を狙われたら絶体絶命だ。綺羅……!確実に俺をいたぶろうとしてやがる。


 地面が動く振動の予感がするが、その予感の時間が短いな。思った以上に熟練者だ。恐らく特級、上級、中級、下級の中で中級には位置すると思う。


 高校生で中級はガチガチのエリートやんけ。高校生だと県に一人いるかいないかだぞ。


 投げ銭されていない俺はお手本のような下級。このままだと厳しい。逃げながら炎を繰り出す。綺羅は土壁で難なくガードしてしまう。


 「くそっ、やりづれえな」そう呟くも突然、視界の外から土の塊が俺の左頬にめがけて飛んできた。反応する間もなく、それは俺の顔面に直撃する。


 「なっ!?」


 脳が割れそうだ。ぐわんぐわんする。


 頭の中が一瞬真っ白になり、視界が揺れる。痛みが波のように押し寄せ、全身が震える。

 どうやら、綺羅は土属性を使った攻撃の応用も得意らしい。


「くそっ……」


 必死に体勢を立て直そうとするが、地面が歪んで見える。視界がぐるぐると回り、足元がおぼつかない。綺羅の冷笑が聞こえてくる。


「おいおい、もう終わりか?さすがに弱すぎだろ」


 その声が遠くから聞こえる。俺の心に刺さるような言葉だ。初配信でこんな情けない姿を見せるわけにはいかねえ……

 

 勝たないと……もっと人気にならないと……麻也を見返すことができねえ。つまらない学校生活もそろそろ変えてえ。


「まだ終わってねえよ……」


 声に力を込め、必死に立ち上がる。視界がぼんやりとしている中、心の中で自分を奮い立たせる。俺の火属性の力を、もっと強く、もっと激しく燃やさなければ。

深呼吸をし、炎の力を全身に巡らせる。手のひらに集中し、灼熱の炎を生み出そうとした時……


『10,000ポイントアンロック』と自動音声が聞こえた。マジか。視聴者ナイスタイミング!


「くらえっ!」


 俺は叫び、手のひらから縦2メートルに及ぶ火炎を噴き出す。猛烈な熱が周囲を照らし、1000人を超える視聴者たちの歓声のコメントが流れる。


「な……んだと」



◆◆◆


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストで30位以内目指してます。現在46位です。

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