第6話 パンツ×パン二個×凛音


 俺は心の中で「なにやつ!?」と思い、顔を上げる。


 目の前にいたのはクラスの中心人物である綺羅俊介きらしゅんすけだった。


 一年五組は基本的には明るい良いクラスだと含みを持たせたが、基本的にはということは多少イレギュラーがあるって事だ。


 そのイレギュラーは綺羅の事だ。


 こいつがいなかったら、一年五組は明るい良いクラスで終わるんだが、綺羅がいることによって治安が少し悪い。というかこいつだけ治安が悪い。


 綺羅は容姿が良く、成績も良く、運動能力も高い。唯一の欠点は気性が荒いことだろう。なんでこの性格で成績が良いのか、俺にはさっぱりわからない。俺にその成績くれよ。


 綺羅は俺の前にある席を回転させ、俺と机一つ挟んで対面するような席の向きにし座る。お前その席じゃないだろと思うが、何も言わない。ピリピリとした空気が張り詰め、目が合う。その瞬間、綺羅が俺の机を蹴飛ばした。


「うぇっ」


 いてえ。机があばらの下周辺に直撃した。


「おい、放課後校舎裏に来い」


 ほっぺにチュウするのかなってぐらい顔が近い。こいつヤンキーか?


「え?」


 消え入りそうな声でなんとか返事をしたが、綺羅は返事を聞こうともせず、立ち去って行った。


 ああ、神よ、俺の命日が決まりました。どうか。助けてください。


 冗談はさておき、高校に入学して半年経つが、俺はあいつに話しかけられたことは一度もなかった。なぜ今になってと原因について考える。答えは一つしかない。俺が切り抜きでバズってる事実が気に入らないないのだろう。


 しかし気に食わない原因はなんだ?特にクラスで人気者になる未来は見えないし……


 とすると、バズった事で配信でフォロワーが10万人超えた事か。うん、これしかない。確かに、こういう配信業は一発充てるのが難しいと聞くし、多くの配信者は人気配信者になるため、試行錯誤して毎日企画を練っている。


 その一発をクラスのカスだと思ってたやつが運よくやってのけたんだ。


 ざまあねえな。クソが……


 心の中でそう呟きながら、俺は机を元の位置に直し、机の上に突っ伏した。


 こういう悪態をつかないと心が折れそうだ……


 人生はプラスマイナスゼロと言うけど、今日のマイナスはちょっと過ぎませんかねえ……昨日がプラスだったら、今日はマイナスって、ある意味でセオリー通りかもしれないけど、あまりにもマイナスが早すぎる。


 放課後どうするべきか。行かないってなると、あいつは何しでかすか分からない。先生に見張りでも頼むか……伊達に小学生の頃チクリの雪弥と言われてない。そう思いながら、ふと、閃いた。


「あっ、いい事思いついた」


 ぽつりと自分でも思いがけず声をあげてしまった。


 この問題はもう解決したと言ってもいいだろう。


 あと、凛音には投げ銭の件で礼を言わなくちゃな。前方を見やると、さっき教室に入ってきたばかりの凛音が、クラスメイトたちと楽しそうに談笑しているのが見えた。俺の事は無視して冷たいが、他のクラスメイトとの会話は意外にも気さくで明るい。


 俺がぼっちの理由ってあなたも少し関係ありません?クールだけど割と気さくで超美人のお前から無視されているってなると、他の奴から俺がストーカーって勘違いされてんじゃないの?そうだ、お前がぼっちの原因やったんや!


…………どうせクラス内で話しかけても無視されるので、俺は昼休みに呼ぶ事にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 昼休みになり一人トイレに向かう凛音を、俺は呼び止めようと声をかける。


「おい、凛音」

「あら、吹き出物くん」

「え、肌汚い?」

「そっちの吹き出物じゃないわ。噴射の噴き出物よ。」


 昨日の火魔法の事を言ってるのか……馬鹿にしてるな、この女。


 しかし俺は挑発には乗らない。咳払いをして、話を変える。


「俺のスキル本当だったろ?」

「そうね」


 昨日滅茶苦茶煽ってたのに、凛音はおもいのほか軽く答える。少し拍子抜けだな。


 しかし、これに関しては俺の功績ではなく、凛音のお陰である。素直に礼を言わないとな。


「とりあえず、昨日の投げ銭ありがとう。お金返すよ。」

「いいわよ。先月のお小遣いから少し出しただけだから」


 そう凛音は断る。


 高校生でお小遣い一万円は世間一般でみたら高すぎだが、こいつの親は会社の社長だ。結構儲かってるらしい。ぐぬぬ。これが資本主義か。資本主義の敗北者である俺は財布から一万円札を出した。


「受け取れって。」

「はあ…あなたから一万円?大丈夫なの?」

「おじいちゃんの財布から盗んだからでえじょうぶ!」


 凛音は訝し気な目で俺を見てくる。


「冗談だよ。お年玉貯めてるし、貸し借り作りたくないってだけ。」

「ふーん……わかったわ」


 納得いったのだろう。凛音はお金を受け取り、お金を財布にしまった。その後俺を見上げて意外な事を口に出す。


「一緒にお昼食べない?」

「は?」

「雪弥っていつもどこかで食べてるから、気になって」

「お?気になっちゃう?お?」

「うざ……」

「仕方ないなのお〜、じゃあ行くか」


 俺は待ち合わせ場所の一階に先に降りて凛音を待つ。ある程度時間が経って凛音が降りてきた。なんで俺がこんな「付き合ってるのがばれると、みんなにからかわれるから嫌!」とほざく、付き合いたての中学生みたいな事せなあかんのじゃ。

 

 勿論そんな事言えるはずもなく、集合した俺たちは目的地に向かった。


 歩いて5分して目的地に辿り着く。俺の目的地は体育館の横だ。体育館の二階へ真っ直ぐ続く階段が設置されている。その隣には静かに佇む用具倉庫があり、体育館からわずか三メートルほどの距離で離れている。俺は体育館と用具倉庫の間に位置する、用具倉庫の側面にある一段のコンクリートでできた段差に座り込む。


「用具倉庫の段差?へえー、こんなとこで食べてるのね」


 凛音はまるで以前から知っていたかのように、わざとらしく呟いた。


「いえす」


 俺はパンをむしゃくしゃ食いながら頷く。くぅーっ、パン超うめえ!パンを二つ両手に持ちながら食べるパン2(パンツー)食事法。これがマイブーム。みんなも真似してね!


「ちなみに、なんで?」

「んー、ここからだとパンツが見える事に気づいて、ずっとここいる。」

「あなたね……」


 ドン引きしていた。パンツー食事でパンツを眺める。ハンターハンターならぬパンツーパンツ。これが辞められないんすわあ……忍者飯の梅かつお味に匹敵する中毒性を誇ると俺は思っている。


 用具倉庫横は、まるでスカートの中を覗くためにデザインされたかのような理想的な場所だ。距離感はちょうど良く、普通の階段でも覗き見が可能なほどだが、何といってもその階段がスケルトンであることがポイントだ。100点満点中、1億5千万点与えたい。


 これのおかげでパンツががっつり見える。学校内の階段と比べるのも失礼なレベルでがっつりべっこりばっこり見える。


 実に圧巻だ。


 正直に言って、未だに工事がされていないことが不思議でたまらない。この配置には興味深い設計意図と情熱が感じられる。

 まるで階段を設計した人が、覗き見ることを前提にしているかのようだ。俺はぜひともこの位置に階段をつくった人と友達になりたいと思う。俺が学校に通う理由はもはやこれしか無いといっても過言ではない。


 俺は火属性の魔法が使えるとなった瞬間、少しだけ自分を呪った。魔法が使えるようになったら水属性一択だと考えていたからだ。

 もし水魔法を使えたならば、水たまりを生成してその反射でスカートの中を見る確度が上がっていただろう。女子の服をなにかの拍子で濡らすこともできたかもしれない。しかし、残念ながら俺がまともに使えるのは火属性のみだ。ああ、クソっ!俺は最近感じていた自分への憤りを凛音にぶつけた。


「なんだよ文句あんのかよ」


 凛音はため息をつく。


「朝倉ちゃんが言ってたわよ。用具倉庫横に雪弥くんがいるって。ハーフパンツ履いてるから覗かれても大丈夫だったけど、危なかったって」

「なるほど……」


 確かにこの前いたな。朝倉さんは凛音と仲の良いクラスメイトで少し控えな性格をしている。ハーフパンツを履く隙の無さと控えめな性格から恐らく彼氏はいないのだろうと勝手に推測する。我ながら失礼すぎるな、この推測……


「てか、お前、それの事実確認しに来ただけだろ」

「そうね。あなた、顔が良くて助かったわね。普通だったら嫌われてるよ」

「さいですか」

「あともう一つ」

「なんだよ」


 なんだよと言いつつ、察しの言い雪弥君には大体分かっちゃうんだから!


「朝、綺羅君にいじめられたんでしょ?」


 やはり朝の綺羅の件であったか。一応心配しているのか?俺は心配とか同情をするなという意図をもって冗談めかして言う。


「は、はあ、いじめられてねえし!」

「あら、そう」

「放課後呼ばれたらしいわね、行くの?」

「もちろん」

「意外ね。あなたなら家に帰ってほとぼりが冷めるまで不登校。それか転校するのかと思ってたわ」


 意外そうに凛音は口を開く。相当逃げ癖があるやつだと思われているようだ。しかし、その案も正直悪くない。


 逃げ場があるなら人間逃げるべきだ。特に努力じゃどうしようもできない人間関係なんて世の中腐るほどある。立ち向かえなんて唯の綺麗事。立ち向かって限界が来て人生終了した奴なんてこの世界にごまんといる。


 でも、今回の俺の場合逃げるのは不要だ。


「放課後、お前も来いよ」


 とりあえず凛音も誘ってみた。人数指定はされていないから大丈夫だろう。もし、何か言われても言い訳はできる。というか、シンプルに怖いから側に人が欲しいだけなんだけどね。


「嫌よ」と凛音が即答した。


「ですよねー」

「一応忠告しておくわ。彼は中学生の時に、何人かの生徒を病院送りにした過去があるからくれぐれも気をつけてね。」

「まじかよ、あれ単なる噂だと思ってたんだけど…」


 凛音の忠告を聞き、びびって手が震えそうになった。病院送りってヤンキー漫画でしか聞いたことないぞ……俺は誤魔化す様にパン2個を貪り始めた。



◆◆◆


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストで30位以内目指してます。現在46位です。

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