第5話 ヤンキーに目付けられる

「ふぁっ」


 アラームが聞こえ、眠たい目を擦りながら、起床した。朝の光が窓から差し込む中、俺は早朝から美少女ヒロイン並みの可愛いあくびをしてしまった。まじ俺美少女。


 昨日、ダンジョン後から自宅に着きすぐにシャワー浴びた後、そのままベッドに横たわり眠りにつこうとしたが、あのモンスター達との戦闘が忘れられず興奮状態であまり寝付けなかった。


 部屋を暗くしベット上で何もしないまま妄想という名の無為な時間を過ごしてた結果、本日の睡眠時間5時間……きつすぎる……


 朝起きてからの学校までの習慣は脳内に刻まれており、俺は気づいたら学校についていた。


 無意識って怖い!


 かの心理学者フロイトは「意識は氷山の一角に過ぎない」という滅茶苦茶かっこいい名言を残している。これは意識は氷山の一角の少ない部分でしかなく、水面下に沈んでいる大部分の氷である無意識が脳の大部分を占めている事を示唆している名言だ。


 つまり、何が言いたいかというと……なんだっけ。この名言かっこいいよねって事だ。眠くて思考ができへんでおまんがな。


 そんなくだらないことを考えつつ、俺は階段をひとつずつ上がる。生徒たちの足音と話し声が響いている。朝から賑やかですねえ。


 そして、とうとう1年5組の教室の扉が目の前に現れた。


 扉を開け、教室の中へと入る。机と机の間をすり抜け、いつもの場所へと辿り着く。俺の席は窓側の後ろから2番目の席。いわゆる主人公席というものだ。


 エアビジョンを起動し、空間に表示されたディスプレイを操作しながら、クラスメイトの喧騒に耳を傾ける。


「この動画やばくない?」


「えーなにそれ」


 彼ら彼女らの楽しげなやりとりが、教室を満たす。俺たち一年五組は基本的に明るいクラスといって良いだろう。皆仲睦まじく(俺以外)、楽しそうに(俺以外)、過ごしている(俺含む)。


 俺、みんなと同じ教室にいるだけじゃん……


 そんな空気である俺が在籍している蒼々高校は、その名の通り青々とした森に囲まれた自然豊かな場所に位置しており、偏差値60付近のいわゆる普通の進学校だ。


 クラスメイトには自称進学校だのと囀るさえずる者もいるが、そんなことはどうでもいい。


 この学校を俺が選んだ理由はただ一つ、校風だ。蒼々高校の校風は自由を謳っており、他の学校に比べて格段に緩い。校則に縛られることなく、自分のペースで学べる環境が整っている。


 俺はその自由な校風に惹かれて、この学校を選んだ。厳格な校則や規制の中で学ぶのは性に合わなかったからだ。授業中も、教師たちは自由な発言を奨励し、生徒の自主性を尊重している。


 俺は孤独という名の自由を享受しているが、自由には責任が伴うと言われるように、孤独が日常を退屈に感じさせる要因にもなっていた。さすがに友達を作ろうにも今更話しかけられないっつーの。


 この特段面白くもない無駄な時間が後二年間続くのかと思うと、段々憂鬱になってくる。しかし、いつも感じる憂鬱な気分とは別に今日はまた一段と酷い。


「話しかちゃう?」

「やめなってー(笑)」


 その原因はこれだ。なにやら楽し気なやり取りの中に、やけに視線を感じる……昨日の配信を見ていたのだろうか。


 いやいや、俺の初配信見る確率なんて相当低いぞ。ましてや一年五組のやつらってアイドル配信者の配信とか見てるイメージがまるでない。

 見たとしても配信じゃなくて編集された動画しか見ないんじゃねえの?リア充って。麻也が配信見てるとこ見た事ねえしな。


 てことは、動画投稿からか?いや、みどりちゃんは昨日動画投稿はしていなかったから違う。


 ひそひそ話プラス周りからの粘着したじめっとした視線を気味悪く思いながらも、杞憂だと感じた俺はいつもの習慣でtiktopを見る。ショート動画がメインに流れてくるアプリでとても使い勝手が良い。


 承認欲求を満たす為、ネットの海に自慢の顔と身体を晒す女の子を人差し指でスクロールしまくっていると、ある所で指が止まった。


「あ」


 俺は流れてきた切り抜き動画に目を見張る。


 俺が魔法でヤドカリングを炙っているシーンが流れていた。その後、俺の姿が映し出され、テンパって両手を上げるその一瞬も捉えられている。そして、画面の一角には人気アイドル配信者緑ちゃんの情けない声が響いている。


 こ☆れ☆は☆


 俺の恥ずかしい瞬間が動画投稿サイトに永遠に刻み込まれていた。


 まさか切り抜き動画に取り上げられるとは思っていなかった。たしかに切り抜き動画なら、アイドル女性配信者を見なさそうな俺のクラスメイトでも目に触れる可能性があるか……


 「やばいっす!冷や汗止まんないでやんす!」とパワプロのくそ眼鏡やんす厨が脳内で声を張っている。羞恥心が段々と募っていく。

 やばい、絶対これだわ。この恥ずかしい状況、どうにかしないと……


 というか、こんな下らない動画でバズるのかよ。そんな疑問が頭をよぎるが、その疑問はあっという間に脇に追いやられた。


 画面の右上には、驚くべき再生数が表示されている。その数字に目を奪われ、思わず唖然とするしかなかった。


「三億……三億再生!?」


 驚きとともに言葉が漏れる。そして、さらに驚きを増すことに俺のアカウントがコメント欄でバラされていた。俺は慌てて配信アプリであるマジストを開いた。フォロワー10万人の数字に心臓が高鳴る。


 ま、まじか!?フォロワー10万人!?


 おおおお、俺人気配信者やんけ……自分が人気配信者になっているという現実に戸惑いながらも、喜びが込み上げてくるのを感じた。


 嬉しさが恥ずかしさをものの10秒で上回り、どうにかしてニヤケ面を抑えようと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。変な音が漏れる。


「フゴォ!!」


 今の音、聞こえてないよね?チラ見を決め込むが、特に周りからの反応は無かった。


 気をとりなして冷静に分析してみる。


 tiktopというアプリは、投稿者が日本に住んでいる場合日本でバズってある一定の評価を超えたものが海外で流れやすくなると聞いたことがある。つまり、この三億という数字から確実に日本で高評価を得てバズり、海外に進出したのであろう事が分かる。


 しかも海外でもバズってなきゃこんな数字にはならない。コメント欄を見ると、外国人アカウントのコメントが『いいね』を集めている。


"なんでこいつはをヤドカリングを超火力で炙っているんだ?"

"レアが嫌いなんだろ"


 確かにレアはあまり好きじゃない。どちらかと言うとミディアムレアが好きですよHAHAHA・・・


 海外の人からもいじられるなんて、俺もワールドワイドになったもんだ。


 でも、俺にとっての世界の中心は海外でも日本でもない。この学校だ。


 つまり、海外でどんな評価を受けようと学校内やクラス内で雑魚魔物をオーバーキルするサイコパスと認識されたら、今はただの空気くんで済んでいるけどサイコパス空気くんになってしまう。結局空気なのかよ。


 まあどうせ空気扱いならサイコパスでもなんでもいいか……と、持ち前の自己肯定感で自分自身を納得させていると俺の目の前に影が落ちた。


 俺は心の中で「なにやつ!?」と思い、顔を上げる。



◆◆◆


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストで30位以内目指してます。現在46位です。

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