第4話 アイドル配信者は胸がでかい


「まじか……」


 後ろにいた人は、なんと今をときめく登録者100万人を誇る人気アイドル配信者みどりちゃんねるのみどりちゃんだった。みどりちゃんはその場で立ち尽くし、大きな青い目をさらに大きく見開いて俺を見つめている。


 みどりちゃんはピンクの髪がトレードマークで首にチョーカーをつけている。服装も魔物対策装備の中でも最もお洒落な物を着飾っていた。


 やば、めっちゃかわいい……てか、胸でか!?えっちの化け物にゃ!


 男子高校生の俺には刺激が強すぎて一瞬偏差値三ぐらいになったが、可愛いみどりちゃんの顔を見た瞬間というか……


 大人を見た瞬間に、自分はダンジョン内でひとりぼっちではないんだと気付き、心から安心した。


 その安心感たるや。イケメンで完璧だと思ってた奴が予想以上に馬鹿だったと気づいた時に等しい。


 いたなあ。中学の時に、家庭科の先生におにぎりを作るよう言われて、何故か熱々の炊飯器に素手で突っ込み、火傷して大泣きするイケメン中島。炊飯器からじかでおにぎりを作ろうとしてたらしい。馬鹿すぎる。


 その後、彼女に振られてた……現実は非情だ。


 緑ちゃんと中島くんのおかけで、冷静さを取り戻した俺は、火炎を止めて両手を下した。


「ええと…」


 小さく声を出して、相手から話しかけられるのを待つ。この思考からして、俺がいかに卑屈で陰の者であるか証明しているようなものだ。


 みどりちゃんはつま先から俺の顔まで舐めますように見た。おいやめろ、それ。キムタクが山本裕典と粗品にやった初対面ムーブやめろ!プリクラコーナーの女子高生みたいなムーブやめろ!


 しかしみどりちゃんの視線には何故か不快感が無かった。なんなら興奮を覚えたまである。


「君すごいね!びっくりしちゃったあ」

「ははは、そんなかっこいいなんて……」

「いや、言ってない!言ってない!」


 タハハと笑いながら緑ちゃんが明るく返した。俺は緑ちゃんの配信を切り抜きでたまに見ていたから、ノリが良くて優しい性格である事を知っている。


 その為か、初対面でボケない俺でも平然とボケることができた。


「緑ちゃ……、あ、配信者の緑さんですよね!えと、俺ファンで。いつも楽しく拝見してます!」


 ファーストインプレッションは良好。ここからが本当のコミュニケーションである。自分の視聴者と知って、さらにテンションが上がった緑ちゃんは矢継ぎ早に話す。


「ほんと!?ありがと!私の事知ってくれてるんだ!てか、さっきの魔法すごかったよ!戦ってる所全部見てたけど、急に魔法ばばーんって」


 魔法ばばーんのところを大袈裟に両手を広げて表現した。かわいいな、この21歳。


「はい、今日はスキルが本当か確かめに来たんです。投げ銭額で魔法力が飛躍するってスキルなんですけど」

「え、なにそれ、ダッ……初めて聞いたー!でも、あれ見た感じ証明できたってことだ!よかったね!」


ダッサて言おうとしませんでした?俺の勘違いだろうか。いや勘違いであってほしい。まあ気持ちは分かる。


「はい、ありがとうございます。えーと、配信頑張ってください。」


 さすがにこれ以上長居しても迷惑だと思い、身を引いた。恐らく先に進むであろう緑ちゃんと反対方向に歩き出す。気まずい雰囲気にならないよう先回りするのが先決だ。


別れた後に同じ方向に進む時の気まずさはどうしようもないよね!


 出口に向かおうとときびすを返す時に、つま先に何かひっかかった。どうしようもできない俺は緑ちゃんの谷間にダイブした。不可抗力ですぅ!!


「ぶへええええ」


 柔らかい……まるで絹糸きぬいとを指先でたぐるような、繊細で優美なものを感じる。柔らかな曲線が奏でるシンフォニーは、まるで星降る夜空に響く、遠い銀河のメロディのように美しい。触れるたびに、そこには無限の優しさと温もりが広がり、心を包み込むのようだ。


 一言でまとめると……俺の死に場所はここだって感じ。


 俺はここで死のうと確信したが、どうやらそういう訳にもいかないらしい。緑ちゃんは心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「大丈夫ー?」


 声が聞こえ、意識を無理矢理覚醒させる。名残惜しく桐箱入りの一級品と価値が等しいであろう胸元から離れる。


 柔軟剤アミングの香りがするな……柔軟剤アミングなんすか!?一緒すね!などと言ってはいけない。普通にセクハラで警察のお世話になっちゃう。


「あ、ありがとうございます。大丈夫です。」


 そうやって俺はニヤニヤを我慢しながら顔を見ずに出口の方向へ歩き出した。


◆◇◆◇< 十五分後 >◆◇◆◇


 なんだかんだ歩いて十五分が経過した。ダンジョンの薄暗い通路は、まるで時間そのものが視覚化されたかのように、徐々に暗く闇に包まれていく。


 心の奥底で微かに響く不安感がじわじわと広がっていった。「やっぱり暗くなるんだな……」と呟きながら、一歩一歩進む足音だけが、静寂の中でリズムを刻んでいる。


 「よし、出口到着」


 と、俺は立ち止まる。安心感とともに、突然の焦りが胸を締め付けた。まるで家の鍵をどこかに置き忘れたかのような感覚が襲い、頭の中に警鐘けいしょうが鳴り響く。


「やべ、しまった」


 焦りが口から漏れる。配信画面消してたっけ!?この世で一番早いんじゃないかっていう勢いで俺はマジストを開き確認した。


 …………滅茶苦茶配信ついとるやんやんけえ!何ならコメントも滅茶苦茶ついている。


"さっきの魔法まじすごかった"

"ヤドカリングに親を殺された男"

"魔法出したまま両手挙げて一時停止したやつ初めて見たわ"

"あのスキルなんすかあああ!!"

"今だにニヤニヤしてて草"

"緑のおっぱいはもはやケツ"

"アカウント名絶対本名だろ"

"ニヤニヤムッツリ童貞悠斗"


 閲覧1.0kという数字が目に入る…………閲覧1000!?コメントもなんか盛り上がってるが、いかんせん唐突の事で心の準備できてない。


 冷汗が止まらない。戦闘以上に緊張しているんじゃないか?俺?


「配信見てくれて、あ、ありがとなしゅ」


 俺は声を詰まらせ、ぎこちなく感謝の言葉を口にして配信を急速に終わらせた。恥ずかしさが頬を赤らめ、心臓の鼓動が早まるのがわかる。


 まるで初夏の夕焼けのように赤くなっているだろう。


「つっっ、疲れたああああああああ」


 疲れが一気に押し寄せ、体はかなり重く感じられた。しかし、星が夜空に輝くように、充実感が俺の心を抱いているような気がした。


 何言ってんだ、俺。だいぶテンション高いな。俺はその満足感を抱えながら、帰路に着く為足を動かした。


◆◆◆


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストで46位以内目指してます。現在65位です。

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