第3話 一層×はじまり×魔物


「はえー、こんな感じなんだ」


 ダンジョンへ足を踏み入れると、俺はすぐに感嘆とした声が口から漏れる。このダンジョンの一層は一面緑で覆われている。茂みに覆われた草木が、静寂の中に揺れ動き、光が差し込む様子はまるで森の中を歩いているようだ。

 

 しかし、ダンジョンと聞いたときは、最初は洞窟のようなものを想像していたが、まさか異世界のようなものだったとは……


 ダンジョンは階層構造の地下空間であり、下層に進むほどエリアの広さ、危険性が増していく円錐構造を持っている。そのため、下層に進めば進むほど、世間では魔に近づくと言われている。


 俺がそろそろ10分は歩いたであろう一層は、魔法覚えたての人が倒せるか倒せないかのレベルのモンスターが現れる。つまり、この美しい光景の一層でも人は亡くなる。


 そりゃ、さすがの俺も小便ちびりますよ。冗談を交えながらも、スラックスの中に手を滑り込ませて確認する。


「あれ?俺ちょっとパンツ湿ってね?なんならスラックスも湿ってね?」


 間抜けにも股間の当たりをさわさわと触りながら歩いていた俺は、突然耳に入ってきた奇妙な鳴き声に足を止めた。顔を上げると、十メートル先にモンスターが二体いた。道の分岐点を過ぎたあたりにいる。


 モンスターは二体のみ。ミギクロとヤドカリングだ。ミギクロは、トカゲのような顔で黒く光る皮膚を持ち、赤い眼光と細長い右腕が二つあり、左腕がないのが特徴だ。ヤドカリグはヤドカリのように貝殻があり、貝殻と同じ材質の指輪が三つ刺さったようなデザインをしている。


 今の所、モンスター同士で睨み合っている状況で俺に気付いてない。心臓が高鳴り、冷や汗が流れるのを感じながら、どう動くべきかを必死に考えた。モンスター同士が互いに気を取られている間に、こっそり帰ろうかしら?うん、帰ろう!死にたくないし!


 その希望は一瞬で打ち砕かれた。


 ……ミギクロが俺の存在に突如気付いた。


 二つの右腕をベテランの硬式テニスプレイヤーがテイクバックをとり、スイングを行うかのようにして、素早く鋭い斬撃が俺に向かって放たれる。


「あっぶ!」


 反射的に身を低くし、地面に転がり込むようにしてその攻撃を避けた。風を切る音が耳元をかすめ、冷や汗が背筋を伝う。隣に立つグニグニャ曲がった太い木の幹を見つけ、それを盾にして身を隠す。


 俺が使える魔法は火属性だ。魔法を覚えた瞬間家にある庭である程度自主練習をしたが、大丈夫だろうか……


 自主練習というと小学生の頃を思い出す。アニメの影響で目を閉じてても直感で避けれると思い、木に向かって爆速に自転車漕いだのを思い出した。普通にぶつかって大怪我したが、今や懐かしい思い出だ。可愛いな俺。


 そのキュートでチェリー(童貞)な俺は構えをとり、火属性の弓と弓矢を顕現した。五本同時に矢が飛ぶようにイメージする。左手に炎を纏った弓を持ち、右手で矢を弾く。ヤドカリングに二本、素早いミギクロに三本矢が飛ぶように集中力を高め、狙いを定める。


「ふぅっ!」


 心を落ち着け、一気に弓を引いて矢を放った。炎の矢が空を切り裂いて飛び出し、ヤドカリングとミギクロに向かって一直線に向かっていく。ヤドカリングはすぐに水属性の防御を施し、炎の矢を鎮火しようとしている。


 しかし鈍重なミギクロは避ける事ができず、炎の弓矢三本の一一本が命中し、身悶えた。


「よし、まずは一匹…!」


 ミギクロが身悶えしている隙を見逃さず、俺は瞬時に決断を下した。最初の標的をミギクロに定め、すかさずダッシュで近づく。疾風の如く駆け寄り、拳を固め、全力でミギクロの顔面をぶん殴った。


 ばちこーんと鼻面に拳を直撃し、至近距離で現状限界の火力である手のひらいっぱいの火炎を放射しトドメを刺した。


 ミギクロが息絶えたと同時に、エアビジョンから自動音声が聞こえた。


『1万ポイント。レベルワンアンロックされました』


 バトル前に確認した時は、閲覧者数は確か3だった。凛音が結構な金額投げ銭をしてくれたと見るのが普通だろう。記念すべき初バトル配信、初投げ銭(身内)であるが、正直今は感謝する余裕がない。


 自動音声が響くや否や、俺は目の前に立ちはだかるヤドカリングに向かい、右手を掲げた。炎が指先に集まるのを感じる。この状況で1万ポイントは、本来ならば魔力が1.1倍程度上昇するに過ぎない。


 さあ、見ものだな。


「とにかく、俺のスキル!発動しろ!」


 力を入れた瞬間、俺の身長を超える2メートルに及ぶ大火炎を右手から放出した。


「は?」


 思わず声が出る。ド、ドユコト!? 想像の5倍、いや50倍の火力だった。飛躍スキルとは言っても、正直俺は自身の能力をあまり信じていなかった。飛躍といっても所詮毛が生えた程度の火力だと思っていたが……これは……


 思いのほか出た魔法の火力に俺は完全にパニックになり、なぜか両手を上げてしまった。まるで小学生が嬉しい時にする「ばんざーい」のポーズだ。ちなみに大人になったら痴漢の冤罪ぐらいでしかこのポーズは使わない。


 「何やってんだ、俺……」心の中で自分にツッコミを入れつつも、混乱した頭では冷静な判断ができない。周りから見たら余りにも不恰好であろう。そんなクソダサい俺の背後から奇妙な声が聞こえた。


「ほ、ほげえええええええええ!?」


 捕鯨?鯨とかいたっけ?冗談はさておき女性の驚いた声だ。戦闘に夢中になっていたため、周りに一切気が回っていなかった。振り返ると、すぐ俺の左斜め後ろに誰かがいる。もう一方の道から歩いてきたのだろう。


「まじか……」



◆◆◆


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストで30位以内目指してます。現在46位です。

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