第2話 さよなら。クソみたいな高校生活


――――「そんなスキル聞いたこと無いわよ」


 学校を土日跨いで月、火曜日休んだ俺に、黒く綺麗な後ろ髪をバサっと揺らし、幼馴染の凛音が一蹴するように言い放った。ちなみに枕濡らしてずっと寝たおかげである程度回復した……と思う。


「そもそも魔法とスキルは同時に覚えるものなんだっけ?」


 わたし、気になります。


「いいえ、基本的にスキルは魔法が習熟してから身につくものよ。ただ稀に先天的に持っている人もいるわね」


「じゃあ……」


 やっぱり俺は先天性の天才タイプか。なんかそんな気してましたよ。うん。絶対音感と相対音感みたいな結構でかい差があったりするのだろうか……俺は人生至上最高のワクワクした目を凛音に向けた。


「でもやっぱり"投げ銭の額で魔法力が飛躍する"スキルなんて聞いたこと無いわ。彼女が寝取られて変な夢でも見たんじゃない?」

「ッ!?こんな意味不明なスキルに目覚める夢なんて見ないだろ」

「それもそうね。なんかダサいし」

「ダサい言うな」


 本当に失礼な事言いますね。この子は……


 凛音は可愛げな猫目をしているが、そのチャーミングさが打消される程の邪悪な笑顔を見せる。


「見せてくれたら信じるわよ。どうせならダンジョン配信やってみたら?投げ銭してあげるわよ」

「はあ?」

「彼女に振られて暇なんでしょ。人気になったら見返せるわよ」

「ぐぬぬ」――――


 という感じで、回想の幕が下り、現実の舞台にカーテンが上がった


 いきな言い回しをしたが、ただ単に不快感のある温風が顔を撫でた事で、意識が現実世界に引き戻されただけである。


「意外に緊張するなあ」


 これと言って得意な事もない、特徴もない……いや特徴はあるな。最近彼女に振られた普通の高校1年生、赤井雪弥あかい ゆきやです!

 そんなどうしようもない俺はダンジョンの入り口に立ち、リスクを顧みずに危険性のあるダンジョンに一人で潜ろうとしている。完全にヤケクソである。


「配信で見るのとじゃ不気味さが全然違うな」


 思わず呟いてしまうぐらいには不気味だった。樹木や建物はぐにゃぐにゃに歪み、完全に物理法則を無視している。

 これは、魔法の力が引き起こした余波によるものと推測されていて、現在、世界各地で建築物や空間の変形、生態系の変化が発生している。


 そもそも魔法というのは、副次的な産物である。というのは当時最も普及していた携帯端末スマートフォンからの脱却を目的に、maho社は手に埋め込むマイクロチップ『エアヴィジョン』を開発した。

 これにより空中ディスプレイ操作が可能になり、スマホと同様の機能を果たした。しかし、この革新的な代物は携帯端末の脱却のみならず、何故か現実の物理法則を超える力"魔法"も使えるようになり、人的安全性に問題が無い事から爆発的な勢いでエアビジョンは売れ、いまや一般的な物として普及されている。


 そして、目の前にあるダンジョンは世界で初めて見つけられたダンジョンだ。歪み内にダンジョンがあるとSNSで全世界に知れ渡り、ある配信者がダンジョンを探索することで、ダンジョン探索配信というコンテンツは世界で大流行した。


 ダンジョン探索配信で生計を立てる人が急増し、小学生、中学生、高校生のなりたい職業ランキング一位に躍り出る始末。大学生の一位は会社員。いつの時代でも、20歳超えると現実を見て堅実になる事が分かる。働きたくねえ……


 ダンジョン探索配信をきっかけに、魔法の生みの親であるmaho社は配信アプリ『Magic Stream』を立ち上げた。Magic Streamは視聴者が配信者たちの活動を支援するためにポイントを購入し、そのポイントによって配信者の魔法力が強化される仕組みを採用している。

 現在の技術では1.3倍が限界だが、他の企業やプラットフォームには真似できない特許技術であり、これが視聴者や配信者の興味を引き、たったの5年でアクティブユーザー数が動画配信プラットフォームで世界最大の数を誇っている。ちなみに愛称は、マジックストリーム略してマジストである。


『ピコン』


 思考を巡らせていると凛音から二通のメッセージが届いた。


"この配信を機に、人気配信者になって女子に呼び出されたりするんじゃない?"

"頑張って"


 俺より凛音の方が乗り気に感じるのはなんなんですかね……

 女子に呼び出される……か。その文章を見た瞬間、時の流れが逆行するように、中学二年生のほろ苦い記憶が胸の奥から蘇ってくる。



――――「おーい、ロン毛チー牛。なつきちゃんがお前のこと呼んでるぜえー。教室出て左な!」

「あ、山本くん……え、な、なんだろ。わかった」


 教室を出て左にはクラスのなつきさん含む女子三人グループがいた。萎縮しながらも俺は話しかける。


「あのー、なつ……」

「きゃあああああああああああああ、きもおおおおおお」


後ろで山本含む陽キャ男子三人組の高笑いが聞こえる。


「バカロン毛チー牛が!噓だよーん」――――



うーん、全然ほろ苦くなかった。俺の中学時代苦すぎるって、厳しいって。


………………麻也がいる塾だけは楽しかったな。



「ふぅ」


 俺は切り替えようと、息を吐く。イマイチなネタで終わった後に訪れる空しさと透き通った思考になる賢者タイムでの溜め息でも、苦い記憶を思い出してついた溜め息でもない。


「よし!」


 勢い良く声を発する事で、完全に気分は切り替わった。エアビジョンを起動、マジストを開き、配信を開始する。配信用小型ドローンも連動して起動した。


「今日の目標は、スキルが本当かどうか……あとは死なない。」 


 俺は学生服のネクタイを締め直し、ダンジョンに入る。



――――この時、俺は思いもしなかった。

この配信を機に、俺のクソみたいな高校生活、人生が大きく変わる事が――――


◆◆◆


 第6回ドラゴンノベルス小説コンテストで30位以内目指してます。現在46位です。

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