ヤケクソでダンジョンに潜ったら"投げ銭の額で魔法力が飛躍する"スキルで思いの外無双でき、人気ダンジョンアイドル配信者にその様子を晒されてバズってしまう。
佐藤新
第1話 は?なんで振るんだよ
「ごめん、やっぱ無理。うちと別れて。」
「は?え?」
秋の始まり。ちょっぴり肌寒さを感じさせる季節だ。しかし、俺は今そんな肌寒さなんて比にならない南極レベルの冷気を、目の前の金髪つり目女は俺の心にぶち込まれた。
陰キャで捻くれ者の高校一年生の俺
彼女の金髪は蛍光灯を反射し、まるで氷のような輝きを放っていた。そんな輝きを見つめながら、俺の心はどんどん冷えていく。周囲の景色は色褪せ、まるでモノクロの世界に変わってしまったようだ。
「なんで……」と俺は小さく呟いた。
――――
当時の俺は、「髪切るの面倒くさくね?」とかっこつけて異様に髪が長かった。今思えば、他と違うのカッケエ、面倒くさいのカッケェって思ってるの滅茶苦茶ダサいと思うのだが、あの頃の俺にはそれが最高にクールに思えたのだ。仕方がない。
当然、そんなキモい奴に友達なんているわけもなく、毎日「クソロン毛」と呼ばれて虐げられていた。「おいクソロン毛、金ないんか?切ってやろうか!」みたいな感じだ。普通の人なら髪を切るのだが、俺の生まれ持った肥大なプライド、高い自己肯定感は髪を切るという行為にいかず、逆に髪を伸ばし続けた。我ながら意味わかんねえ……
そんなクソキモロン毛の俺と椎名麻也が互いの存在を初めて認識したのは塾での自習時間中の時だ。
髪を伸ばし続けた結果、前髪が鼻にかかりさすがに切りたいと前髪を触っていた時に「髪長すぎん?ウケる」と、突如椎名麻也が声をかけてきた。
それから彼女は好奇心と持ち前の積極性で話しかけて来るようになり、次第に俺たちの距離を縮まっていった。
そして、彼女が声をかけて大体四か月後、高校受験終わりから二週間後に俺は告白された。
「雪弥って意外に顔悪くないよね。髪きもいけど」
「きもい言うな」
「ぎゃははははははは」
「……ていうかさ、うち達付き合わね?一緒にいて楽しいしさ」
今でも覚えている。いつもふざけた顔をしているのに、いつになく真剣な表情で麻也の頬が朱に染まっているのを……
口調はふざけているが照れているのがもろ分かりだった。ギャルなんて正直タイプじゃなかったけど、その時滅茶苦茶可愛いなと思った。――――
別れようと言われた瞬間、走馬灯のように麻也との思い出が蘇った。胸が締め付けられるような痛みに襲われた。人は死ぬ時に走馬灯が見えると言うが、死に値する絶望の淵でも走馬灯が見えるのだろう。
俺は気が動転し、足が震える。声が掠れて出てくる言葉も、まるで他人事のように感じた。それでも、必死に言葉を絞り出した。
「なんでそんな……別れようなんて言うんだよ」
彼女は一瞬だけ目を伏せた後、決意を固めたように俺を見つめ返した。その目には、もう俺に対する愛情のかけらも見えなかった。
「うち達最近喧嘩してたじゃん?そのとき仲良かったクラスの男子にさ。『どうしたん?話聞こうか?』って言われて、それで公園で話して……」
「あ、ああ」
彼女の言葉が、まるで重い石のように俺の心に沈んでいく。
「うちさ、そいつと話してたら、めっちゃうちの事考えてくれてるって思って、そいつと付き合おうかなって……だから、本当にごめん!」
彼女の言葉が鋭いナイフのように心に突き刺さる。付き合ってたから分かる。俺と別れる気満々である。この女……付き合ってたから分かる。俺と別れる気満々である。この女……
くそっ!将来勝ち組を約束されたような可愛さでもバカな猿に付け込まれ、万が一にでも子供ができしまったら人生一発KOされるんだぞ!!そんなんでいいのかよお前は!死ねよ!バカ女!
心の中で激しく波立つ言葉がめちゃくちゃ出て来るが、ショックのあまり俺の口からは何も出ない。
麻也は、俺の高校のお隣にあるおバカ高校に在籍している。人生一発KOされるから変な男に付け込まれないように学費、偏差値の高い私立中学や高校に入れなさいと俺の好きな動画投稿者が言ってたのを思い出す。
俺の彼女はそうはならないと高を括っていたが、まさかこんなトラップカードが発動するとは……
予期しない展開に、俺はどうすることもできなかった。「なんだよそれ」と心の中で毒づくが、言葉が喉を詰まらせたまま、何も言えずに踵を返して全速力で走り出す。心臓が爆発しそうなほどの鼓動を感じながら、ただ逃げるように。
「雪弥……」
背後から聞こえる彼女の声が、まるで鈍い鉄槌のように頭の中で反響し、俺の心を揺さぶった。しかし、その声に立ち止まることはなかった。ただ前へ、前へと進み続けた。彼女の顔を見たくないという思いが、全身を支配していた。
三分間が永遠のように感じられ、ようやく家のドアに手をかけることができた。全身から汗が噴き出し、涙が頬を伝う。疲労が一気に体を襲い、足が重く感じられた。玄関のドアを閉めると、冷たい夜風が窓から差し込み、ひんやりとした感触が肌に伝わる。
布団にダイブしようとしたが、汗でべったりとした体が気になって寝付けない。このままでは眠ることもままならない。部屋の暗闇がますます心を締め付け、どうしようもない孤独感が押し寄せてきた。
俺はベッドの前に立ち尽くし、「これが麻也との最後か……」と呟いた。部屋の暗闇がますます心を締め付け、どうしようもない孤独感が押し寄せてくる。秋の始まりにも関わらず、今日の麻也は脇も鎖骨も肩も露出した黒のノースリーブニットを着ていた。究極のトリプルコンボとも言えるその姿を思い出し、心が痛む。ノースリーブニットから見え隠れする彼女の脇には、ギャルらしからぬ気品さが漂っていた。
「寒くなってきたのにノースリーブとか……あいつ本当に馬鹿だな」
思わず笑いが零れた。だが、その瞬間、また涙が止まらなくなる。麻也の姿が頭から離れず、胸が締め付けられるようだった。あー駄目だ、麻也の事はもう忘れろ、忘れろ!自分に言い聞かせるように何度も心の中で叫ぶが、思い出が次々と蘇ってくる。
「あ、そうだ」
急に思い出した。麻也に会う前に、おばあちゃんが温かいお風呂を沸かしてくれたことを。ちょうどいいタイミングだ。風呂に浸かれば、汗も身に
それを想像するとなんとも……きもちよすぎだろ!オリンピック水泳選手の北島康介の名言である。迷言ともいえるな。チョー気持ちいい!だったけ?
まあ、どうでもいいや。
無理やり自分を鼓舞しようとしたが無駄だった。傷心しまくった俺は、急いで風呂場に向かう。浴室のドアを開けると、心地よい湯気が立ち上ってきた。俺は疲れと絶望に打ちひしがれ、湯船に身を沈める。
身体の奥から湯船の温もりが染みわたり、心地よい疲労感が訪れる。意識は靄に包まれ、時間の流れがあやふやに感じられた。
「あー、これ一時間は寝れ……」
完全に意識が消えた。
◆◇◆◇< 一時間半後 >◆◇◆◇
突然、おばあちゃんの悲鳴が風呂場に響き渡る。
「きゃあああああああ、雪弥君がちんちん握って倒れてる〜!!」
おばあちゃんの声が風呂場に木霊し、俺は目覚めた。どうやら、いつもの癖で股間についているロンギネスの槍を握っていた。ごめん盛った。ジャッキーカルパスを握っていた。
目が覚めた瞬間の混乱の中、おばあちゃんの背中が見えた。お母さんでも呼びに行ったのか、後ろ姿さえ今は見えない。親族とは言え、こんなところを見られるのはきつい。羞恥心が芽生えたが、すぐに麻也の顔が脳裏にちらつく。
風呂場の静けさが一転し、俺の心の中で様々な感情が渦巻いていた。羞恥と自己嫌悪、そして麻也への未練。
「はあ」
深いため息が、浴室の冷たい空気に溶け込む。恥ずかしいという感情がすぐさま消え失せた。恥ずかしいという感情がすぐさま消え失せた。
「なんかもう全てがどうでもいいっすわ……」
天井を見上げ、呆然としたまま時間が過ぎていく。温かな湯気が薄れ、部屋の冷たさが再び肌に感じられるその時、「ピコン」と通知音が鳴り、目の前に空中ディスプレイが現れた。
『エアビジョン搭載から9ヶ月経過。適合完了の為魔法とスキルが使用可能になりました。スキル名は――――』
◆◆◆
第6回ドラゴンノベルス小説コンテストで30位以内目指してます。現在46位です。
もっと高みを目指したいので★評価とフォローをお願いします!!
新作ラブコメ
『香りから好意が分かる特異体質の俺、Vtuberの幼馴染みからカメムシの匂いがする。』見てください!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます