A-2

越後の国、二面村の烈は山で遭難した村の猟師を助けるため、掟を破り山に入る。見事、猟師を村に連れ帰ることに成功した彼女だったが、掟に従い理不尽にも村から追放される。追放された先は、佐堂島。突如として色街が栄えた謎多き島。島良きの船の中で烈は、「しづ子」という別の遊郭で働いていた女性と出会う。烈はしづ子に、女が一人で身を立てるにはこの仕事しかないこと、佐堂島は今一番儲稼げるらしいこと、そして、あの島から生きて帰った女はいない。という話を聞かされる。島に着いた烈はその異様な島の様子に圧倒される。島の一部を取り囲む高い塀。まるで監獄を思わせる壁の向こうには、京にもないような栄えた色街がおさまっていた。烈は船に乗っている時から考えていた『脱獄』の覚悟を固める。しづ子と一緒に場末の妓楼に拾われることになった烈は、源氏名として「リハ」という名前をもらうが、粗野な言動(特に訛り)が目立つため客の前には出されず、禿の「なぎ」と一緒に謡を習うことになる。悪戦苦闘するリハだったが、稽古の最中で見た島一番の遊女「ソーニャ」の舞に見惚れ真摯に取り組む決意を固める。同時に、廓にある唯一の舞台が海を臨める位置にあると知り、脱獄するためにはその地位が理想であると考える。リハはますます稽古に打ち込むが、場末の妓楼には年増のリハを養い続ける余裕も義理もなく、一か月後の試験に落ちれば、夜鷹に落とす旨を言い渡される。リハは狩りで鍛えた体幹を武器に華麗な舞を習得。さらには舞ながらなら訛りが出ないことを発見し、無事に試験に合格する。リハはそのまま舞の修行を仰せつかるが、リハが残ったことでなぎは身を堕とすことになった。なぎは己の運命を呪い、一度は逃げ出すが、男たちに敢え無く捕まってしまう。なぎが客と闇に消えていく中、リハは葛城を舞い、顔と心に仮面を付ける。


三か月後、リハは島の当主様の前で舞を披露するまでに成長していたが、いまだ訛りが抜けきらず、人前に出ることは少なかった。そのミステリアスな雰囲気が話題を呼び、ソーニャとの舞勝負を望む声もあがっていた。評価があがったことでリハは以前より動きやすくなり、着実に情報を集めていくが、なぎを蹴落とした罪悪感がリハを追い詰めていた。ある日の夜、リハが散歩がてら情報収集していると、高台で海を眺めるソーニャと出会う。そこでソーニャは自身の身の上を話し始める。かつて本土で暮らしていたソーニャには、リハと同じくらいの年の妹がいたという。武家の家ということもあり、なに不自由することなく二人は育ったが、先の戦によって家は潰れ、一家は散り散りに。姉妹はこの島に売られることになる。可哀そうなのは妹で、好いた相手との婚約をしたばかりであった。妹はその殿方に操を誓い、殿方も一年に一回、姉妹が島に渡った日には、島から見えるように本土で明かりをつけると約束する。そして、今日がその約束の日だとソーニャは言うのだった。ソーニャが話し終わると、丁度本土で小さな明かりが灯るのが見えた。リハは肝心の妹はどこにいるのか疑問に思い、ソーニャに聞く。ソーニャはそのことには答えず、舞台に立つものには純潔が求められ、舞台に立ち続ける限り清い身のままでいられることをリハに告げる。ソーニャはそれだけ言い残すと、その場を去るのだった。後日、二人の舞勝負が決まり、リハとソーニャは表向きには初となる顔合わせを行う。そこでリハはソーニャもこの島からの脱出を考えてることを知る。ソーニャと気の毒に思ったリハは、なぎのこともあってソーニャの脱獄を手伝うことを約束する。ついに実現したソーニャとリハの舞勝負の日、ソーニャはリハの協力を得て計画を実行に移す。隠し持っていた船で島を後にするソーニャだったが、本土が見えた瞬間、巨大な不安に襲われ引き返し始める。急な方向転換で船は波に煽られ、転覆。ソーニャは島まで泳いで帰る。ソーニャに協力したことで折檻を受けていたリハは、檻の中でソーニャが戻ったことを知る。計画が失敗したのかとリハは心配するが、どうやら自分の意志で戻ってきたらしいこと、ひどく衰弱して長くは持たないかもしれないことを聞かされ、複雑な思いで満たされる。ソーニャは当主の裁定により、二度と舞を踊れぬよう膝を壊させる。絶望したソーニャは後日自ら命を絶つのだった。ようやく懲罰が終わり外に出られたリハは、ソーニャの死を知らされ、彼女の最後の手紙を受け取る。そこには、本土を目の前にした彼女の不安と懺悔が書かれていた。『本土には見えないところまで土地建物があり、見えないところまで数えきれない人が生きて暮らしている。その無限が耐えがたい不安を生む。それに比べて廓の楽なこと。四方を壁に囲まれた閉じた世界なら、そんな不安はない。さらには女でも身一つで自立ができる。ああ、私はこの島に長く居過ぎた。どうかこんな私を許してほしい』リハは手紙を読み、怒りに震えた。ソーニャをここまで貶めたこの島から、必ず脱獄することを誓う。


Q

ソーニャがいなくなったことで、リハは新たな島のアイドルとして祭り上げられる。以前より自由な時間が増えたが、ソーニャが脱獄したことでそのルートが絶たれ、警備もより厳重になっていた。リハは新たな可能性を探る。ある日、リハは島を訪れた田舎者が大金を積み、烈に会わせてほしいと訴える現場に遭遇する。その男いわく、自分は烈に命を救われた者で、そのせいで彼女がこの島にながされたことに罪悪感を禁じ得ず、身請けして救い出したいと言うのだった。しかし、男の持っていた金は遊女を一日だってどうこうできるものでなく、門前払いをくらう。倒れ伏す男を支えにいくリハ。同郷のしかも縁のある人物に会えたことで純粋に喜ぶ彼女だったが、リハの正体が烈であることに男は気づかなかった。ショックを受けるリハ。彼女の言動はもう以前のような粗野なものでなく、女性らしく華やかで柔和になってしまっていた。口数少なくその場を去るリハ。それでもこんな所にはいられないと決意したリハは、再度計画をたてて、実行に移す。












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