前編-3-

『おめでとうございます!』

『すごいですね!』

『これが小説家としての大きな一歩だ』

『初めまして、おめでとうございます。もしよろしければ相互フォローしてもらっても良いですか?』

『書籍化したら絶対買います』

『今までの努力が実りましたね』

『新人賞は通過点。ここからが肝心』

『サインちょうだい』


 数日後。正式に受賞結果が公開されると俺はSNSに、


『やりました。応援ありがとうございます』


 その一文と受賞結果のサイトのリンクを貼り付けて投稿し、そこには多くのコメントが届いた。知っている人もいれば、初めて見た奴もいる。これまで一緒に創作活動をしてきた人達からのコメントには感慨深い気持ちに――なる余裕はなく、俺は探している人物からの投稿がないか探した。

 この投稿はエサだ。俺の目的はアイがコメントをしてくることだった。

 この数日間で何度も絶望し、不安に苛まれ、苦しむことを繰り返した。そのような状態に陥ると人は抗って狂うか、受け入れて冷静になるらしい。不幸中の幸いにも俺は後者だった。もう認めた。記憶にはないが、俺は間違いなく夢カタルの失踪にも関わっているのだろう。殺害も……したのかもしれない。だが、その事実を知っているのはおそらくアイだけのはずだ。そして、アイは何かを知っているのにも関わらず警察に通報するような動きも見せなければ脅しもしない。


 だったら、俺はこの絶望も不安も苦しみも払拭する為にアイという存在を――



「投稿はないか」


 俺の受賞に対してアイからのコメントはなかった。だが、俺の様子を何かしらの方法で確認をしているはずだ。ならば、このまま俺が成功していく姿を見せ続ければ嫉妬や羨望――アイの何かしらの感情を刺激しあぶり出せるはずだ。成功している人間の弱味を持っている人間は、その優位性を使って動くはずだ。俺への金銭の要求、失墜させる愉悦感……アイも創作を行っている人間で、成功していない人間だ。


「絶対に動くはずだ。そこを捕まえてやる」


 俺の決意は固い。俺の人生は俺のものだ。誰かに支配され、コントロールされるわけにはいかない。いや、それ以上にもっとプラスに考えよう。

 アイを捕まえて、その後は……あぁ、そうか。俺はまた素晴らしい経験をするのだ。希有な体験をし、俺にしかない描写力を手に入れる。それは俺の今後の糧となり、また素晴らしい作品を生み出せるんだ。なんだ良いことばかりじゃないか。


「ふひ……ふひひ……あはは。あーはっは!」


 心の底から愉快な気持ちになる。楽しくて、楽しくて仕方ない。俺は憧れの小説家という人生を諦めない。それを邪魔する奴は、邪魔する奴は――


「殺してやる」


 その言葉は何の抵抗もなく自然と発せられた。

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