前編-2-
「――はい、失礼します」
そう言ったあとに、相手からの通話が切れるのを待ってからこちらもスマホから耳を離した。
電話の内容は、最終選考を通過した作品について。結果は――
佳作を受賞。賞金は十万円。書籍化は検討。
力なく立ち、静寂の中で呆然としていた。
「佳作を受賞。賞金は十万円。書籍化は検討」
ぽつりと呟く。そして、持っていたスマホを力強く握りしめると――ベッドに向けてそれを投げつけた。
「ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな! 佳作? あれだけ頑張って? 賞金十万円? 人を殺したかもしれないのに? 書籍化検討? 俺は、俺は、俺はなぁ!」
こみ上げる怒りを喚き散らして、地団駄を踏み、頭を掻きむしる。これだけの苦しみを与えられ、不安と恐怖に怯えて、得られたのは一番下の賞とバイトでも稼げそうなはした金。なんだこれ。割に合わない。書籍化が確定したわけでもない。自分の作品が書店に並ぶわけでもなければ、形になるわけでもない。いや、今の俺にとっては並ばない方がいいのか?
「うぐっ」
混乱する頭に任せて、急に感情のまま暴れたせいか吐き気がした。慌てて、トイレに駆け込み便座に土下座するように嘔吐を繰り返す。
これが受賞者の姿か?
涙と鼻水を垂れ流しているが、歓喜からではなく悲哀から。目から鼻から口から流れる気持ちの悪い体液と共に俺の中にある全ての感情も一緒に出て行ってしまえば良い。もしくは自分の体もドロドロに溶けて一緒に下水に流れていってくれないか。
「……はぁはぁ」
けど、実際はそんなことにはならない。いつだって俺の思うようにはならないんだ。
「はぁはぁ……ふっ、ふは、あはは、あーはっはっは!」
便座に全て吐き出し終えた俺は笑った。情けなすぎて笑えてきた。馬鹿みたいに大きな声で、トイレの床や壁に体をぶつけながらのたうって笑う。何も考えずに笑う。狂ったように笑う。笑っていたら涙が出てきた。
「あー、はーはー、ふぐぅ……」
その涙の意味は分かっていた。だから、気づかないように笑い続けていたかったけど、一度止まってしまうともう無理だった。
「……誰か助けてくれ」
体液も感情も全て出し終えたと思った俺が最後に吐き出したのは、その一言だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます