後編-10-

 家に帰った俺は汗臭い体をシャワーで流して、部屋着に着替えてから趣味部屋へ。パソコンは起動させずに座椅子に座ると、家電製品が自然に垂れ流すホワイトノイズの中で考える。

 それは俺が――本当に夢カタルと会ったのか、ということだ。

 というのも、妙にリアルな夢と夢カタルの失踪が結びついていない可能性があるのではないか。本当に妙な偶然に時期が重なり、付け加えて忘年会以降の記憶がないこと。それらを、アイさんからのダイレクトメールが届いたから俺自身が結びつけてしまったわけだが、実際は妙にリアルな夢は夢で、夢カタルの失踪は別の事件で関係ない――その可能性の方が高いし、そう考えるべきなんだ。


「そもそも矛盾点や疑問点があるよな」


 夢の中の俺は誰かを殺害し、山に埋めた。そのときに車を使用しているが、この車はどこの誰の車だ?

 可能性の一つとして今日と同じくカーシェアを利用した。これは違うと断言出来る。理由はカーシェアのアプリ内にある使用履歴に身に覚えのないものがないから。その時期に使った形跡はまるでない。もう一つとしてはその殺害したであろう当人の自家用車。これは確かに可能性はゼロではない。だけど、これを使用したということは、その誰かの車のキーをどこにあるか探して、見つけて、使用したことになる。いや、まぁ、確かに可能性としてはゼロではない。だが、俺は知っている。夢カタルは車を持っていないのだ。これは彼がSNSで語っていたことだ。俺と同じく基本はペーパードライバーで、運転は社有車を仕事で使う程度。日常でどうしても必要なとき用にカーシェアの登録はしているらしい。

 つまり、あの夢の中で車が登場した点にフォーカスするとあれは誰の車だったのか、という疑問点が浮かぶ。

 不可思議な点はまだある。あの夢を見た日――おそらく、忘年会の日だ。確かに記憶がないし、あれが夢だったのか自分自身が明確に判断できないことは認める。だけど、確実なこともある。会社の忘年会で、俺は酒を飲んだ。更に、そのときはほろ酔いだったとしても、そのあとは記憶を無くしている。つまり、酩酊状態だったのではないだろうか。そうだとしたら、そんな状態で御久良山まで運転して、あの山道を登ったのか。


「少し無理があるんじゃないか?」


 素面の状態でも、運転には神経を使った。それを酩酊状態で? いやいや、無理だろう。そもそも、シャベルはどこにやった? どこで買った? 飲酒運転で車を運転して、警察に止められたら? ほら、いっぱい疑問点や矛盾点が出てくるじゃないか。

 もっとシンプルに現実的に考えるべきだ。


「そもそも人を殺しておいて記憶はないってありえないだろ。だから、あれはやっぱり夢で、夢カタルとは会ったかもしれないけど、それは単なる祝勝会だった。もしかしたら、そこにアイさんもいたのかもしれない。けど、それはそれ。祝勝会は何事もなく無事に終わったんだ。夢カタルの失踪は、彼自身の問題で失踪したのであって俺は関係ない」


 俺はぶつくさと言葉にし、自分で聞いて安堵していく――いや、それって自分に言い聞かせているだけだろ。そうすることで安堵出来る理由を無理矢理に探してるんだよ。良く見返してみろ。支離滅裂な部分があり、穴だらけだ。それでもミステリー小説を書いているのか――いや、間違いない。良かった。俺は……


「俺と夢カタルの失踪は関係ない」


 まるで遺言のようにそう言うと、俺は疲労が呼び寄せる睡魔に甘えて目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る