後編-9-

 無限に続くと思っていた作業は想像以上に早く終わりをむかえた。だけど、それは望んだ結果にたどり着いたからではない。体力に限界をむかえたからだ。

 元々、弱っていた体に穴掘り作業は重労働で休憩を挟みながら行っても、三時間ほどでシャベルが握れないほどに握力はなくなり、呼吸は荒く、味のしない唾が口から垂れた。掘り起こした穴を埋めて、シャベルを乱雑に車内に放り込むと、運転席へと自分の体も放り込むように中に入る。

 一息呼吸を挟むとエンジンを掛けてゆっくりと走りだす。さっきは体力の限界だとか思っていた割には運転して帰宅する分の体力は計算して残している。打算的だ。実際には体力云々の問題ではなく、不確かな記憶を頼りに行う闇雲な作業に心が折れたのだ。


「けど、無駄じゃない……」


 広い道に出てある程度の速度で運転することが出来るようになると、そう呟く。

 今日、御久良山に行くとき、そして、穴を掘っているときに、浮かんでいた疑問点を見つけることが出来た。

 車をカーシェア指定の駐車場に停めるとシャベルを取り出す。


「邪魔だな、これ」


 無駄に重たいシャベルをそこらに捨てておこうかと思ったが、もしかしたら、このシャベルを誰かが拾って、警察に届けて、そこから俺にたどり着いて――駄目だ、想像力が暴走している。だけど、結局はその一度頭に描いた想像が振り払えずシャベルを持って帰ることにした。

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