後編-7-

 改めて読むと、確かに自分が書いたのに他人が書いた文のように思えてきた。いや、そんなことはどうでもいい。読みながら、いや、書いていたときも感じていたことがある。

 それは、


「この山って御久良(おくら)山だよな」


 見覚えのある光景と文章で書かれたその場所が記憶の中で一致しているのだ。

 御久良山は、ここから車で三十分ほどでたどり着ける俺が子供の頃生まれ育ったところにある小さな山だ。頂上に神社があって、参道の序盤は住宅街を縫うような道で、途中から坂が急勾配になって山の風景に切り替わるのが印象的だ。地元ではハイキングコースで親しまれていて春は桜が咲き、その少し前には梅が咲き……そうだ確か、裏にも道があってそこからは車で入れたはずだ。

 そんなことを覚えているのは、俺が小学生だった頃、野球部に所属していて夏は体力づくりで登らされたり、新年はその神社で背番号をもらったり、とそんな過去があるからだ。監督や保護者の大人達は一緒に山を登ることもなく、車で頂上に先回りしていたので子供ながら大人はズルいな、と感じたものだ。


「そうだ、あそこは車で入れる。脇道に入ることも出来た……はずだ」


 小説を読んで頭に浮かぶ場面と記憶の中の御久良山が確実に一致するような気がした。


「このまま悩んでいても仕方ない……か」


 俺はパソコンを閉じるとスマホでカーシェアの予約アプリを起動し、小回りの効きそうなコンパクトカーを予約した。

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