後編-3-
「あぁ、頭痛い」
目を覚ますと同時に襲いかかってくる鈍痛にやめてくれよ、と言わんばかりに俺はそう言って身体を起こす。そして、次にやってくるのは吐き気だ。俺は胃から逆流してくるものをベッドにぶちまけないようにトイレへと駆け込んだ。
一通り、胃の中を空っぽにし終えると口の中の酸っぱさが不快なので、洗面台でうがいをしてから冷蔵庫から水を取り出しコップに注ぐ。さっき水を吐き捨てたのに、今度は水を飲むという行為に馬鹿馬鹿しさを感じながらも、コップの中身を一気飲み。そして、天井を見上げて、濁った音と共に長い息を吐き出す。
「確か……」
昨日のことを思い出しながら、気だるい身体を引きずるように歩いて、もう一度ベッドに倒れるように横になる。うつ伏せで沈み込む布団の感触が心地よい。
「忘年会……それと……」
会社の忘年会までの記憶は明確だ。だけど、そのあとが曖昧だ。いや、それは言い訳だと自覚している。全く覚えていない。忘年会のあとに何があったのかも、どうやって帰ってきたのかも。
「あの夢は何だ?」
昨日のことを思い出すよりも、俺には気になることがあった。それはさっき見た夢だ。あれは――人を殺す夢だ。首を絞めて殺害し、山に埋める、というミステリーの犯人がやりそうな典型的過ぎてつまらない内容だ。素手で殺害しているし、山に埋めるって絶対捕まるだろ。そう思うと馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。だけど、面白いところもあった。それは妙にリアルで感触も全て覚えているところだ。酒を飲み過ぎたときに悪夢を見ることはあるが、ここまでリアリティがあるのは初めてだった。
「首を絞めた感触、埋めているときの焦燥感。小説に使えるかも……」
そんなことを思うと同時に言葉にしていた。
『キャラクターは個性的ですし、誰が何処で何をし、何を考えているかが伝わる文章力はあると思います。しかし、肝心の殺人の描写力が足りません。臨場感が足りなく――』
いつかの文章を思い出す。今なら、殺人の臨場感が書けるかもしれない。そういった意味ではあの夢は神様からの天恵だ。
「最後の気持ちでチャレンジしてみるか……言い訳できないぐらいに自分を追い込んで」
思い立ったが吉日。俺はスマホで近くの不動産屋を調べると着替えて、訪ねることにした。
希望は防音性の高い部屋。ラストチャレンジなら環境も全て変えて、整えて、全力でやってやる。
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