前編-6-

 趣味で小説の執筆を始めたのは大学生になってからだった。年齢は二十歳ぐらいだったと思う。これは実際に文字で物語を形にした、という意味で、小さい頃から読書が好きだった俺は脳内では様々な物語を夢想してきた。特にジャンルとしてはミステリーが好きで、今でも欠かさず読んでいるほどだ。自分でもトリックを考えたり、複雑なアリバイを考えたり――そんなことをしてきたもんだ。

 昨今はネット上で自分の書いた物語を投稿出来るサイトも増えており、俺もいくつかのサイトに登録し、自分の書いた小説を掲載していた。最近では新しい話を考えついたので毎日更新をしている。かれこれ、三十五歳の今まで。土日の休みの前である金曜日なんかは徹夜をしてしまうことも多い。そのせいで土日は昼過ぎまで寝てしまうクセがついてしまったけど。


「今日の閲覧数は……三回、か」


 夕食を食べ終えた俺は一時間ほど執筆すると、休憩がてらに登録している小説投稿サイトの一つを開くと、自動更新設定をしていたのでその反応を確認した。結果は呟いた通りで、無数にある作品の中で見て貰えているだけ上々、と自分で自分を慰める毎日だ。素人のミステリー小説なんて読んでもらえる機会は少なく、更に、最近では異世界転生だの、最初から最強だの、ハーレムだの――そんなファンタジー作品が群雄割拠のごとく溢れかえって、俺の作品なんて容易く埋もれてしまう。


「全く、あんな頭も使わないで読めて、似たようなテンプレートで作られた作品のどこが良いんだよ」


 そんな悪態をつくが、実際はコミカライズされた作品を流し読みしてみても、面白いと思う作品があることを俺自身も知っている。だけど、そのことは見て見ぬ振りだ。文学って、小説ってそんなもんじゃないだろ、と言い訳を繰り返す。この分野で何も結果を残せていない俺が、だ。全く笑える。そりゃ、気を抜くと泣いてしまいそうなぐらいに。

 とはいえ、俺だって挑んでこなかったわけではない。公募に作品を出したことだってある。まぁ、最高で三次選考。普段は一次選考も通らないけど。


「ランキングは今日もファンタジーで埋まってるな。このままだと文学が腐るんじゃないか?」


 またも負け惜しみを吐くと、ランキング上位に見知ったペンネームを見つけた。


「……夢カタル」


 俺はその名前のリンク先をクリックすることを躊躇った。その先を覗けば、自身の中にある嫉妬が溢れて、悔しい思いをすることをわかっているからだ。わかっているのに……俺はその名前をクリックした。

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