第100話 やれる時にやっちゃおう♪︎

  アーネとカテジナによる二人ワンセットの十字砲火口撃を目の当たりにしたフロレアルは思う。


 ──うっわぁ⋯⋯これは面倒くさいわ。正直関わりたくないし、巻き込まれるのはもっと御免だわ。

 

 予想だにしない展開に傍聴人としてシトロールの公開後悔処刑に立ち会ったフロレアル。

 自分自身が胸を触られた被害者ではあったが放置プレイを決め込む。

 もっとも初めて他人からお胸様を揉まれはしたが、その荒々しく激しい行為が淫乱スキルの影響もあって、正直言ってこともあって、それ程の怒りは覚えていなかった。

 それに加えて賠償金として受け取った皮袋金貨が痴漢行為を気にする必要が無いモノへと変化させていた。

 ──それどころか今後の独りお愉しみの際には、少し荒々しく自分自身を責め、強い刺激を与えても良いかなと担当並列副意識エロスキーミニフロレにリクエストしていた程である。

 そんなこと裏事情もあってフロレアルは我関せずを決め込むと、傍らにいるもう一人の傍聴者へと声を掛ける。


「──約束通り他の負傷者の治療を終えて戻ってきたわよ。この槍って正座してる駄犬──じゃなくてシトロール、彼の得物でしょ?後で渡してあげて。⋯⋯ところで、これでなの?」


 ライジンは槍を受け取り魔法鞄へと収納しながら問に答える。


「──あぁ、ありがとう手間を取らせたね。この槍は後でシトロールに渡しておくよ。因みに質問の答えだがだよ。恐らく四週目が間もなく始まる⋯⋯。どうしてだろうか、アーネもカテジナも変わってしまった⋯⋯。いや、俺が二人の隠していた一面を知らなかっただけなのか──」


 そう言い放つとライジンは、何か遠くのモノを眺めるかのような眼差しで三人を眺め始める。

 そして十字砲火に晒され続けているライジンを助ける事もなく傍聴者に徹し始めてしまう。

 そんなライジンにフロレアルはやや呆れながら尋ねる。


「──ちょっと、黄昏れるのは後にしてよ!イビルボアの討伐に関して相談があるってアナタから頼んできたことでしょ?もうどうでもいいって言うのなら、アタシは血液とかの討伐の後始末を終わらせて、チェーネに向かわせてもらうけど構わないのかしら?」


 その発言を受けてライジンは〝ハッ!〟として我に返り、フロレアルに申し訳なさそうに話し始める。


「──重ね重ね申し訳ない。それで相談したいことはイビルボアの遺骸に関してなんだ。知っての通り、我々は冒険者ギルドからの緊急討伐を正式に依頼として請け負っている。なので、手間を取らせてしまい大変申し訳ないのだが、この後にギルドで君が収納しているイビルボアの遺骸を一度取り出して貰えないだろうか?君も冒険者なのだから対象の討伐確認が必要なことは知っているだろ?」


 ライジンからの頼み事の内容を知ったアタシは、微笑み営業スマイルを浮かべる。

 その微笑みを受けたライジンは、少なからずときめいたのだが、微笑んだまま告げられる言葉は期待に反するものであった。


「──嫌です。アタシは討伐隊に参加していたわけでもないのでメリットがありません。それからアタシは冒険者では無いのでアナタたち冒険者のルールなんて知りませんし関係もありません。それに確認作業も一瞬で終わるとは思えないので、無駄にイビルボアの身肉の鮮度を落とすようなことはしたくありません。アナタは討伐と言いましたけど、事実としてアナタたち討伐隊は瓦解して討伐には失敗したんですよ?結果的に生き残れたのは、アタシが助けに駆けつけたからです。アタシには、アナタたちの偽証に付き合う義務も義理もありません。なので、その頼みについてはお断りします」


 だが、フロレアルから明確な拒絶を受けてもライジンは諦めようとしない。


「そう言われると本来なら返す言葉もないところなのだが、我々冒険者にも事情があってね。近隣の町にある冒険者ギルド──広域地域指定で今回の緊急討伐依頼が出されているんだ。討伐が確認されないままだと、いずれは領主である国王様の耳にも届く事になるんだ。だから頼むよ」

「残念ですけど、長々とチェーネに留まり続ける予定はありませんので、アタシには関係のないことですね。それでは他の話がないのなら失礼しますね──」

「──ッ!い、いや、待ってくれ!我々がクエスト失敗のペナルティを負うだけの話ならば甘んじて罰を受ける。だけど別の問題があって、緊急討伐依頼が完了しない限りは、対象地域の冒険者ギルドでは他の依頼を受けられなくなるんだ。この地域全体の問題なんだ、考え直してくれないか!」


 何度理っても諦めないライジンの反応に、アタシは改めて探知反応を確認するが、視界内と平面探知は共に緑色の反応を示しており、間違いなく従属状態となっている。

 それなのにアタシの意見に従わない──つまりライジン自身では〝どうにもならない事情を抱えている〟ことを意味していた。

 それならば頼みに応じるのが自然な流れのように思えるのだがアタシは──


「──だが断わる!」


 この英雄譚の名言って使ってみたいけど使いどころが中々見つからなかったのよね♪︎

 こんな絶好の場面で使わないなんて選択肢はありえないし、逆に使わないのは失礼ってモノよね♪︎ひょっとしたらライジンも分かっててネタ振りしてくれたとすら思える程だわ。


「──い、いや、そのぉ⋯⋯ッ!そ、そうだ!君の言う討伐の偽証というのにも誤解があるんだ。討伐参加者は対象の魔獣や魔物がどんな経緯であれ討伐された事が確認されれば報酬を得ることができるんだよ」

「そうですか、それは良かったですね。それでもアタシにはメリットが無いのには変わりはありませんよね。それではごきげんよう、色々大変でしょうけどお元気で──」


 ライジンが折れることは無いと判断したアタシは、交渉打ち切りの意味を込めて頭を軽く下げた後、屠殺現場の後処理に向かうため身を翻すのだった。



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 また、本作主人公フロレアルのキャラクターイメージを近況ノートに投稿しておりますので、よろしければイメージの参考にご覧下さい。

フロレアル(主人公)⑦

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