第095話 槍使いの元へと駆けつけてみた

 

 何も知らないサヘランを放置してフロレアルとカテジナが這いずる芋虫こと哀・戦士シトロールの元へとたどり着く。

 その場には既にライジンとアーネが到着しており、シトロールの応急処置に当たっていた。

 ライジンがシトロールが動かないように体を抑えており、アーネが治療魔法を行使している。


 アタシは盗視聴で三人のことは視知みしっていたのだが、余計な手間と疑いを避けるため、ザンネンさんカテジナを介して声をかけることにする。


「──ザンネンさん、彼らのことを知ってるのなら紹介してちょうだい」


 アタシはザンネンさんを見ながら話しかけるが、なにやら反応が変である。

 ──元から変人だって?そんなことくらいアタシだって分かってるわよ!今回はがおかしいのよ!


 そのカテジナの様子だが、フロレアルから声をかけられた途端に、再び〝キョトン〟としながら小首をかしげていた。

 そしてフロレアルが顔を向けながら話しかけていたことか、自分自身が話しかけられていたのだと察して、ようやく口を開く。


「──はい、御使い様。存じておりますわ。ところで⋯⋯ザン・ネン・サンとはワタクシのことでしょうか?」


 アタシは面と向かって本人に対して、〝ザンネンさん〟と言い放っていたことに気付き、背中に〝じっとり〟と嫌な汗が浮かんでくる。

 だが、ここで露骨に言い直したりするようなヘマを(アタシはしない。

 ──だって既に時遅し、ならばこのまま〝ザンネンさん〟で押し通すのみ!いちいち言い換えるのも面倒くさいしね♪


「──そ、そうだったわね。ザン──じゃなくて、少し知ってる人と⋯⋯感じが似てるから間違えたわ。これからも間違えることがあるだろうから気にしないでちょうだい」

「承知しましたわ。でしたらワタクシのことは、ザン・ネン・サンなり何とでも好きに呼んでくださって構いませんわ。御使い様からでしたら、それが例え〝メスブタ〟や〝ビッチ〟であったとしても悦んで受け入れますし、むしろご褒美ですわ!」

「──ッ!?メ、メスブタ!?ビッチ!?ってアンタ何考えてんのよ?!」


 何を想像したのか、カテジナは興奮した様子で鼻息を荒くしながら、己の欲望を口にする。

 一方のフロレアルは予想外の要求に少し顔を赤くしながら戸惑いを見せる。

 そんなやり取りを耳にしていたアーネが、カテジナに向かって叫ぶ。


「──ちょっとカテジナ!ここに何しに来たのよ!手伝いもしないでバカなこと言って騒いでるだけなら邪魔だから消えて!!アンタ、そもそもサヘランはどうしたのよ?!」


 そのアーネからの責めるような問い掛けに、カテジナはフロレアルへと向けていた熱い視線を外す。

 すると急に興奮が収まったのか、一転してその表情は冷淡なモノへと変化し、冷めた目でアーネを見つめると、少し不機嫌そうに答える。


「⋯⋯アーネ、ワタクシと御使い様との会話に水を差すなんて不敬ですわよ。サヘランならあそこに転がって呑気に寝てますわよ」


 そう言ってカテジナはサヘランのいる方向を顎で指し示すと続けざまに言い放つ。

 そして今度はうっとりしながらフロレアルのことをうやまいながら手を使って示すと紹介を始める。


「サヘランが陥ってた状態は、シトロールよりでしたけど、ここに居られる使ことわ」

「「──ッ!?」」


 その発言を受けてアーネとライジンは驚愕の表情を浮かべる。

 その様子を眺めながらカテジナは表情をコロコロと変え、今度はドヤ顔となって言葉を続ける。


「それにイビルボアも御使い様が御自おんみずから退治してくださいましたわ。アナタ達だってソレ屠殺は観ていたのじゃなくて?」


 イビルボアを屠ったところは遠目ではあったが知っていたライジンとアーネ。

 だからこそ、シトロールの元へと駆けつけ応急処置に当たっていた。

 だが、カテジナからのその発言を受けた二人は驚きを隠せない。

 そしてライジンらはフロレアルへと頭を向けると口を開く。


「──イビルボアを倒した事は遠目だったが見て取れた。だから理解わかっている。それよりサヘランを癒したというのは本当のことなのか?それが事実なのだとしたら、頼む⋯⋯シトロールを救ってやってくれ──」

「私からもお願いします。助けてください──」


 未だ這いずり敵へと進もうとするシトロールを抑えながらライジンはフロレアルへと頭を下げる。

 そしてアーネは治癒魔法を施しながら同じく頭を下げてくる。

 それを受けてフロレアル思う──


 ──話の内容からしてイビルボアってアタシが倒した巨大フィアースボアの事よね⋯⋯。

 ザンネンさんは敢えて指摘しなかったみたいだから、ここは流れに乗って間違いはなかったていでスルーしましょう。


 そう決めたアタシは何食わぬ顔をして応える。


「──助けるのはやぶさかでは無いけど対価は払って貰うわよ?教会で治療魔法を受けるのにだって御布施が必要なのだから当然よね?」

「あぁ、何の対価も支払わずに救ってくれなどと都合がいいことは口にしないさ。ただし、可能な範囲とはなるが、最低でも教会への御布施よりは多く支払うことを約束する。もちろん、サヘランの分も含めてで──どうだろうか?」



治療済みのサヘランを含めての治療費を支払うとの提案にアタシは満足し、治療を請け負う意向を伝えるに併せて疑問に思っていることを問いかけようとする。


「──それなら問題ないわ。ただし、治療の前に誓って貰う事と確認したい事が一つずつあるわ。それはアタシが二人を癒した事を他者に漏らさないこと。そして、尋ねたいことは、そこの⋯⋯」


 アタシは〝哀・戦士〟や〝芋虫〟との単語を誤って口走りそうになるが踏みとどまり、槍使いの名前を思い出そうとする。

 ──アタシはちゃんと学べる子なのだよ。

 すると間髪入れずにザンネンさんカテジナがフォローを入れてくる。


「御使い様、そこの這いずる芋虫の名はシトロールですわ」


 ──台無しである。

 さすがはザンネンさん。いい仕事は出来るのに、実に残念なフォローであった。



━━━━

 今回は再び出番が回ってきたアーネのキャライメージリンク先画像となっております。

 本編含めて楽しんで頂ければ幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093077612052104


 ご愛読頂きありがとうございました。

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