第094話 一つの恋、その結末

 同性からの予想外の告白を受けたフロレアル。

 その額に僅かな汗を浮かべ頬を引き攣らせながら困惑していた。


 ──意味不明イミフなNTR現象は、放置しておくとして、なんで〝聖女〟呼びを禁止すると〝御使い〟へとクラスチェンジさせられるのか全く理解できないわ⋯⋯。

 |ここは仕方がないから残念さんカテジナを問い詰めるしかないわね。


「──えっと⋯⋯御使い様ってどういう事かしら?」


 フロレアルから問われたカテジナが〝キョトン〟と頭の上にはてな???マークを複数浮かべながら、握った右手を口元へと持って行くと小首を傾げながら逡巡する。


「──どうしてと言われましても言葉通りで他意はあませんわ。〝御使い様〟は謳われし数多あまたの英雄たちとは異なり、広くは知られておりませんが、聖女や聖人ではなかったものの、神様から賜った特別なスキルや〝信託〟による導きによって、救世の偉業を成し遂げられた偉人の方々のことですわ。大昔には神の〝使徒〟や〝代行者〟とも称されておりましたけど、今では神聖教国の上層階級や神殿関係者らが自らのことを神の使徒と称し、実働部隊を代行者と呼ぶようになりましたので用いられなくなりましたわ」

「──使徒や代行者って呼ばれてたことは初耳だけど、御使い自体は知ってるわ。訪ねてるのは、なんでアタシが御使い様なのかってことよ!」

「それは聖女様とお呼びになるなとのことでしたので、勝手ながら御使い様と呼ばせて頂いた次第ですわ。の高位治癒魔法ともなれば、中級上位グレーターヒール、もしくは上級フルヒールと拝察致しましたわ。それを詠唱どころか魔法名すら唱えずで行使されておられましたわ。その御力から察するに、救世の偉人に至れる御方かと愚考した次第しだいですわ」


 その返答を受けたアタシは、残念さんカテジナの評価を改める。


 ──てっきり残念さんだと思っていたのに、意外と知見も広いし観察眼も悪くない。

 それにしても魔法名を口にしなかったのは失敗ね。

 グレーテストヒールでも癒せたかもしれないから偽装で唱えておくべきだったわ。

 よくよく見るとこの子カテジナって、見た目は悪くないしスタイルも良い──年齢は私と大差無さそうだから、一つ、二つ上ってところかしらね。

 見た目は、金髪ロングの碧眼、英雄譚のヒロインでも通用しそうな可愛い綺麗といった顔立ち。

 背は成人女性の標準とちと恨めしい、スタイルも平均よりも良いのに極一部の思考だけが残念なのね⋯⋯。

 ──カタログスペックはかなりの高水準のに性癖は特殊系みたい。

 きっと親御さんも陰で泣いとると思うから、やっぱり〝ザンネンさん〟でよさそうね──


 フロレアルがカテジナへと視線を向けながら値踏みし、その評価が乱高下してい最中──

 一方のカテジナは、フロレが品定めをしているのを、〝自分へと熱い眼差しを向けている〟としたことから、今晩のお愉しみを想像し、頬を赤らめながら〝モジモジ〟し始める。

 そんなカテジナへとジト目で眺めながらフロレアルが口を開く。


「──わかったわよ。もう御使いで構わないわ。アナタはサヘランさんの看病でもしていなさい。アナタにとってなんでしょ?アタシは槍使いの人とか他の負傷者たちの治療に向かうから後はよろしくね」


 フロレアルからサヘランを〝大切な人〟と呼ばれたカテジナ。

 その直後、カテジナは何も知らずに呑気に寝息を立てているサヘランを一瞥する。

 ──すると、見下すような顔つきに変わるのに併せて〝フッ〟と小馬鹿にするような短い失笑が口から漏れる。

 そして真面目な顔付きに変わるとフロレアルへと顔を向け直すし、と宣言する。


「──御使い様、失礼ながら一つ訂正をお願いしますわ。このサヘランは、ワタクシの大切な人ではありませんの。恋心が無かったと言えば嘘となりますが、既に過去のことになりましたわ。御使い様の奇跡の御業を拝見した以降、サヘランに対する〝トキメキ〟がすっかり〝色褪いろあせて〟というか〝消え失せて〟しまいましたわ。今に至っては巨躯でちょっと頑丈なにしか見えませんし、興味すら湧きませんわ。正直言って、改めて交際を申し込まれても、今なら迷わず即お断りですわ。──ですので、御使い様と御一緒することをお許しいただきたいですわ」


 そのザンネンさんの申し出を受けたアタシは、未だ意識が戻らないサヘランへと視線を移すと心の中で懺悔ざんげする。


(──サヘランさん、ごめんなさい⋯⋯。貴方アナタが慕い貴方を慕っていたザンネンさんの心を意図せず奪ってしまったみたいです⋯⋯。

 叶うなら熨斗ノシをつけてた上での返品なり、ドナドナ出荷するのですが、それは無理そうなので、どうか許してください。

 ──というか無償返品期間は無いのでしょうか?あったら即座に教えてください。どうかお願いします。

 ──んっん、失礼しました。

 お元気になられた頃に何かお詫びの品を贈るので、それで手打ちにしてくださいな。

 悲しい現実を急ぎ知る必要はありませんので、今しばらく安らかにお眠りください) 


 そしてアタシはサヘランへの治療を終えたことから、ザンネンカテジナさんを引き連れて、哀・狂戦士ことシトロールの元へと治療に向かうのだった。


 ──こうしてサヘランが何も知らなぬ内に、呪いの言葉たる死亡予兆フラグを不用意に口にした効果によって、実りつつあった一つの愛は終焉を迎える。

 一度口にすれば死亡予兆とは実に恐ろしいものであった──



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 今回は前回に引き続いて、ザンネンさんことカテジナのキャライメージをリンク先にて掲載しておりますので本編含めて楽しんで頂ければ幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093077687482227


 ご愛読頂きありがとうございました。

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