御使い編

第091話 他人の必殺技名を口にするのは恥ずかしい

  頭部を失った巨獣イビルボアの遺骸の後方で、フロレアルが静かにたたずむ。

 その背中に滅との文字が浮かび上がりそうな雰囲気をかもし出していた。

 だが、誰にも見られない方向へと向けられている顔はドヤ顔の上にやけていた。


 (見事に決まったわ⋯⋯アタシの必殺技──その名も必滅のインパクト・フォースド・スタティック!)


~なぜなにシリエル先生~

 説明しよう!フロレアルが繰り出した必殺技、その名も〝必滅のインパクト・フォースド・スタティック〟。

 実に厨二チックで恥ずかしい必殺技名ですよね。

 ⋯⋯ほんと恥ずかしいので言わせないでください。

 ──んっん、失礼しました。

 でも仕方がないんです⋯⋯フロレは一五歳に成り立てで、ただでさえ危うい多感な年頃でした。

 その上、根っからの英雄譚好きだった少女が、自分自身に秘められていた強大な力を突如として知ったのです。

 その力を自在に操るために、一年を超える体感時間を独りで過ごし、己の力を磨く修行に励みながら過ごしていたのです。

 ──その結果、力を得た代償として、多少しまった程度で済んだのですから、ここは良しとして、生暖かい目で見守るべきなのだと先生は思っています。

 因みに、技としては〝真正面からぶっ叩く!〟との実に単純明快なものです。

 ユニークスキル魅了淫蕩鬼みりょういんとうきにより増強された人外の筋力値と敏捷値が全開放状態で繰り出されます。

 その力が込められるのは|不破壊性デュランダル鈍器であり、その得物は、どれ程の力が加わろうが全く変形しません。

  その為、込められたエネルギーを対象へと逃さず伝えることができたことから、繰り出される一撃は元々強力なモノでした。

 それを小っ恥ずかしい名前の必殺技として繰り出す際には、魔法で衝撃インパクト増幅まで付与されます。

 そんな一撃を受ける対象は、不破壊性や物理ダメージ無効などの防御系特殊効果を有していなければ必滅に至ります。

 その上で、鈍器によるインパクト対象殴打の瞬間に、対象を急制動停止魔法で〝強制静止〟させる事で、攻撃や防御、そして回避などの動作が一切不能な状態へとおとしいれます。

 その事に気付けた対象は、突如として理由も分からず動作が止まった事態に際して、さぞかし衝撃を受け驚愕することでしょう。

 ですが、その直後──正に刹那の時間で音速を超える不破壊性鈍器が叩き込まれるのです。


 因みにフロレアルは修行期間中にステゴロの特訓もしており、手甲型装備も制作しています。

 ですが、悲しい現実を知ることになったのです。

 それは、ちんまいフロレは比例して〝リーチが物凄く短かった〟のです!

 ──別にリーチが短いからといってフロレが殴る前に、相手からカウンターを貰ったりなんかはしていませんよ。

 認識加速をしているフロレに攻撃を当てられるような化け物は、そうそういませんからね。

 そんなフロレがステゴロの特訓成果を試す為に、手甲型装備を身に付けて、英雄譚の真似事をして、『必滅のファーストアタック(仮)』と叫びながら衝撃増幅を付与した必殺技パンチを放ちました。

 その結果は悲惨の一言で、ゼロ距離で対象の頭部が爆☆霧散したのです。

 例え認知加速をもってしてもリーチの短い自分の拳が対象の頭部などの殴打箇所に触れた瞬間に、ほぼ同速度で飛び散る真紅の〝モノ〟をかわすることは叶いませんでした。

 そして、必殺技名を無意味に叫んでいたので、大きく開いていたお口の中へとフレッシュな色々な〝モノ〟が入り込んでしまったのです。

 勢いよく口内に侵入してきた〝ソレ〟をフロレは反射的に〝ゴクリンコ〟してしまったのでね。

 その後は、〝オロロロロロ⋯⋯〟と相成りまして、浄化魔法を施しても気持ち悪さは消えず、最終的には洗浄魔法で胃の中から食道やら口腔内、そして鼻腔に至るまで洗い流したのでした。


 そんな目に遭ってもフロレアルは諦めずにステゴロの必殺技開発に挑み続けます。

 まず試したのは、対象の顔面を鷲掴みにして手甲型装備を赤熱させながら対象を爆破粉砕する『爆撃レッドフィンガー(仮)』なる技を放ちました。

 見た目も派手、威力も十分、そして何より自分自身へと色々なモノが飛んで来ないと必殺技としては良いモノでした。

 ですが、例え肉体に不破壊性を付与したとしても赤熱した手甲装備から伝わる耐え難い熱さや痛みは消ることはありません。

 ──不破壊性から得られる効果は、〝形状や性質の変化を生じさせない〟だけなので、〝熱遮断や痛覚無効などの追加果は得られません〟ので、生き物が有する性質として当然の生体反応でした。

 それらが普通に生じ、外したくても外せない手甲型装備によるセルフドMプレイを満喫する羽目となったことから実用化には至りませんでした。

 その他にも無駄に手だけを光らせて対象の顔を握り潰す『シャイニング握撃(仮)』を試しもしたりもしました。

 ですが、フロレ自身も手を光らせることに意味を見いだせなかった上に、見た目がとても地味だったことからボツとなりました。

 それらの事からフロレは得物は白メイスを用いる事を誓い、手甲型装備は収納内で半封印状態となっています。

 きっと、英雄譚の名言『一度こうと決めたら、自分が選んだのなら、決して迷うな』ってことなんでしょうね。



━━━━

 今回は殆どがシリエル先生の解説回でしたが、珍しくシリエル先生が恥かしさに耐えていましたので通常とイラストが異なっております。

 リンク先のイメージは少し恥ずかしがっているシリエル先生です。

シリエル先生②

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093077739388407


 ご愛読頂きありがとうございました。

 楽しんで頂けましたら、作者の励みにもなりますので、フォローや応援などして頂けると幸いです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る