第087話 もう一組の愛、その行方

 うつ伏せに倒れ未だ反応が戻らない盾タンクのサヘラン。

 そんな彼へ懸命に中級下位の治療魔法エクストラヒールを施し続けている金髪碧眼の有る胸様のカテジナ。

 その彼女らへと巨獣イビルボアが悠然と迫って来ており、絶望的な状況であった。


 ──先程まで一人奮戦して下さってたシトロールは巨獣の突撃を受けてワタクシたちの後方まで弾き飛ばされてしまいましたもの、仕方がありませんわ。

 どの道ワタクシにはサヘランを放って逃げ出すことなんて出来ませんもの、致し方ない状況ですわ⋯⋯。


 カテジナがそう考えてるうちにも、巨獣が彼女らの眼前まで迫る。

 それでも尚、カテジナが逃げ出すことは無かった。


「──サヘランごめんなさい。ワタクシの力が及ばなくて貴方あなたの傷を癒してあげられそうにもありませんわ。そもそもワタクシたちが逃亡者に気を取られて援護が疎かになってしまったことで|貴方をこんな状況に陥らせてしまいましたもの。今更ですけど討伐完了後の約束は、申し訳ありませんけど辞退させて頂きますわ。その代わり⋯⋯、この場での最後の一時ひとときまではそばにいますわ──」


 カテジナは意識が無いサヘランへと己の心情を吐露した後、横たわる大きな想い人の背へと己自身の上半身を覆い被さる様に重ねる。

 その様を上方から見下ろしていた巨獣は、己の右前脚を大きく上げた後に、重なり合う二人を目掛けて突き立てる。

 その一撃は巨獣の超重量が載せた蹄による無慈悲な踏みつけであった──


 その光景を目にしていた者たちからの悲鳴が上がると共に〝ドンッ!〟との振動が大地を揺らす。

 それに併せて〝ガギンッ!〟との硬質なモノ同士が激突したような音が響き渡る。

 横たわるサヘランを庇うように、その背へと自らの上半身を重ねていたカテジナ。

 訪れる筈だった終焉の時が訪れず、頭上から発した硬質なモノ同士の激突音、それに伴う地面の揺れ、それらを感じたことから恐る恐る顔を上げて様子を伺う。

 その時にカテジナが目にした光景──巨獣の一撃を手にした白メイスで受け止める白い装束を身に纏った少女の姿であった──


 カテジナたちの窮地に駆け付けたアタシであったが、その内心は焦っていた。

 ──だって、歩いているように視えていたのに、バカでかい図体ずうたいの踏み出す一歩の幅が半端なかったのよ!

 悠然に視えていたのに実際の移動速度は、駆け付けるのがギリギリの間一髪のタイミングになってしまった。

 アタシは重なり合う金髪有る胸さんたちと巨獣の間に、魔法で急制動停止する。

 そして巨獣の体重が載せられた蹄の一撃を白メイスを頭上に掲げ、右手だけでなく、左手を白メイスの先端部に当て受け止めたのだった──


 ──流石にバカでかい図体をしているだけあって受け止めるのが精一杯って感じね⋯⋯。

 この大きさの相手からの攻撃でも肉体にも不破壊性デュランダルを魔法で付与してるから問題はない。

 ──とは言っても、アタシはドMじゃないから実際に踏まれて試す気はないけどね。

 それに不破壊性を付与していても胸を踏まれれば息苦しくなるし、腹を踏まれたらが外に飛び漏れ出そうになるから願い下げよ。

 それとは別の問題で、例えアタシが耐えられたとしても、足元の地面までは流石に耐えられないみたい。

 このままだと腰あたりか、下手したら全身が地面の中へと埋まりそうな感じで徐々に地面へと沈みつつある。

 それなら荷重圧力を分散させれば埋没防止になる筈だから、土魔法で足元の大地をやや広めに〝ガッチガチ〟に固めるとしますか⋯⋯ねっ!

 ──よしっ!足首あたりまでは地面の中へと沈み込んだけど、それ以上は沈まなくなったわ。

 だけど重くて身動きは出来そうもないし、下手に振り払ったりしてこのバカでかいのが転がりでもしたら英雄譚で言うところの『グランドローダーだッ!』って感じで真後ろにいる金髪有り胸さんとかが下敷きになって笑い話では済まなくなる。

 取り敢えずは、後ろの金髪の有り胸さんに声掛けするとしますかね。

 ──となると、アタシ主意識の認識加速を止めた方が良さそうね。

 その前に、フィアースボアが下手に動かない様に身動きを封じておきますか。

 ──先ずは相手の蹄と白メイスをアタシの手を含めて土魔法で固めます。

 そして足首辺りまで地面の中へと沈んでいるアタシの足と先に固めた地面とを完全に固定すれば大丈夫かしらね。

 脚の力って蹴ったり押したりするのに秀でてるけど引く力って意外と弱いからね。

 それじゃ認識加速を解くから並列副意識ミニフロレたちバッアップは任せたわよ!


 ──巨獣の一撃を受け止め、その上身動きをも封じたフロレアルは、後ろへと顔を向けるとカテジナへと声を掛けるのだった。



━━━━

 本話にて第一章でも数少ないシリアスパートがほぼ終わりとなります。

 今回は、そんな中でヒロインポジションを得られたカテジナのキャライメージをリンク先にて掲載しておりますので本編含めて楽しんで頂ければ幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093077687482227


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