第088話 人との会話は難しい

 

 アタシは庇った金髪有り胸さんに何と声を掛けるか逡巡し。英雄譚の白馬の王子様の台詞セリフをチョイスする。

 ──それが過ちだとは露知らずに。


「えっと⋯⋯、大丈夫ですか?お嬢さん──でいいのかしら?あのぉ、白馬に乗った王子様じゃなくてガッカリさんかもしれないけど、アタシが来たから安心しなさい。こんなバカでかいだけのフィアースボアなんて直ぐに片付けちゃうから。だからアナタは庇ってた彼への治癒魔法を諦めずに続けなさい。いいわね?」


 アタシは体感時間で一年ぶりとなる他人とのコミュニケーションに、やや戸惑いながらも営業スマイルを浮かべて話しかけた。

 ──のだが、それを目にしたのだが、金髪有り胸さんは何故か顔を《真っ赤》にしながら、少し上の空な様子で返答してくる。


「──は、はい⋯⋯承知しましたわ。この人への治癒を続けますわ⋯⋯」

「それじゃ任せたわよ。一先ず、このデカブツは離れた場所で仕留めた方が良さそうね⋯⋯、ここだと少なくとも三人は鮮血浴する羽目になるからね。そんなのアナタも嫌でしょ?」

「──はい⋯⋯、ワタクシのことなら気になさらずに⋯⋯。何なら、献血浴でも何でも喜んでお受けしますわ。それで⋯⋯そのぉ⋯⋯、よければ貴女あなた様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 その返答にアタシは以前体験してしまった鮮血浴などのことを思い出しドン引きしてしまう。

 幸いにも虎柄な馬頭な方は現れなかったのだが、金髪有り胸さんの反応に違和感を覚える。

 やけにした様子だし、それに盗視聴で視ていた時とは印象が異なる。

 命の危機から救われた直後だからなのか、〝知的なできる女〟だった筈の金髪有り胸さんが〝残念さん〟へとクラスダウンしたかのようだった。

 その口調が、やけに間伸びしており、受け答えの順番も変な気がする。

 アタシは戸惑いつつも、体感的に久々である人との会話に、アタシ自身の感覚がズレているのかと思い問われた名前を口にする。


「へっ!?アタシの名前を知りたいの?アタシはフロレアルだけど呼びたいならフロレでいいわよ。⋯⋯それで⋯⋯えっとね⋯⋯、怪我人も居るから魔獣の返り血は辞めておいた方がいいと思うの。そりゃぁ、人の趣味は人それぞれで違うから趣味を持っていても構わないと思うのよ。だからね、あまり口出しはしたくないのだけど、流石にこの状況での鮮血浴はお勧め出来ないのだけど⋯⋯」

「──フロレアル様⋯⋯、花咲く様な素敵なお名前⋯⋯、名は体を表すとは正に貴女様あなたさまのことですわ⋯⋯」


 アタシが気を使って遠回しに鮮血浴を辞めるように促したのだが、何故かアタシの名前を復唱している金髪有り胸さん。

 その様子から死への恐怖とその状態から脱したことでに〝残念さん〟と化したのだとアタシは察する。

 そんな残念さんに哀れみを込めつつ、アタシは遠慮がちに会話が噛み合っていない旨を伝えることにする。


「えっと⋯⋯、会話が微妙──じゃなくて、間違いなく噛み合ってないのだけど大丈夫ですかね?」

「──っ!す、すみません、少し見惚れ──じゃなくて、ぼ〜っとしてしまいましたわ。フロレ様が仰ることにワタクシは黙って従いますわ!」


 そう言ってカテジナは上目遣いとなって〝キラキラ〟と瞳を輝かせながらフロレアルを見つめ返す。

 そして、治癒魔法を施していたサヘランから両手を《離して》両手を組み合わせる。

 言った矢先から治癒魔法の手を止めるカテジナにフロレアルは一抹の不安を抱くが、見なかったことにして話を進めることにする。


「──そ、そう、ならいいのだけど⋯⋯。それじゃお喋りはこれくらいにして、さっきからジタバタと暴れているコイツを片付けるとにするから、お話はここまでね」


 会話を終わらせたフロレアルは自分自身主意識の認識加速を最大にまで高める。


 ──さてと⋯⋯、残念さん化してた金髪有り胸さんも少し落ち着いたみたいだし大丈夫かな。

 きっと超久々のコミュニケーションだったから、アタシ自身の応対にも変なとこがあったから余計に会話が噛み合わなかったのだと思うことにしましょう。

 ──でも⋯⋯、よく見ると顔が妙に赤いし、息遣いもやや荒い気もするわ⋯⋯、ひょっとして意外と残念さんな人なのかしら?

 でも、ついさっきまで死の瀬戸際に置かれてて、英雄譚のヒロインみたいに救われたのだから、興奮するのも無理は無いのかもしれない⋯⋯。

 どうせならアタシもヒロインポジションが良いのだけど──アタシがピンチに陥ってるシチュエーションかぁ⋯⋯。よくよく考えると世界が滅びそうな気もするから、ここは潔く辞退しておいた方が良さそうね。

 ──それじゃぁ、さっきからジタバタしてるコイツ巨獣だけど魅了淫蕩鬼みりょういんとうき全開放能力値増加フルブースト状態でも右前脚を抑える以上の事はできそうにないから魔法を併用して、ご移動願いますか──ねっ!


 フロレアルは平面探知を活用し、巨獣の移動先処刑地を左翼の冒険者らとカテジナたちから離れる様に三時方向と定める。

 次いで、巨獣の蹄と白メイス、自分の足と大地の固定を解除する。

 それに併せて巨獣の重量を魔法によって一時的に低減させ押し返す。

 それに加えて魔法によって巨獣を移動先に定めた地点まで放り投げたのであった。


━━━━

 本話からは基本的なコメディ調のお話に戻っております。

 今回は、前回に引き続き出番の多かったカテジナのキャライメージがリンク先となっております。

 本編含めて楽しんで頂ければ幸いです。

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093077687482227


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