第086話 死亡フラグからは逃げられない?
巨獣イビルボアの奇襲で幕開けとなった討伐戦。
第一幕の討伐隊の瓦解による幕引き、その後に繰り広げられた二つの〝
討伐隊が陥った状況、そこから一転しての愛の告白からの命を賭した哀・戦士の突貫。
それらを垣間見ていたフロレアルは唐揚げを食べることを止めて思い悩んでいた。
逃げ出したクズたち以外の冒険者らが全滅するのは、時間の問題だけど助けた方がいいのかな⋯⋯。
冒険者は他の者が戦っている〝獲物〟には基本的に手を出さないって暗黙のルールがあるって耳にしたことがある。
その基本なら除外となるのは、先に戦っている者から〝助けを求められた〟時か、その者が戦闘不能になった時に限られるって話だった。
そもそも魔獣や魔物の〝討伐に挑んだ冒険者に犠牲者がでる〟、そんな話は日々起きている、ありふれた光景の一つ。
冒険者は仕事として魔獣や魔物の命を奪い、その対価を得ているのだから当たり前のこと。
騎士団や衛兵だって有事の際には命を賭して戦うことが義務付けられている。
そのことと何ら変わりは無い。
今までだって、見知らぬ誰かが、見知らぬ場所で、同じ様な状況に陥り、多くの冒険者が亡くなっていたに違いない。
そんな事は今までに一度も気にしたことも無いし、考えたことすら無かった。
━━だけど今回は違う。
冒険者たちが危機に陥る様を垣間見てしまい、手が届くのに助けなかったとしたら⋯⋯、その罪悪感は、どれ程の
盗視聴で視ることを今すぐ止めて、巨獣討伐の事を綺麗さっぱり忘れ去り、知らなかったことにしてチェーネの町へと向かうこともできる。
──だけど、その場合に起こることを考えてみると、アタシにとってあまり好ましい状況とはなり得ないと思う
例え討伐隊を無視してチェーネに到着したとしても、蹂躙劇から運良く生き延びた冒険者や逃げ出したクズたちが、遅からずチェーネの町へと討伐隊に起きた惨劇を伝えると思う。
もしくは誰一人として討伐戦から生還する者がいないとする。
そうなれば町は失われた命への悲しみと魔獣への恐怖に包まれるだろうし、最悪の場合には魔獣が町へと至る可能性だって否定できない。
──となれば、アタシは間違いなく魔獣と相対することになる。
〝英雄譚〟で
だけど、アタシは英雄譚が好きなだけで、残念ながら英雄になりたいとの願望は持ってない。
だから、これから滞在して初の町での暮らしを満喫しようとしてるチェーネの町に被害が生じることは好ましくない。
そもそも悲しみや恐怖に包まれ静まりかえった町に滞在する趣味も意味も無い。
こうなってくるとアタシが巨大フィアースボアを討ち取って、冒険者達を救う事が正解と思えてくるから不思議よね。
このままだと、あの
〝悪い予感〟・〝愛の告白〟・〝形見分け〟・〝告白相手が見送り涙する〟・〝単独の強敵への突貫〟と死亡
──そう、例え生き残ったとして、どの面下げて告白相手に顔を合わせるのか、その後の関係性の変化含めて哀れでしかない。
きっと〝生物的〟に死ぬか、それともワイルドな痩躯の槍使いの〝キャラ〟が死ぬかの二択なんだと思う。
それじゃぁ、小っ恥ずかしい愛の告白して命を賭した戦いに赴いた愛・戦士が、通りすがりの赤の他人、しかも美少女に救われ、告白した相手との羞恥の再会が待ち受ける哀・戦士へとジョブチェンジするのには目を
──ということで、フィアースボアを倒して、手の届く範囲の命は救うことにしますかね。
フロレアルがそう決心した頃には、闇雲に攻撃を繰り出し続けていた狂戦士の攻撃が急激に鈍り始めており、突き出した槍を巨獣に咥えられてしまう。
それは狂戦士と化しても
それでも尚、狂戦士は諦めることなく力を込め、槍を引き抜こうと強く握り締める。
その状態で巨獣がシトロールを振り払おうと何度も頭を大きく振り回す。
それに耐え兼ねた狂戦士は、槍を巨獣の口に残したまま大きく投げ飛ばされてしまう。
それでも狂戦士は立ち上がるが、巨獣の突進攻撃を受けて更に大きく弾き飛ばされ、立ち上がることなく地面に倒れ伏してしまう。
その光景をこそっそり覗き観て見ていた
((
──
平面探知から
──ったく、その
──でもまぁ、間もなくその結末を迎えそうだし、それによく見ると弾き飛ばされた方向がよろしくない。
うつ伏せ状態のタンク役と金髪魔法士を飛び越した位置に槍使いが転がっている。
──フィアースボアが槍使いへと向かって動き出したから、このままだと槍使いの前に二人が餌食になりかねない──
その状況を見かねたアタシは、白メイス君を右手に握り締めると主意識の認識加速を最大まで高め、全開放状態による全速力で巨獣イビルボアの元へと駆け出したのだった。
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フロレアル(主人公)⑦
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