第020話 温水洗浄と合成魔法

 自分自身へと洗浄魔法を使おうとしているが、アタシは真夏の茹だるような暑さでもない限り、冷水でズブ濡れになる趣味は持ち合わせていない。

 アタシは右手をかざし、いともたやすく湯を生み出す──因みに、これは水と火の合成魔法で、ローゼ村ではアタシ以外には使えなかった魔法である。

 そんな才能と魔法力の無駄遣いを気にすることなく、〝ジョロジョロ〟との音と共に湯をたれ流しながら、左手で湯の温度を確かめながら適温へと調節する。


 ──う~む、これくらいでいいかなぁ?うん!それじゃ始めるとしますかね!


 湯の温度に満足したアタシは、息を大きく吸い込むと、自身の全身を包む程の大量の湯を一瞬で生み出し、それに続いて洗浄魔法を行使する。

 洗浄魔法を施している間は、当然ながら身に着けている衣服は濡れてしまうので、嫌でも体へと〝べったり〟と貼り付いてしまう。

 ──となれば、アタシのたわわなお胸様や細くくびれたウエスト、大きめのヒップなどを含めたボディーラインがくっきりと浮かび上がることになるので、実になまめかしい姿を晒すことになるのである。


 ──うーむ、誰かが見ていれば英雄譚の『サービス、サービスゥ!』って名言が使えそうなシーンなだけにちょっと残念な気がする⋯⋯。

 まぁ、見せる様な意中の相手も居ないし、誰彼構わず披露するつもりも無いんだけどね。


 アタシは、そんなおバカな事を考えながら、体や衣服類から汚れを湯へと移し取り、次いで自分自身を包んでいる湯を汚れと一緒に全身から除去する。

 ──アタシが行使する洗浄魔法においては、二流へっぽこ魔法士と違って衣服や身体は完全に乾ききっており、濡れたままとなることは有り得ない──『二流ザコとは違うのだよ、二流ザコとは!』と言うやつである。

 まぁ、それでも一つだけ必要となる作業があるんだけどね──

 それは、洗浄後の仕上げとして風と火の合成魔法で温風を創り出し、髪を整え、ローブの細かなシワを綺麗に伸ばす───最後の仕上げ乙女の矜恃というやつである。


 アタシは、魔法鞄から取り出した木櫛きぐしを使って髪を整えながら、『洗浄魔法では無くお風呂に入りたかったなぁ』と未練がましく考えているとあることに気付く。


 野外でのお花摘みと同じで、野外風呂も可能じゃない?だって、アタシなら土魔法で簡単に浴槽を作れる。

 そして、合成魔法で瞬時に湯を生み出すことができる。

 他の冒険者とかと違って普通に入浴可能じゃない!

 アタシってばやっぱり天才ねっ!──そういえばステータスプレートには秀才って記されていたけど、気にしたら負けな感じがするから、今後は気にしない方がいいわね。

 ──えっと、野外風呂で入浴するとなると、やっぱり周辺の警戒は必須になるから、実現には何かしら対策を講じてからじゃないと無理よね⋯⋯。


 こうして、野外風呂の実現に向けて、あれこれ考えながら髪などを整え終えたのだった。


 アタシは、魔法鞄から取り出した食材で、手早くサンドイッチを作り上げて、簡単な朝食を済ませてしまう。

 その後、立ち上がると腰掛けに敷いていたクッションを魔法鞄へと収納する。

 そして最後には、『立つ鳥跡を濁さず』とばかりに、土魔法で焚き火跡や腰掛けなど、その全てを地中へと埋没させる。

 それは、文字通り跡形もなく、全ての痕跡を消し去り、野営場所を後にする。


 ──こうして、フロレアルの初めての野営と夜営は終わりを迎え、独り旅の二日目が始まったのである。



〜なぜなにシリエル先生〜

 作中でフロレアルが何気なく使用していた湯の魔法生成ですが、普通であれば不可能に近い相反する水と火の合成魔法なんです。

 フロレは、己の能力ステータス値に物を言わせ、無理やり、半ば強引に行使することで、お湯を生み出すことが可能となっています。

 それと温風も風と火の合成魔法となってますが、こちらは相反する属性では無いので湯を生成するよりは簡単です。

 その分、ちょっと油断すると熱風になるので注意が必要となります。

 ちょっとさじ加減を誤ると青白い炎が凄まじい勢いで吹き出したりもします。

 これがフロレアルが昨晩の薪を燃やし始めるのに用いていた魔法でした。

 普通の魔法士では、あんな芸当は不可能なので、魔法で生み出した種火を木くずなどを用いて段階的に火を大きくするのですが、流石はバケモノ能力値さんといったところですね。

 そして、風と火の合成魔法は、面白半分に出力をあげると巨大な炎の竜巻なんて代物すら生み出すことも可能なんですよ。

 因みに、フロレは過去に盛大にやらかしたことがあるので、合成魔法の扱いには注意している様です。


 そもそも合成魔法は組み合わせによっては、想像を絶するような高威力となるので扱いには注意が必要となっています。

 それもその筈、合成魔法は賢者や大魔道士といった魔法士系ユニークスキル保有者の必殺技的なのです。

 その事から、該当スキルが無いと使うだけでもステータス要求値が人族平均の4倍は必要といったところでしょうか。

 もっとも使えるだけで、お湯や温風の温度調整といった細かな調整は叶わない代物しろものなんですよ。


 因みに、これまでにフロレアルは、炎の竜巻以外にも色々とやらかしていました。

 水と火の合成魔法では、面白半分で湯の温度を高め過ぎ、高温高圧の超臨界水を生成してしまいました。

 ソレが生み出された瞬間、当然として水蒸気爆発が生じ、自分自身が大きく吹き飛ばされる羽目に遭っており、かなりの怪我を負った経験があります。

 他にも土と火の合成魔法で溶解したマグマ状物質を生み出して慌て地面を陥没させて付近への流出を慌てて防いだりもしていました。



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 今回は、本編中にフロレアルが『サービスサービスゥ!』と言っていたシーンイメージとなっております。

 本話含めて愉しんで貰えれば幸いです。

フロレアル(主人公)③

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093076506566498

 

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