第021話 絶滅危惧種との出会い方

 徒歩移動とのこともあって、アタシの目には、変化の乏しいのどかな田舎の景色が映り続けていた。

 その似たり寄ったりな景色に、旅を始めて僅か二日目とはいえ、流石に見飽きてしまう。

 アタシが移動にける時間は、晩春たるこの時期では八時間ほどである。

 最初の目的地であるチェーネの町へと向けてアタシが歩く速度は、お世辞でも早いとは言えないものである。

 一般成人女性と比べても背が低いことから、どうしても歩幅が狭くなってしまう。

 その影響もあって、日に進める距離は二〇キロメートル程度であった。

 ──念のために言っておくが、からであって、ので、くれぐれも勘違いしないように!

 それに加えて、アタシが移動に使っている街道は、お世辞でも直線とは言い難いものである。

 大地の起伏などの影響を受け、時に蛇行し、登り下りの坂もある。

 そんなこともあって、直線的な移動距離は更に短いものとなっていた。

 それでも数十キロメートルも移動すれば、見える景色も変わると思われるかもしれない。

 だが現実はそんなに甘くない。

 だだっ広い大地の風景は、たかが数十km程度の移動では殆ど変化しないのである。

 最寄りの町まで徒歩で数日要する世界は伊達じゃなかった。


 ──そんな長閑な田舎道だからこそ、アタシは旅を始めてから僅か二日目にして、旅の目的の一つであり、愉しみとして考えていた事に関して哀しい現実に気付付いてしまうのだった──


 ──参ったわね、まさか一日半も歩き続けているのに、すれ違った人はたったの一人。

 それも旅人や旅商人ですらない、諸用で近くの村へと向かってるような軽装の人物だけだった。

 これほどまでに襲う相手エモノがいないとなれば、盗賊や野盗といったゴロツキどもは、この近辺に生息してないと考えられた。

 なぜなら、生き物に例えれば、餌となる獲物がいなければ餓死するだけであり、そんな環境には生息しないからである。

 ──残念だけど、吟遊詩人がうたい聴かせる心躍る冒険譚のような──特に盗賊や野盗が都合よくホイホイ現れるなんてことは、現実には起きてくれないのかもしれない。

 ──となれば、街道を行き交う人が多くなる大きな街、そこから程よく離れていて、森などの身を隠せる環境があって、獲物を襲いやすいとの条件が揃う場所が生息域の可能性が高くなる。

 しかし、そういった大きな街にはもれなく騎士団やら衛兵といったゴロツキどもの天敵が常駐している筈。

 ──となれば、盗賊や野盗って絶滅危惧種、いわゆる希少種レア的存在なのかも⋯⋯。

 それに吟遊詩人が謳う物語においても、ゴロツキどもは繁栄する事は決してない。

 ゴロツキどもは、物語の主人公ら英雄たちに一方的に蹂躙され、狩られ、その溜め込んだのやられ役だった⋯⋯。

 ──だとすると、〝絶滅が危惧されてる希少種〟ってのもあながち間違いではなさそう。

 ───でも待って、それなら盗賊や野盗などには、容易に遭遇できないとの事!?それは困るわ!!


 こうしてアタシにとっては重大な問題──盗賊や野盗などとの遭遇が難しいとの懸念が生じたのである。

 ──でも、普通に遭遇するのが難しいなら、するべきことは一つ──見つけ出して狩るサーチ・アンド・デストロイしか答えはないわ!


 アタシは、どうにかして周囲の状況を知ることができないかと考え始める。


 ──周囲に盗賊や野盗といったゴロツキども、ついでに魔獣や魔物などがいるかどうかを魔法で探るのは、どうだろうか。

 それが実現できれば、ゴロツキどもを探す他にも、気兼ねなく野外風呂を堪能できるようになる。

 ──野外風呂⋯⋯、想像するだけで、開放的で、実に気持ちよさそうだし、これは是が非でも何とかしなければならない。

 それが叶うまでの間は、諦めて洗浄魔法で我慢するしかない──けど、やっぱり濡れた衣服なベッタリと貼り着く感触だけは勘弁願いたい。


 そんな風に考えていたアタシの頭の中に、一つのアイディアが思い浮かぶ。


 ──なら、水を使わずに汚れそのものを直接除去できれば、洗浄魔法で味うベッタリ感とは、おさらばできる──やっぱり私って天才だわ!


 こうしてアタシは、徒歩移動中の手持ち無沙汰な時間を用いて、自分自身が望む新たな魔法の開発に取り掛かり始めたのであった。



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 今回はお風呂について触れていますので、入浴シーンイメージとなっています。

フロレアル(主人公)④

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093076508065588


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 また、本作主人公フロレアルのキャラクターイメージを近況ノートに投稿しておりますので、よろしければイメージの参考にご覧下さい。

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