第007話 二つのユニークスキル

 所有するユニークスキル魅了淫蕩鬼みりょういんとうきによって、過去の英雄たちをも軽く凌駕する能力ステータス値を誇るフロレアル。

 人外の域に至る──その力を遺憾なく発揮した八つ当たりは、地揺れを伴う程の衝撃をステータスプレートへと与えたていた。

 だが、その表記に一切の変化は無く、その外観にも折れ曲がるといった変形や損傷は見受けられず、それどころかキズの一つさえも生じてはいなかった。

 ──それはこの部屋儀式の間の床も同様であった。

 ただし、あくまでもだったのだが、室内に全くの変化が無かったという訳ではない。

 人外のバケモノによる全力✩︎全壊の連撃に、床下の大地が耐えられなかったのである。

 その結果が生み出した光景──白い床は深く沈み込み、教会の壁やドアと大きな段差が生じ、沈み込んだことで大地の一部が壁と化していた──


 ──暫くしてスッキリした八つ当たりを終えたアタシが目にしたのは、天然の土壁が追加され、天井高が増すとのリフォームを終えた祈りの間の光景だった。

 流石にマズイと思ったアタシは、土魔法を行使してリフォーム前の状態まで復元する。

 そして目を閉じ、大きなため息を吐き終えた後に、現実を受け入れてステータスプレートを床から拾い上げこう思ったの──


 もういいわ⋯⋯、諦めて現実を受け入れよう。──ほんとうに何だか疲れてお腹も減ったし、ここに居ても何にもならないわ⋯⋯。一先ひとまず家へ帰って、これからの身の振り方を考えなくちゃね──


 こうしてアタシは儀式の間を後にしたのだけど、ドアを開けた先にある廊下には、何故か顔色を青した神官が、ガクブルしながら佇んでいた──不思議だったわ。

 ──ローゼ村の|ちんまい》お可愛い》教会を任せれていた神官は、長く続いた慣れない地揺れの中、フロレアルがステータスプレートを賜って部屋から出てくるのをな思いで待っていたのである。

 フロレアルのためと歯を食いしばり、逃げ出したいとの本能の訴えに抗い、聖女の吉報を待ちわびていた神官だったが、ざんねんながら聖女に関する一切の言及を得ることは叶わなかった──


 アタシは神官と多少のやり取りを済ませて、そのまま帰路に着く。

 その帰り道では、何やら慌ただしい村人たちの姿を目にしたが、人生イージーモードから叩き落とされた直後であり、自分自身が似非エセ聖女と知ったばかりのアタシは、気に止める余裕はなく、人目を避けるように足早に自宅へと戻るのだった。


 ──自宅へと戻り、一息ついたことで、アタシは何とか冷静さを取り戻していた。

 そして、改めて自分自身のステータスプレートを眺めていた──


 アタシのステータスプレートには、表を見ても裏を見ても聖女の文字は見当たらない。

 保有スキルが記された裏は、相も変わらず傾国の美貌、魅了淫蕩鬼の二つが並んでいた。

 人々から聖女と称され、自身もそう信じて疑ってすらいなかった者の正体──それが英雄とは真逆の存在、国滅ぼしたる傾国スキル保有者だったのだから驚くしかなかった。


 聖女の正体が実は国滅ぼしの傾国スキル持ちでしたなんて、どこの英雄譚に出てくる反英雄のやられ役なのよ⋯⋯。

 それに魅了淫蕩鬼の脇に記されている捕食数──その数を鑑みると村の住人だけでなく、これまで出会った旅の商人や流浪の吟遊詩人など、生まれて以降に出会った全ての人たちがにえになってると思う。

 英雄譚の名言『是非もないよね☆』というやつだろうか──

 そんなことになってるなんて、これまでのアタシは全く気付いてなかった──


 ステータスプレートから傾国の美貌の効果を読み取り理解したフロレアルは、村の人々の魅了従属状態に関して思いを巡らせる──


 そういえばアタシって、村の人たちから無意味に怒られたことも嫌われたこと、それにイジメられたことも無かった。

 そしてアタシが何かを頼むと、それが無理なことなら申し訳ないなど謝罪の一言の後に、それができない理由を説明された上で断られていた。

 それに突拍子もない頼み事たったとしても、無下に扱われたこともないし、それ以外の事は嫌な顔一つせずに、快く応じてもらえてた。

 幸いなことにアタシのことを思った行動は、魅力従属状態でも制限されない。

 だから、常識や危険に関わる事柄については、叱ってもくれたし、アタシが理解や納得するまで懇切丁寧こんせつていねいに教えてくれてもいた。

 これらの全てが傾国の美貌のスキル効果だたとすると、傾国スキルって恐ろしいモノなのだと再認識したのだった──


 フロレアルは冷静になった頭で、傾国の美貌と対をなすユニークスキル魅了淫蕩鬼みりょういんとうきについて考え始める──と思い当たる節が複数あった。

 それば、自分自身が今までに疑問に思っていたことの答えであり、捕食したにえの数──すなわち魅了した者の数だけ能力ステータス値が際限なく増加することで、人外の領域に至っている己の能力値が原因であった──


 何かしらの保有スキルの効果だとは思っていたけど、アタシって昔から病気をしたこともなかった。

 それに加えて、でなら怪我したことも無いくらい頑丈だし、肉体的に疲労した記憶も殆ど無い。

 そして、料理や裁縫とかの作業も直ぐに覚えて上達してたし、魔法に至っては神聖魔法含めて特に苦にする事も無く、思うがままに扱えてた。

 他にも昔から細腕なのに力仕事とかも難なくこなしていたと言うか力加減が極端だったから、村の人たちから怪力とかの何らかしらの強化系スキル持ちだと言われて、羨ましがられていたくらいだったけど、魅了淫蕩鬼みりょういんとうきが原因だったのね⋯⋯。



~なぜなにシリエル先生~

 フロレアルが保有するユニークスキル、傾国の美貌の怖いところは、魅了され従属状態になったとしても基本的な思考や行動に変化が生じないところにあります。

 なぜなら、フロレに初めて出会った瞬間に魅了従属状態におちいり、それ以降の本人が意識すること無く、フロレに対しての思考や行動のみがスキルの効果を受けて制限されてしまうからです。

 その為、フロレから初対面で受ける印象、それに対する自分自身の思考や行動などの全てが、魅了従属状態の下で生じてしまうので、それが普通であり当然の事として記憶されてしまうんですね。

 ですから、フロレ自身も村の人々が魅了従属状態に陥っていた事実に気付けなかったのは無理もないことでした。



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 また、本作主人公フロレアルのキャラクターイメージを近況ノートに投稿しておりますので、よろしければイメージの参考にご覧下さい。

フロレアル(主人公)①

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