第013話 憧れ×訓練=試し斬り

 アタシは魔法を得意としているが、魅了淫蕩鬼により能力ステータス値が人外の域に達していることもあって、物理戦闘も問題ないと考えていた。

 その事から、攻撃武器として使える得物を携えようと考えており、かねてから望んでいた武器の名を口にする。


「──アタシ、ショートソードが使いたい!」


 アタシは、何があっても、これだけは叶えたかった──何故なら憧れの美少女魔法士はショートソードを携えていたと謳われていたからである。

 だが、無常にもその願いは叶わないのであった──


 村にあるショートソードがかき集められ、その中から一番上等なモノを譲り受けたところまでは良かった。

 それはアタシの憧れであり、望み憧れていた冒険者の姿の一つでもあった。

 そして基本的な使い方を学ぶ最中に事は起きるのだった──


 アタシは、集会所に隣接する広場にて、村人の中にいる数名の剣術スキル保有者たちから、ショートソードの扱い方について、基本的な教えを受ける運びとなった。

 それを受けて、集会所へと集まっていた人々もカルガモの親子のように後に続いて広場へと見物に訪れる。

 初めにアタシは剣術スキル保有者から、剣の握りや扱い方について簡単な手ほどきを受ける。

 その後に、スキル保有者たちが素振りを披露してもらい、アタシは見様見真似で素振りを始めた──


 初めは自分自身の素の筋力値と敏捷値の範囲で全力に近い状態で素振りを繰り返していた。

 だが、アタシは初めて手にするショートソード、その予想以上の重さ、自分の手のサイズに合わない太いつか、それを片手のみで扱うことに苦戦していた。

 だって、アタシにとっては大変な作業───そこ、疑いの目を向けない!アタシの素の筋力値は人族の平均値を大きく下回っているから、短剣を振り上げる、振り下ろすとの動作一つ毎にバランスは崩れそうになるし、短剣は手から抜けて放り投げそうになるしと大変だったんだからね。

 まぁ、だからこそ、それを目にした指導役である剣術スキル保有者たちが、ダメ出しに加えて否定的な言葉を交わし始めたんだけどね──


「──ッ!ダメだ⋯⋯、完全に剣に振り回されている」

「あぁ、これでは、いざという時に、命に関わることに繋がる──」

「──早めに諦めさせて別の得物に変えた方がいいのではないか?」


 アタシには、その会話が聞こえていた──憧れの冒険者をを諦める訳にはいかなかった。それならばと、想定される使用状態である魅了淫蕩鬼による筋力値と敏捷値の能力値増加を全解放フルブーストにする。

 そして披露した人外バケモノ能力値任せの超速素振り。

 その全力☆全壊の目にも止まらぬ斬撃が放たれる度、剣圧として周囲に〝ドンッ!〟と感じる衝撃波が生み出され、振り下ろされる毎に〝バンッ!〟との破裂音が鳴り響く──それは傍から見ても指導していた剣術スキル保有者たちの素振りを遥かに凌駕するものであった。

 それを目にした剣術スキル保有者の一人が驚きと共に声を発する。


「───すっ、凄まじい斬撃だ⋯⋯。これ程のものは初めて目の当たりにしたよ。先程までの素振りは単なる小手慣らしだった様だね⋯⋯。それを見抜けず愚弄する様なことを言ってしまって申し訳ない。どうやら私たちでは特に教えられる事は無かったようだね━━」


 全開放状態フルブーストによる力能力値まかせの目にも止まらぬ素振りを繰り返していた。

 その音速を超える斬撃を受けて発せられた、その一言指導放棄をアタシは免許皆伝と勘違いした結果、一つの要望を──運命の一言を口にしてしまう。


「素振りに問題がないのなら、次は試し斬りをしてみたいわ!」


 この一言からフロレアルは大した練習も指導も受けぬうちに試し斬りに挑むこととなったのである──


 アタシは自ら進んで試し斬り用の人物像カカシを二体、土魔法で創り出す──良くは知っているが斬り伏せても構わないと思える者の姿をイメージした渾身の作である。

 流石に身近にいる村の人々の姿を模した人物像を切り伏せるのはよろしくないと思えたからである。

 ソレを目にした剣術スキル保有者たちは顔を引き攣らせていた気もするが、アタシとカカシの硬さ調整に勤しんでもらう。

 そんな光景を見守っていた村の人々はヒソヒソと小声で話し始めていた──


「あれってフロレちゃんの━━」

「やっぱりそう思うよね⋯⋯」

「時間が経ってもダメなんだな」

「まぁ、今更気にしてもな──」


 そんな会話が小声で飛び交っている中、カカシの調整が終了する。

 先に最も高いレベルの剣術スキル保有者──先程アタシに免許皆伝を伝えた男が手本として試し斬りを披露する運びとなった。


 ──ブロードソードを携えた一人の男がカカシの前へと静かに近付く。

 その光景に呼応するかのように、村の人々も息を潜めて静観し始める。

 男が間合いを測り、右上段へと剣を構え、短い溜めを終えた──次の瞬間、剣が振り下ろされる。

 斬撃が風切り音を発した

直後、〝キンッ!〟との甲高い音が発する──すると袈裟斬りされたカカシの右上半身が重力に従って地面へと滑り落ちる。

 その断面は滑らかで、カカシにヒビや欠けは生じていない。

 そして残心している男が構えている剣にも刃こぼれは生じていなかった。

 流石は高レベル剣術スキル保有者であるシーバルさんといったところであった。

 見物していた人々からは拍手と共に感嘆の声が上がる。

 その様子を目にしたアタシは、初めての試し斬りに軽い緊張を覚えていた。

 そして、自分自身も同様の結果が得られる事をイメージしながら全力☆全壊で試し斬りに臨むのだった──


━━━━

 ご愛読頂きありがとうございました。

 楽しんで頂けましたら、作者の励みにもなりますので、フォローや応援などして頂けると幸いです。

 また、本作主人公フロレアルのキャラクターイメージを近況ノートに投稿しておりますので、よろしければイメージの参考にご覧下さい。

フロレアル(主人公)①

https://kakuyomu.jp/users/kunnecup1103/news/16818093076506181419

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る