第011話 憧れ×懸念=決意

 自分自身のユニークスキルについて一晩色々と考えた結果、アタシは生まれ故郷であるローゼ村から旅立つことを決意していた。

 村の全住人を従属させていることから村に残りニュークスキルを秘匿しながら、気楽に暮らすとの考えが全く無かったとは言わない。

 だけど、こう思えてしまったのである──


 ぶっちゃけ同じ環境に住み続けるなら国の外れの山間やまあいにある田舎の村よりも町、可能であればより大きな街の方が良いに決まっていると──だって、大きな街の方が当然より多くの人や物が自然と集まる筈だもの。

 それなら美味しい料理や珍しい食材、可愛くてオシャレな服、未だ知らぬ英雄譚など、興味惹かれる様々なモノが満ち溢れている筈だもの。

 例え、その街に飽きたとしても新たな街へと移れば、必ず新たなモノと巡り遭うことができる筈だしね。


 アタシは、のどかさと自然だけが取り柄のローゼ村に大きな不満は無かった──それ故に新たな体験が望み薄な故郷には、留まり続けるとの選択肢を選ぶ事はできなかったのだ。

 それに加えてアタシは、旅の吟遊詩人がうたっていた英雄譚に登場する美少女魔法士の物語が特に好きで、強い憧れを抱いていた。

 その謳われし美少女天才魔法士は、盗賊や野盗などを駆逐しつつ、強大な敵を打ち倒し、富と名声を得ながら世界を旅していた。

 その憧れがあったことも、故郷の村から旅立つことへの後押しの一つとなった───


 それとは別に成人となった今では、権力者による囲い込みなどを受けることも考慮する必要があった。

 最悪のケースとしては、ローゼ村の人々を人質に取られ、城や神殿などに軟禁されることも考えられるので、故郷に留まること自体もリスクと思えたのである。

  もっとも、その様な事態に直面した場合には、魅了淫蕩鬼みりょういんとうきによる能力値増加ブーストを全解放して、人外の域に達する能力ステータス値にものを言わせる考えであった。


 その他にもアタシには、似非聖女の発覚を避けるという問題にも挑まなければならなかった。

 聖女のユニークスキルを有していないことは、当然ながら誰にも話してないし、今後も明かすつもりも無い。

 不幸中の幸いなのかは判らないけど、自分自身が似非聖女と知った後でも上級クラスの神聖魔法を使うことは出来たのだが、今後は可能な限り使用を控えるつもりである。

 それは、聖女のみが実現・実行できる広く知られていない何かがあったとしたら、その時点で似非聖女が発覚して人生詰んでしまうと思われた。


 そしてアタシには、内に抱えたもう一つの爆弾たるユニークスキル傾国の美貌が露見することも危惧していた。

 傾国の美貌、名称からして英雄譚にも登場する国滅ぼしの悪女など反英雄が保有してる傾国スキルの一種──これもバレたら似非聖と同様で、傾国スキル持ちと知った国々から命を狙われかねない。

 どちらにしても最終的に捕えられて幽閉、その後に消されること請け合いと思われた。


 もしもこの二つぎ発覚した場合──似非聖女なら、多くの人々をたぶらかし、聖女を貶めた悪魔──傾国の美貌なら、国家転覆を企てた傾国スキル保有の悪女──と認定され指名手配されそうである。

 そして最後には、ずた袋を頭に被せられて公開処刑される末路が目に浮かんでしまう。

 その事からアタシは、似非聖女や傾国の美貌の露見するのリスクについても考えていた──


 他人のステータスプレートに記されている保有スキルを確認できないことは救いだけど、アタシが思い付くだけでも知り得る方法は幾つかある。

 アタシだって魅了従属状態の相手なら尋ねるだけで、保有スキルや隠している情報を聞き出すことは容易たやすい筈──これは、類似する効果を有する者も同じであることを意味していた。

 それに加えて、有名どころで裁定官や魔法具には事の真偽を判別するとの効果を有するスキルやモノが存在していた──まぁ、これは、幼少教育での嘘つきはダメとの小話が元ネタなのだけど、広く知られているからこそ実在している可能性が高いと考えられ、何かの際に露見に繋がる恐れがあった。

 それらへのアタシ個人の対策としては、英雄譚で傾国スキルが露見する場面を参考に考え、魅了が通じない英雄が鑑定やらのスキルや魔法具で見破る流れがセオリーとなっているので、対抗手段として隠蔽スキルを育てた方が良さそうと考えていた。


 その一方で、アタシが上級クラスの神聖魔法を使える事、村の人々が聖女と思い込んでいる事も不安材料の一つであった。

 それに関わる別の問題として、傾国の美貌による魅了従属状態にも厄介な落とし穴が露見していたからである。

 それは、アタシにとってとなりえる行為であっても、当事者がアタシに対してと思っている行為に対しては、スキル効果である自動的な抑制が働かないことであった。

 これは、神官を蘇生させた直後だったけど、神官が聖女発見の一報を神殿に送ろうとしていた。

 その時は、アタシが成人の儀でテータスプレートを賜る前だからと聖女と広く知られることは望まない旨を伝えたら、神官は驚くことすらなく二つ返事で、その要望を受け入れていた事から、その時から既に魅了従属態だった筈である。

 それなのに成人の儀を終えた後に廊下に出ると何故か青い顔をした神官が待っていて、その手に封が施された文を持っていたのである。

 それは神殿に聖女降臨の一報を入れるための封書で、神官が良かれと思って、いち早く神殿へと報告する為にと事前に用意していた物だった。

 そうと知ったアタシは、反射的に神官が手にしていた封書を消し炭にしてから、同様の封書などが無いことを問い詰めた上で、神官には他者へ周知することを禁止したのだった。

 この事があったからこそ、アタシは魅了従属状態の落とし穴について、早々に理解することが叶っており、幸運だったともいえる。

 だからこそ、魅了従属状態による口止めは、決して万全ないので、ローゼ村に限らず、アタシが上級クラスの神聖魔法を使えると知られた場所に留まり続けること自体がリスクだと判断したのだった。


 ──故郷のローゼ村から旅立つ理由を色々と並べはしたが、最終的にフロレアルは憧れの美少女魔法士の名言『悪人に人権は無い』に則り、盗賊や野盗を狩りながら富と名誉を求めつつ、理想の居住地を探し求めて旅をする決意を固めたのである。



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フロレアル(主人公)①

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