第8話 愛情
●8・愛情
議員たちは本会議場を出ていく者、残る者が半々で状況説明を待っていた。15分後、発電区画の主任・荒沢が現れた。
「電力供給システムのバイパス線に過大な負荷がかかり停電してしまいました。現在、復旧作業に取り掛かっていますが、復旧する見込みはたっていません」
「荒沢主任、早くなんとかならんのですか」
第二船体議会院の議員が呼びかける。
「原因究明をしっかりとし、今後、同じことが起きないように願います」
第三船体議会院の議員は厳しい表情を向けていた。
「皆さん、お聞きの通りですので、本日の本会議は終了といたします」
石川議長は荒川主任の横に浮遊していた。
竹上のIDスマホに春川からのメール着信があった。
『香澄さん、諒太さん、桃香さんは私の家で保護しています。安心してください。一泊してもかまいません。復旧次第、安全に帰宅できるよう手配いたします』とあった。
「竹上先輩、第二船体は無事でしたか」
竹上の隣で浮遊していた鹿野がスマホを覗き込むように言ってきた。
「第二船体はわからんが、俺の家族は春川QR2の家にいるから、何の問題もないようだ」
「春川の家ですか」
鹿野は驚いていた。
「春川の子供の面倒を見るために行っているんだ」
「本当に大丈夫なんですか」
「春川を信頼しているからな」
家族のいないガランとした家の中には、カーテンの隙間からか細い光が射していた。非常電源で作動しているかなり弱く制限されている人工太陽は、月明かりのような雰囲気があった。竹上はLEDランタンを消そうか点けたままにしようか迷っていた。
「竹上先輩、寂しいようでしたら、今日は酒を持ってお邪魔しますけど」
「よせよ。寂しくなんかないよ。せいせいしている感じだが、鹿野は、どうする予定だ」
竹上はハンズフリーにしたIDスマホで話していた」
「前の会社の社長が紹介してくれた彼女でも呼ぼうと思ってます」
「いいじゃないか。しかし朝になっても復旧しないとはな」
竹上が言っていると、人工太陽が力強く輝き出し、リビングの照明も点灯した。
「おい、電力が復旧したぞ」
竹上はオンにしたままだった照明のスイッチを消し、カーテンを開けていた。
本会議は明日再開と決定し、竹上は家の中をあてもなく掃除し、家族たちが戻って来るのを待っていた。
「ただいま、パパ寂しかったでしょう」
妻の香澄が開口一番言ってきた。
「そんなことないよ。ちょっとだけな」
「まぁまぁ、そうですか」
「で、どうだった」
「あっちの家庭は実際に入ったことがないから、どんなものかと思ったけど予想通り、機械だらけで無味乾燥と言うか冷たい感じがしたわ」
「パパ、SVR6って、人間同士でトランプをしたことがなかったりで、初めはとっつきにくかったけど、遊び出したら、いい奴だったよ」
諒太はニコニコしていた。
「夜ご飯食べてから、あたしたちと溶け込んできてくれて、やっぱ子供って感じになったわ」
「おいおい、桃香だって子供じゃないか」
「春川さんちの子って、あたしが冷蔵庫の残り物で食事を作ったら、こんなもの食べたことないと、喜んじゃって、何か仲良くなれたみたい」
「ヘルパーロボットじゃ、想定していない事態だからな」
「それで、春川さんが感謝の品を持ってお礼に来ると言ってたけど。夕方になるみたいね」
「わざわざ、来なくても良いのにな」
「あのおじ…おば…あの人、うちのワン太を見てみたいって言ってたよ」
諒太は飼い犬を呼び寄せていた。
「生身のペットはあっちでは珍しいからな」
竹上は足元に寄って来たワン太を撫でていた。
春川がスイーツのセットを持って訪ねてきた。竹上がワン太を抱きかかえて、玄関まで出迎えたが、春川の姿を見て、逃げ出してしまった。
「ワン太、ほらどうした」
竹上が呼ぶが姿を隠してしまった。
「私は嫌われてしまいましたか」
「じっくりと接すれば、仲良くなれます。気にしないでください。さっ、どうぞ」
竹上はリビングに案内した。
「私の第2子の様子を見て気付いたのですが、あそこまで明るい表情になったのは初めてです。それに私も第1子のことで手いっぱいだったので助かりました。特にこの停電時には」
春川は羨ましそうにリビングに集まる竹上の家族を見ていた。
「本会議でけなし合いをしている間に、起きてしまった停電です。全く予想もしていませんでしから、困っている時はお互い様です」
竹上は警戒を少し解いてきたワン太を呼び寄せると、リビングテーブルの近くまで来た。春川は少し表情を緩めていた。
「何気ない親子の愛というものが一緒にいることや、人と人とのつながりが、いかに大切かわかりました。シミュレーションでわかったつもりになっていたのですが、それではダメだと。我々にとっては、全くの驚きです」
「いやいや、たった一日のことで、そこまで感じ入るとは、さすがに中性の方は知的レベルが高い」
「ただただ高いだけで、血が通っていないのです。頭でっかちで考えているに過ぎません。お金やサポート体制をどんなに手厚くしても、それは親の利便性であって、母親の愛の大切さ父親の見守る愛の深さを子供が求めていることを反映していなかったです」
「ここに我々第二船体民も、あなた方第三船体民も得るところがありそうじゃないですか」
竹上の胸の内では何か大きなものをつかみかけていた。
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