第7話 お節介
竹上は船体間連絡エレベーターを第一船体で乗り継ぎ、反対側の遠心力重力がある第三船体に行った。第三船体の街並みは第二船体とそれほど変わらず似たような感じであった。しかし子供の声が聞えず、外で子供が遊んでいる様子も見られなかった。
春川の家は住宅街のはずれにあった。
「今日はお父さん…お母さんいや…、親はいないのかい」
竹上は留守番をしていた6才ぐらいの子供に声をかけていた。
「親のQR2ですか」
子供らしさがなく、大人びている子供が応えていた。
「そ、そうそう春川QR2さんは、どちらに」
「第1子の付き添いで病院に行ってます」
「病院か。となると君は第2子だね」
「私は春川SVR6です。あなたは、親が言っていた融和的な議員の竹上さんですね」
「知っているのか」
「はい。親の話や映像によく出てきますから」
「そうか。で、君は一人でいるのか」
「人間は一人ですが、サポート用のヘルパー・ロボットと一緒です」
「なるほど、しかしこれだけ、いろいろな装置に囲まれていると、暮らしに困ることはなさそうだな」
「住環境と私の教育環境は充実しています。私をクリエイトしてくれたQR2には感謝しています」
「それで第1子の容体はどうなんですか」
竹上もだんだん大人と話している感じになってきた。
「プライベートなことなので、詳しくは話せませんが、楽観できる状態ではありません」
SVR6は一瞬寂しそうな目をしていた。
竹上のIDスマホに春川QR2からの着信があった。
「竹上議員、わざわざ訪ねていただなくても、問題はなかったのですが、あなたのお気持ちに感謝いたします」
「何か不便なことがあれば、お手伝いしますよ。何せ、融和的なあなたがいてくれないと、本会議はまとまりそうにないですから」
「第1子の容体が落ち着かなくても、明日はリモートで出席しますから大丈夫です」
「無理はしないでください。本会議はこの先も長くなりそうですから。あぁそれとクッキーの詰め合わせを置いていきますから、食べてください」
「第二船体で有名なあのパティシェのクッキーですか」
「はい」
「ありがとうございます。それでは本会議でお会いしましょう」
春川QR2は目の下にくまを作っていた。
「それでは、私はこれで失礼します」
竹上が帰ろうとすると、SVR6が思わず手を引っ張っていた。
「もうちょっと一緒にいても、良いと思いますが…」
SVR6の目は純真な子供の輝きがあった。竹上は父親として、遊びたがっているこのような諒太や桃香の目を何回も見たことがあった。
「君の今日の予定は、どうなっているのだ」
「プログラム演習とバイオリンの練習、対人コミニケート・シミュレーションがあります。これらは毎日欠かすことはできませんから」
「今日は休日だよね。犬と駆け回るとかゲームとかしないの。うちの子たちはするけど」
「対戦ゲームはPC相手にできますけど、犬はいません」
「子供どうしでゲームをしたり鬼ごっこをしたりはしないの」
「一般的にはしませんけど」
「やっぱり愛が足りてないよ。お節介かもしれないが、明日学校が終わったら、妻と子供たちがお邪魔しても良いかな」
「良いですよ。お待ちしております」
「わかった。春川QR2さんにも連絡して、許可を得たら、そのようにするよ」
「なんか、楽しそうです」
SVR6は今まで見せなかった笑顔を見せていた。
本会議場に春川QR2の等身大モニター画面が浮遊しているので、竹上は少し気が和らいでいた。
「とにかく第二船体では、他人に干渉するお節介が過ぎるように感じられます」
両性具有の木島は第二船体議会院議員たちを見下したがごとく見ていた。この発言に春川はちらりと竹上の方を見て、またかという顔をしてニヤリとした。
「といいますと」
島木にはいかにも気が強い女性と言った雰囲気が漂っていた。
「お見合いなど、他人の結婚に干渉することが筆頭に挙げられます」
「その話は今本会議では関係がないことは思いますが、あえて申し上げますと、いろいろなハラスメントがあり、それにつながる可能性を考慮すれば、自ずと恋愛や結婚のきっかけがつかめません。それで結婚件数が減ったので、是正するために見直されたお見合い制度です」
「そのような事をするから人口が増えるのです」
「人口の偏りの問題は、別の機会にしましょう」
竹上が口を挟んだ。
「男性は結婚して妻が専業主婦になれば収入が増え、女性は専業主婦になれば、夫に働かせて暮らせ、職場での嫌な人間関係や外出時の生理の不安から解放されると宣伝すれば、誰だって結婚したがり出産するでしょう」
木島は竹上の言葉を無視するように続けていた。
「あくまでも多様性の中の女性の人生モデルの一つです。強制はありません」
島木は息を荒げていた。
「あたなは女性ですよね。自由を奪われ、女性を家庭に縛り付けることに疑問を抱かないのですか」
「それはあなたの偏見です。身体的に見ても、女性は家にいて子供に愛情を注ぐのに適しています。男性のゴツゴツした手で抱かれ、合成ミルクを飲まされるのと、女性の柔らかい手で抱っこされ、母乳を飲むこととを比較したら、乳児はどちらを好むと思いますか。男性が女性の真似ごとをするのではなく、分業が必要なのです」
「またそれですか。それは回帰主義者の屁理屈に過ぎません」
木島はうんざり顔であった。
「どう説明しても、無理なようですね」
「育児についてはわかりました。それじゃ、女性が離婚したくなったら、どうなるのですか」
「権利権利と言って離婚を奨励しているように見えますけど。以前の男尊女卑の時代と違い、夫は妻が家庭を守ってくれることに感謝し、妻は稼いでくれることに感謝し、互いにリスペクトして家庭を築いている実感があり、離婚件数は『つくば』出航時から比較すると激減しています。それでも離婚する女性はいるでしょう。それに対
する支援として、単身になっても子育て世帯主としての特別手当もありますけど」
「素晴らしい制度ですね。でも第三船体では無用の長物ですか」
木島はかなり皮肉交じりであった。
急に本会議場の照明がちらつき、全て消えてしまい、非常灯だけの明かりになった。本会議場内は騒然とした。リモート出席している議員の等身大モニター画面は、何も映らず沈黙していた。
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