第11話 配信といったらやっぱり

前回の配信から一週間。今回は自分の部屋で歌ってみたいと思ったから、歌枠をやってみる。最早薄れかけてきている前世では、推していたライバーが歌うまな人で毎回の歌枠が楽しみで仕方がなかった記憶がある。かくいう僕は、推していたライバー以外のMVなんかも口ずさんで学校に行っていた気がするけど。僕、男だけど歌声だけは高かったんだよね。そのおかげで、中学校は三年間合唱コンクールでソプラノでした。女子ばっかりの周りで歌うのは緊張したなぁ...。

まあ、今となっては僕がその女子なんだけど。


いつも通りに配信を始める...その前に、ほんの少しだけネットでヴァーチャルライバーと打ってみる。当然出てくるのは僕の動画ばかり。ま、当然か。そう思って、いつものことながらもほんの少し落胆してゴーグルのサイトを閉じようとした僕の目に、一つのサイトが見えた。

『ヴァーチャルライバー計画、始動。X DAY:12/17』

サイトに記された名前は、ホロストリーム。僕が推したライバーが所属していた、ヴァーチャルライバー事務所最大の知名度を誇る事務所。

僕は喜びに発狂して、直後しゃっくりが出始めた。ま、まあしょうがないよね...。


「ってことで!唐突の歌枠やりまーす!今日はね、いよいよって感じな報告もあるから是非ゆっくり見て行ってね!」

早速僕は歌枠を行った。配信で重大告知と言えば歌枠、僕のみち民(道連れの民)生活1年半がそう言っている。みち民生活はそんなものだけど、しおこん部生活2年間の中でも同じことを言っているから間違いない。

『ゆっくり見て行ってね!は草』

『まあワイらが掲示板から流れてきたのが多いからだろうなw』

『あの、正直言って分からないんですが...でもまあ、ヴァーチャル配信者の伝説になるだろうイア様が言う事だったら、ゆっくり見ますかねえ』


一番下のコメントが気になった。掲示板民じゃなくて、しかも最早この配信業界にも浸透しているゆっくり文化を知らない民がいるだと...!?これは、期待大だねぇ^^

掲示板民特有の口調を持たない視聴者13名(期待大)を、モデレーターに設定しておく。これは簡単に言うとアンチコメをブロックできる権限を持ったコテハンということで、それ以外にも名前が青色になってスパナみたいなのが横に出るからすぐに『ヴァーチャルライバーの期待の星』を表すことができる。僕たちの期待の星だ、その光は不可侵にして守り抜かねばならない素晴らしいものだ。―――まあ、掲示板民はどうなのかは知らないけど。一ライバーとして、そしてそんなライバーを推す一人のファンとしてこれからデビューするであろう彼らを守り抜かねばならないのだ。そして彼らは四天王と呼ばれ始め―――うん、夢が広がるねぇ^^


「みんな!ライバーになる子がいたら、その子の配信をぜひ見て欲しいな!僕との約束だよ?破ったら―――」

『やぶったら?w』

『wktk』

『何をするんだろうなー』

僕はその人数に比例しないほど多いコメントの濁流に―――笑顔を向けた。今回は自分でも理解できるほどスイッチが変わったね、うん。

「―――皆様のアカウントは、恐らくシロが消去いたします故。私を害する行為をしたものに対しての処罰は、彼女が最も恐ろしいですから」


勿論、コメント欄が少し困惑しているシロ(と、僕の中にある謎人格『故さん』)への謝罪で満ちたのは当然のことだろう。



「―――さてと、最近のボカロの曲はいっぱいあっていいね。六京年とか(僕がいた世界だと2012年の六兆年)、気まぐれメルトとか(現実だと気まぐれメル〇ィ)。

ああいうの聞いていると、僕も自分の声を録音して処理して、ボカロとして出したくなるよ。Yuk=i=aとかそんな感じの名前でさ?」

『最近だと色々あるしな』

『主がボカロになるは草』

「草生やすな!でも、実際絵師もボカロpもやってみたいかなあ。今度、お姉ちゃんに倣ってイラストレーターになってみようっても思ってるし、その時もYuk=i=aって名前使う予定だから、まあ僕が配信界から消えたらさっき言った名前で検索かけてみて。あ、スペルは大文字のyにuとk、半角イコール、i、半角イコール、aだよ」


僕がそういうと、コメント欄がにわかに騒がしくなった。

『2度とそういうこと言うな』

『やめたら俺らも死ぬからな』

『涼宮n子🔧:イア様の後引き継いでVになるかなあ』

「お、おおぅ...。みんなしっかり眷属してるね...。」

眷属たちは、すでに掲示板民ではなく一人のVオタだったようだ。それが嬉しくて―――同時に、寂しく感じた。



「じゃあ、宣伝行きます!デデン!」

〈ヴァーチャルライバー計画、始動。X DAY:12/17〉

「僕が初めてのヴァーチャルライバーなように、当然世の中はヴァーチャルライバー事務所というものも出来るよね!―――ヴァーチャルライバーなんて言葉、3ヶ月前くらいに初めて出たはずなんだけどなあ。あまりにも形になるまで早すぎでしょ。シロさんなんかした?」

ヴァーチャルライバー関連で異常に速い対応の時はシロを疑え。これ、古事記にも書いてある。

『シロ🔧:ん?そうだが?なんならそのライバーワイだが?』

―――場が凍りついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る