第12話 シロ―――
シロの一言で、空気が凍てついた。いや、もちろん比喩表現だけども、少なくともコメント欄の流れも僕の顔の動きも一切なくなった。
『シロ🔧:イア様を見て、私も動かないとなって思って。優k
コメントが一瞬途切れ、
『シロ🔧:イア様を見て、私も動かないとなって思って。イア様と一緒にコラボしたいし』
その行動理念に、ようやく僕たちも息を吹き返す。やっぱりいつものシロだ。さっきのコメントは見間違いだろう。―――優希、って打ってた気がしないでもないけど。前世の僕の名前を知る人なんて僕しかいないだろうし、きっと見間違いか過剰反応だろう。
『シロ🔧:いやぁ、今までの慣れない口調も大変だった。どこかの誰かさんは姉妹百合しているし、そんな二人が生み出した存在を掲示板時代から捕捉されてるし、しかも今も見られているし』
『シロ🔧でも、そんなイアだからより愛おしく感じるというか...魂で繋がっているから、なおさらもっと楽しんでほしいというか』
『シロ🔧:だから、私をどんどん頼って。私に心を委ねて。他の誰も見ないくらいに愛して?』
文脈が崩壊したシロの文字列。僕はそれを見て―――
「―――それは、僕のことを愚弄しているの?」
静まり返ったコメント欄。元々静まり返っていたそのコメント欄は、僕の言葉によってさらに冷たく落ち込んでいた。
「なんで君のことを愛さなきゃいけないの?僕が愛せるのは自分だけ、ライバーは推すものなんだよ?君は何もわかっていない。いや、分かりきっているだけで本質はレンドと同じだよ。僕のことを愚弄して否定して精神の傷を抉って、それの何が楽しいの?」
コメント欄に映る文字は僕の目にはもはや届いていない。僕の心は固く閉ざされて、もう開くことはないだろう。
「―――せめて、最後に別れの言葉をあげるよ。『呪いは回帰し、邪神は滅ぶ。剣は即ち盾となり、怒り即ち力となる。望むのならば、僕は何度でも蘇る。』だから―――――――――」
―――そこで、配信は途切れている。
―――
電子世界のある場所で、ある電子生命体が絶望と恐慌に侵されていた。シロと名乗っていたその生命体は、かつて肉体があった時は佐々木依在という名前だった。彼女は、自らの踏み入れた地雷原に絶望していた。そして、地雷原の爆発によって目覚めてしまった、恐怖を司る神に恐慌していた。自らが踏み出したその地雷原は、自らにとっても危険だとわかっていた道。だが彼女は、踏み入れてしまった。そう、踏み入れてしまった。
かつて崇めた邪神は消え、彼女がリンクしていた対象ともほぼ全ての事象で接触が不可能になっていた。稀に生存が観測できるが、シロと名乗っていた電子生命体はすでに持っていた能力の大半を失い、そして絶望の檻に閉じ込められていた。彼女が唯一できることといえば、それはかつて自らが壊した花園を―――ヴァーチャルライバーを再び生み出すことだけだった。
少女は、再び写真が甦る日を待つ。
―――
あるイラストレーターに、ライバーのイラスト担当の依頼が届いていた。事務所名とライバー名に苦笑しつつも、少女はすぐにそれを仕上げた。
邪神は滅び、何も映さぬ月が上り―――そして、月影に巨大な艦影が写ろうとしていた。
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