第8話 初配信
配信の予告をしたのが昨日。僕のチャンネル登録者数を見てみると、400人ぐらいになっていた。某一番最初のライバーさんも初めての配信の時はこんなにはいなかったのではなかろうか?もしくは、あの雑な初配信が魅力的に映ったか...?な訳ないかw
そして、それから1週間お姉ちゃんの手によって配信でやらかさないように矯正された僕は。なんだか既に30人が待機している僕の初配信を前に大きく息を吸って―――やる気を込めて頬をはたいた。
そして、配信開始をクリックする。
「―――眷属の皆さん、初めまして。貴方達が崇める邪神にして、この世界で初めてのヴァーチャルライバー。イアなのです」
『シロ:前回みたいなへましてない!流石はイア様!』
「なっ!?ち、違う!へまじゃなくて、おばあちゃんが―――あっ」
『クロ:呼んだかな?あ、どうもクロおばあちゃんです』
『アルカ:やっぱイア様はこれじゃないとな』
「ち、ちがっ...私は、って、眷属!私の事を煽るのはやめるのです!じゃないと―――」
『クロ:じゃないと?wktk』
「―――配信をやめます故。私は、絶対権力を持っています故。あまり煽りすぎると、本当に配信をやめるので、煽るのは得策ではないと忠言しておきます故」
―――はっ!?意識が一瞬跳んでいた。もしかしたら、故って言っていたかもしれない。
『クロ:故さんゴメンナサイ』
『シロ:故様お許しください』
強いなあ、故さん。僕とは思えないね。
「えーっと、大丈夫なのです。...で、なのですって言う語尾外していいですかね?」
『クロおばあちゃん:ええやで』
『オル:おk』
「まあ、おkと貰ったんで外しますね。いやあ、意外となのですって語尾は疲れますね。ああ、クロおばあちゃん、今日のご飯は私―――いや、Vのライバーが初めて配信した日ということで、赤飯をお願いいたします」
『シロ:おばあちゃんを顎で使うVライバーって何なんだろ』
『クロおばあちゃん:↑お前の推し定期。赤飯はもう炊き上がっているから、あと少ししたら降りてくるんやで』
「おお、流石おばあちゃん!じゃあ、後は適当に配信して、それでおばあちゃんとお姉ちゃんと一緒に打ち上げと称してお酒を―――」
「飲ませるわけないだろー!」
突然、扉があけられる音がする。驚いて後ろを振り向くと、息を荒くして僕を睨みつけるお姉ちゃんの姿が。ただ、配信には載っていないようで安心安心。
「ちょっとー、お姉ちゃん配信に映ってたらどうするの?」
「映ってたら、じゃないよ!酒なんて許すわけないでしょ!依在、まだ未成年でしょ!?」
『クロおばあちゃん:いやあ、甘酒ならいいでしょ』
「おばあちゃん!?許可しないの!―――ああ、でも甘酒ならいっか。良し、甘酒なら許可する!私はビール、おばあちゃんは大吟醸ね!よーし帰ろっと!」
「え、ちょ―――」とかいう僕の話を聞かず、お姉ちゃんはすぐに部屋を出ていった。
「...チクショー!お姉ちゃんなんて嫌いだー!」
僕の声は、虚しく部屋内に響いた。
「―――じゃあ、このあたりで配信切り上げまーす。次回配信はいつになるか分からないけど―――取り敢えず、暫くして色々ソフトとか揃えたら配信するので、それまで暫く配信は無し!じゃあ、またねー!」
僕はそう言うと、配信を切る。アーカイブ設定をオンにしていたので配信はアーカイブとして残る。まあ、良いでしょう。
配信部屋を後にして、僕はご飯を食べに下に行く。
宣言通りにおばあちゃんは赤飯をよそっていて、他のものはイカ焼きとタコの足の刺身、豚のカシラ肉を使った具がたっぷりの豚汁。結構おいしそうだけど、『クトゥルー神話の邪神=なんかにょろにょろした触手』みたいに思われている気がして少し不満を抱かない事もない。実際いるらしいし否定はしないけど。
「おお、もう配信は終えたのね」
お婆ちゃんがそんな事を言うけど、「見てたよね?おばあちゃんもさ」と突っ込む子余は忘れない。「何の事かしらねぇ」などと言ってはいるけど、それならせめて目を合わせて言って欲しかった。
「おぉ、なんか今日は豪華だなぁ。婆、今日はなんぞあったのか?」
お爺ちゃんが戻ってきて、そんな事を言う。お婆ちゃんは「今日はねぇ、Vライバーが初めて配信したのよ。それも、依在が中の人だからお赤飯炊いちゃって」と素直に答える。
お爺ちゃんはVライバーという単語にピンと来ていなかったみたいだけど、「まあ、依在がなんかするってのはいいことだな。爺は若い時は...ああ、何してたっけな」と少しボケた回答をしてたからまあいいか。
お父さんは昨日から海外出張で、お母さんは
お姉ちゃんが最後に来て、「ん~。依在ー、今日もいいにおいするなー」って酒臭っ!?
「お姉ちゃん、もう酒入れてるの!?」
「んー?五月蠅いなー」
「んぐっ」
お姉ちゃんに口を塞がれ、そのまま強く抱きすくめられる。恥ずかしいのと酸欠で赤くなりながら引きはがそうとするけど、お姉ちゃんは力が強すぎて離せそうにない。
「ん~」
「...ッ!(ガンガンガン 」
腕を思い切り殴るけど、お姉ちゃんは意に介することなく僕をさらに強く抱きすくめる。
...あっ、そろそろ本格的にヤバいかも...。
そう思った瞬間、僕を抱きしめていたお姉ちゃんの身体が大きく揺れた。
「ガフッ!?」
その頭に大きく拳を振り下ろしていたのはお婆ちゃんだった。
「殺す気かい!?全く、それで依在が死んだなんてなったら洒落にもならないからね!」
お姉ちゃんはすごく痛そうに頭を押さえていたけど、お婆ちゃんの鬼のような顔に「ゴメンナサイ...。」と僕に頭を下げた。
まあ、僕は僕で初めてのキスを奪われたのと酸欠で大きく呼吸していたので反応は出来なかったけど。
ご飯を食べ終わって、次の配信は何をしようかな、などと考えて。
僕は、眷属たちとの会話を楽しく思っていることに気付いて苦笑した。
夢は、見なかった。
―――
『Ia Ia/イアch.』
登録者 362人(眷属+たまたまこの配信を見た数人の未来のライバー)
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