第7話 準備期間

風呂から上がってしっかりと乾かし、布団をかぶる。ちょっと寂しい気がする。大体はお姉ちゃんが一緒に居たからか、もしくは掲示板を見ていないと言うネットアディクトとしての症状なのかは僕には分からないけど...どちらにしろ、僕は中々眠りに就けなかった。


それから少し時間がして、つけっぱにしているPCから音がしたので確認してみるとお姉ちゃんからのディスコール。相変わらずリアルでの著作権が心配な名前ばかりのこの世界のそのソフトでお姉ちゃんが僕に通話を掛けてきていたので、僕はそれにEキーを押して応答する。

「どうしたの?」

僕が問いかけると、お姉ちゃんは笑顔になって、『これ見てよ!』と後ろにある液晶タブレットを見せてくる。そこに映っていたのは仮と思しき僕―――Ia Iaのライバーとしての姿。まあ、どうせ下の方は映らないんだけどね。


でも、すごくかわいい。僕が同じものを描こうとしても、時間をかけて頑張ってこれの3割程度の見た目だろう。もしくは、そもそもが上手く描けなくてへのへのもへじか棒人間がオチだろうか。

「すっごいカワ(・∀・)イイ!!」

『顔文字になる顔って何なんだろうね...』

おっと、お姉ちゃんを戸惑わせてしまったらしい。でも、まあ僕の特徴というか、比喩表現じゃなく顔文字になる顔は流石にびっくりしたかな?


「これ、眷属たちに見せていい?」

『眷属?―――ああ、掲示板の人たちね?いいよ。ただ、機材の準備とかが必要だろうから、本当にブイチューバ―?に使う方のは2か月は最低でも待って欲しいかな。その間に、色々終わらせたいしね』

「?了解。じゃあ、これ使わせてもらうね」

『はいはーい。じゃ、そっちに送っとくから』


お姉ちゃんとの通話が切れて、数十秒後にお姉ちゃんからさっき映っていたイラストが僕のPCに転送されてきた。後は、これをPDF形式にして、それを掲示板に張り付ける。

って、いつの間にか一スレ終わっているし。新しいスレは―――あ、シロがやってる。流石は僕の原初の推しを名乗るだけあるね。優秀な眷属だ。


『【安価で】仮想の配信者創ってみたいんだけど【決まったぜ】』


74 Ia Ia ID:67Utso8dGl 2016/04/08 21:13:24

いなかった3時間でレス進み過ぎじゃない?まあいいけど。じゃ、お姉ちゃんに仮で描いてもらったから、張り付けるねえ。どーん

https://~~~


しばらく放置しても、なかなか進まないレスを見ていたけど、ようやく動いた。


75 シロ ID:5feegiaog8 2016/04/08 21:19:58

かわぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい‼‼‼‼‼‼


うぉっ!?いつもは軽い感じのシロが軽い暴走を起こしている。


76 シロ ID:5feegiaog8 2016/04/08 21:20:01

かみかまいかmkfもいなkまいみあみまい


77 シロ ID:5feegiaog8 2016/04/08 21:10:02

もうむりとうたおあうああfすぶbcふぃ


言語になってない!?シロ、本当に大丈夫なのかな!?

シロの暴走は、700レス目でようやく戻ってきたクロが『怖っ!?』とレスをするまでの3分間にわたって毎秒3レス程度続いた。



806 シロ ID:5feegiaog8 2016/04/08 21:16:56

失礼しました、イア様が尊くて尊くて―――さす姉!


807 Ia Ia ID:67Utso8dGl 2016/04/08 21:17:43

さす姉?まあ、確かに


その後のレスは、さす姉で埋まったと言う...。




苦節2か月、やる事もなくグダグダと生きるだけで、推し成分が身体から枯渇しおばあちゃんみたいになっていたこの頃。しかし、ようやく、ようやくこの日がやってきた!


『Ia Ia/イアch.』

登録者 2人


そう、僕のチャンネル創設だ!え?既に登録者が二人?何これ怖い。一人はお姉ちゃんなのが分かってるけど―――もう一人は誰?目をこすって、もう一度。


『Ia Ia/イアch.』

登録者 2人


「―――ッスゥー...。」

なにこれ。



掲示板を見てみる。すると、レスが過疎ってお蔵入りしたスレとは別に新しいのが立っていて、それを見てみることにした。


『【チャンネル】安価で決まったVライバー、遂にデビュー【開設】』


1 シロ ID:5feegiaog8 2016/06/11 17:01:23

我らが崇め奉りしイア様が、チャンネルを開設為された。我は真っ先に登録した!皆もかかれぃ!


ついさっき、つまりは二分前。チャンネルを開設して、たった16秒後。

シロが、スレ立てしていた。


2 Ia Ia ID:67Utso8dGl 2016/06/11 17:03:48

いや、シロさんあまりにも私のチャンネル見つけるの早くない?お陰でいつスレ民の眷属が流れてくるのか怖くてたまらないんだけど?


3 シロ ID:5feegiaog8 2016/06/11 17:03:54

いやいやぁ、そりゃあイア様の眷属ですから。

このくらいできていないと、崇めることなどできませんよ


4 Ia Ia ID:67Utso8dGl 2016/06/11 17:05:29

―――それは、私のレスを見つけてたった6秒でレスを返すこと?


5 クロ ID:32rdtUia3d 2016/06/11 17:05:31

おっ、久しぶりにスレ立てされてる。懐かしいなあ。ワイも登録してこよっと。


6 シロ ID:5feegiaog8 2016/06/11 17:05:32

当然ぁあああああ!クロカスぅぅぅ!


―――シロ、本当に何者なんだろう。




同日、僕は自己紹介の動画を撮影することにした。

お姉ちゃんが作ってくれた姿をトラッキング機材によって動かす。表情の差分はいくつか貰っているけど、基本は笑顔の状態のもので扱う。撮影はおばあちゃん。というか、クロ。おばあちゃんがクロだと知ったのは本人から伝えられたため。


『―――初めまして、皆さん!ヴァーチャル世界へと降り立った邪神、イアです!あ、じゃなくて、なのです!

初めてのヴァーチャルライバーとして、この世界で敏腕を振るっていくので、ぜひぜひ!私の配信を見て、それでヴァーチャルライバーになりたい、と思ったそこの君!どんどん、私から広まっていくこの世界を広げる、いわば邪神の存在を世界に広めたラブクラフトの様に!伝道者となりなさい、なのです!それでは、私はこの世界に身体を持って降り立つまで、しばらくかかりそうだし―――って、もう登録者3桁!?もう配信できるじゃん...。―――コホン!あー、降り立つのは来週、6の月の18日なのです!その日を心に刻み、今か今かと待ちわびて、震えて眠れ、なのです!


―――あー、おばあちゃん?ちょっとグダったから、そこの所のカットお願いね?』


―――カットしてくれなかったおばあちゃんの事を、僕はしばらく怨むだろう。



―――

『Ia Ia/イアch.』

登録者 357人(主に眷属)

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