第18話 第一発見者が怪しい? そう、俺ですよ!

 俺と井上いのうえ亜沙乃あさのは、軍用のレインコートを着込んでいた。

 なぜなら――


 ザァアアアアアアッ!


 バケツをひっくり返したような、大雨だから。


 あの校長が意味深に言っていた、キルゾーンだ……。


「お客様!? 今の外出は――」


 驚くホテルの従業員が止める間もなく、1階の俺たちは外へ飛び出した。


(思っていたよりも、灯りがない……)


 全身の神経を張りつめた俺は、亜沙乃に叫ぶ。


「お前は左へ!」

「ラジャー♪」


 右へ走っていく俺に対して、背中で遠ざかる亜沙乃の足音。


 すぐに大雨の音だけに。


「さっきの悲鳴は……」


 走り続けながら、その高さと位置をチェックしていく。


(この大雨で聞こえたってことは、外だな? 上から探るか!)


 両足に力を込めて、近くのビルにある看板や出っ張りで、どんどんジャンプする。


 ザシャアアアッ


 屋上に溜まっていた水が、俺が踏ん張っている両足によって弾き飛ばされた。

 

 さて、今日の俺の相棒を紹介しよう!


 両手で持つショットガン。

 アメリカのパトカーに常備されている、アレだ。


 黒のポリマーコートによる防水処理。

 シンプルな構造により、信頼性もひじょうに高い。


 セミオート?

 ははは、ご冗談を!

 片手で前後にスライドさせる、ポンプアクションだよ!


 小銃でも、ジャムることが多い。

 まして、一撃必殺のショットガンでそれは、御免こうむる。


 探せば、14発も入るとか、色々あるんだけどね……。


 12番ゲージは、近接で最強。

 正直なところ、屋外では射程距離が短いものの、俺は一気に距離を詰めるから逆に使いやすい。


 弾の種類で、それなりに使い分けられるしな?

 もちろん、俺はもっとも火薬が多いやつだ。

 一発でも、リコイルで肩が痛くなる。


 一番気に入っているのは……値段だ!


 安いんだよ、これ!

 遠慮なく使い捨てられるし、携帯しやすい。


 アホみたいな理由に思えるかもしれんが、高いか、こだわりの逸品で手放せずに死ぬのは嫌だ。


 背負い紐のスリングを体にかけたままで、ショットガンを構えた。


「さーて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 バシャバシャと足音を立てながら、一気に加速しつつ、ジャンプして別の平面へ。


「っと!」


 倒れ込んでいる人影に、俺は両手でショットガンを構えつつ、近づく。


「動くな! 警察だ!!」


 分かりやすい警告と同時に、カチッと、銃口下にあるライトをつけた。


 丸い白い光が、その部分だけ昼と同じ明るさに。


 兵士と同じ格好で、アサルトライフルらしき物体も落ちている。


「官姓名を言え!」


 反応がないため、銃口をつきつけたまま、足の半長靴で蹴飛ばした。


 何の痛痒も見せず、壁にもたれたまま座っていた奴はゴロリと転がる。


「……死体、か」


 ライトを消した俺は、スリングでショットガンを背負う。


 かがんで、そいつを確認してみると――


「食われているのか?」


 脈はない。

 雨に打たれていたせいか、ひどく冷たい。


 ゲリラではない。

 一式が揃っていて、安くない代物だ。


 まるで野生動物に食われたように、胴体や手足の一部がない。


 頭には……。


「片目のナイトビジョン? 玩具でなければ、どこかの軍か?」


 暗闇でも見えるナイトビジョンは、かなり高い。

 この世紀末となれば、所有している奴らは限定的。


「校長が言っていたのは、こいつか? しかし、さっきの悲鳴がこいつなら、襲った奴が――」


 カンカンカン


 金属の物体が転がる音で、俺はショットガンを構えつつ、視線と一緒に振り向いた。


「誰だ!? こちらは銃を持っている! 両手を上げたまま、出てこい!」


 銃口の下にあるライトをつけて、周囲を探る。


 さっきの音がフェイクという可能性もあるのだ。


 すると、弱々しい女子の声。


「こ、ここだよ~! 撃たないで!!」


 すぐに撃てる状態のまま、ゆっくりと回り込む。


 そうしたら……。


 見覚えのある女子がいた。


 両手で自分の体を抱きしめていて、屈みこんだまま。


「さっき別れた……」

えん由利ゆりだよ! それ、本物!?」


 俺は銃口を向けたまま、足を止めた。


「そうだ! なぜ、ここにいる?」


 銃口のプレッシャーに、由利は体育座りのまま、片手を向けた。


「ちょ、ちょっと! そろそろ、銃口を下ろしてよ!? 眩しいし」

「なぜ、裸だ?」


 俺の質問に、由利は片手で顔を隠した。


「銃で武装した人に連れてこられて、制服を脱がされたの! 下着もね? というか、その合羽を貸してよ! 体を隠したいの!」


「ダメだ! もう1人が来るまで、待て!」


 俺がグリップを握っている手とは逆のほうで、亜沙乃に連絡しようと――


「いい加減にしてよ!? そんなに見たいのだったら、ぜんぶ見せてあげる!!」


 憤慨した由利は、両手を下ろしたままで立ち上がった。


 むろん、全裸のまま。


 俺は急いで片手を銃身の下に添え、トリガーに指をかけた。


 摺り足で、相手を見たままの後ずさり。

 横にもズレていく。


「警告する! それ以上に動いたら、撃つぞ!?」


 逆ギレした由利は、まだ抗議する。


「服を貸してくれないんだったら、せめて後ろを向いて――」

 バシッ!


 壁のコンクリが、いきなり弾けた。


(後ろか!)


 転がりつつ、膝立ちで後ろへショットガンを撃つ。


 もちろん、当たらない。

 少しでも次の発砲を遅らせることが、目的。


(相手は、ライフル! 届かないショットガンだと、今の反撃で見破られた……)


 片手を前後に動かし、次の弾丸を装填した。


「狙撃だ! 遮蔽しゃへいをとるぞ?」

「ちょっ……」


 バシバシッと弾が飛んでくる中でショットガンを背負い、由利の片手をつかみ、放り投げるような移動。


 何とかドアから屋内に入り、手早くレインコートを脱ぐ。


「ほら?」

「……ありがと」


 仏頂面の由利は、レインコートで体を隠した。

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