第15話 人の話を聞かずに感情で動くから不良
――赤城ベース
山の上にある観測所。
旧自衛隊が築き上げた、北の防衛線の1つだ。
いわゆる山小屋で、多少の攻撃では崩せないトーチカもある。
「逃げ場のない棺桶でもありますが……」
ネネッタの感想が、全てだ。
俺たちを案内してきたヤンキーどもは、疲労困憊。
「チッ! いいよな、テメーらは……。こちとら、一般人だぜ」
悪態をついたリーダー格だが、第一高校にいた時より元気がない。
その子分は、もっと覇気がない。
「ここから下りたヌマタに、お前の言った
「おう……。だけど、ここにも誰かいるはず」
不良のリーダー、
俺も釣られて、“特殊人的部隊” とプレートがある場所を見る。
次郎が、声を上げる。
「山小屋は無人……。おい、てめえ!?」
視線の先には、ネネッタがいた。
彼女は山小屋にあった小銃を持ち、ジャキッと初弾を装填した。
手慣れた様子でセーフティをかけた後に、スリングで肩掛けする。
「ここは、もう危険エリアです……。
「へいへい……。ないよりは、マシかな?」
同じく、マガジンを下から嵌め込み、チャージングハンドルを引くことで装填した。
俺たちが小銃を持ったことで、次郎は呆れた。
「軍の奴らに捕まるか撃たれても、知らねーぞ? テメーまで、持ち出しやがって」
視線の先には、ヒュンヒュンと日本刀を振る
「いいわね、これ! ぜんぜん刃こぼれしないし、特殊合金かしら?」
「……特人用だ。普通と違っていて、当然だろ?」
律儀に答えた次郎は、ため息をついた。
「ヌマタまで下りないと、ダメだな……」
すると、近くの茂みでガサガサと音がした。
「お? 誰か、戻ってきたようだぜ? すんませーん! 俺たち――」
ガサッ!
黒をベースにした頭が、飛び出した。
昆虫だ。
身長は大人ほどで、頭の大きさは人と変わらない。
2つの触角が生えていて、それぞれが別の生き物のように動いている。
声をかけた男子は、絶句する。
けれど、その昆虫もびっくりしたようで、頭の左右にある複眼が心なしか驚いた雰囲気。
こちらを見たまま、首をかしげた。
どこかで見たような気が……。
「アナバチです! 基本的に無害なので、下手に刺激せず――」
「っしゃ、おらぁああああっ!」
ネネッタの忠告も虚しく、アホが石を投げた。
しかも、巨大アナバチの頭にヒット!
「とっとと、行け――」
ブウウウウウゥウウウンッ!
アナバチは、背中にある大きな羽2つを振るわせて、ホバリングに移った。
全体像が見えて、全体的に黒い、くびれのあるシルエットだと分かる。
大人を抱えられるほどに巨大だ。
(確かに、蜂だな……)
俺とネネッタは、両手でアサルトライフルを構えた。
けれど――
「当たるな、こりゃ」
「
ネネッタの声に振り返った男子は、向き合っていたアナバチの6本足に拘束された。
「ガッ!? た、助け……」
その男子は、途中でグターッと全身の力を抜いた。
「アナバチは、麻痺毒による狩りバチです!」
「ご高説を垂れてねえで、とっとと撃てよ!?」
まだ撃っていない他人の小銃で、映画のヒーローみたいな人質を避けた精密射撃はできねえよ!
宙に浮かぶアナバチは、俺とネネッタを脅威と感じたらしく、ジッと見つめた後で一気に高度を上げた。
ブウウウゥウゥゥ……
遠ざかっていく、ヘリのような飛行音。
「サトシぃいいいいっ!」
不良の誰かが、叫んだ。
俺とネネッタは、銃口を下ろす。
ドカドカと歩いてきた次郎が、俺の胸元をつかまんばかりの勢い。
「てめえ……。何で、撃たなかったんだ――」
パァアアンッ!
ネネッタが両手で構えた小銃から、ライフル弾が発射された。
至近を通りすぎて、ヒュブッと嫌な音が耳を打つ。
『ギィッ!』
虫の悲鳴の直後に、ドンッと重い物体が地面に倒れる。
俺と次郎が見ると、別の巨大アナバチだった。
「いったん、山小屋へ! 援護します!」
「……てめえら、早く逃げ込め!」
次郎の叫びで、他のヤンキーたちが我に返った。
一斉に走り出す。
アサルトライフルを構えた俺も、ネネッタとは違う方向をカバーした。
――15分後
山小屋に立て籠もり、今後の方針を決める。
次郎たちも小銃を手にしており、殺気立った。
「決まってる! 攫われたサトシを助けに行くぞ!!」
「却下します」
ネネッタの否定で、次郎は今にも撃ちそうな雰囲気だ。
「真藤! 俺も反対だ。さっきのアナバチを撃てば、中間のサトシに当たったぞ? それに、奴は巣に連れて行ったはず」
「……何だよ、巣って?」
次郎を見たネネッタは、あっさりと告げる。
「狩りバチは、捕まえた獲物を麻痺させて、巣で幼虫に食わせます」
「おい、冗談じゃねえぞ!? 今すぐに行く!! てめえらもだ!」
黙っていた亜沙乃が、両手を動かした。
抜刀術のようで、真っ二つになった木製のテーブルが床に落ちる。
「行きたければ、そっちだけで行って……」
冷たい輝きの刃とその剣幕に、次郎は唾を吐き捨てた。
「ああ、そうかよ! てめえらはもう、ダチじゃねえ!! 行くぞ」
子分に命じた次郎は、足音を響かせつつ、山小屋の外へ出ていった。
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