第14話 悪い奴らはだいたい友達

「俺のダチや先輩で、外へ向かった奴らはいるよ……。誰も、帰ってこなかったけどな?」


 ヤンキーの頭といえる男子が、憎しみを感じる声音で言い捨てた。


「バリケードに近づいたことは?」

「ない! 警備の軍に見つかって撃たれない距離でなら、双眼鏡で見たことがある。遠くに山が見えたぐらいだ」


 その後にも、素直になったヤンキーどもは、あっさりと情報を出してくれた。


 俺がコールドスリープに入る前に知っていた不良漫画と同じで、いったん仲間と認めれば、寛容なようだ。


(学校を始めとして、仲間だけが信用できる相手か……)


 どうしたものか、と思っていたら――


「私の名前は、ネネッタ! このグンマーは狙われています!!」


 全員がそちらを見れば、井上いのうえ亜沙乃あさのもいる。


「てめっ――」

「落ち着いてください。教師を呼んだりはしていません」


 反射的に立ち上がったリーダーに、制服姿のネネッタは片手を向けた。


 不安になるヤンキーどもへ、はっきりと告げる。


「グンマーの防衛線は、遠からず崩壊するでしょう。その前に、私たちの庇護に入ることを提案します」


 立っている俺をチラッと見たリーダーは、すぐにネネッタを睨む。


「……てめえ、何者だ?」


 リーダーの友人や子分も、自分の武器を握り直す。


 敵意はこちらに向いておらず、一緒に来た俺はグルではないと見なしたようだ。

 俺に勝てない。という判断かもしれんが。


 いっぽう、ネネッタはわざと自分の一部を外して見せた。


「ご覧の通り、私は自動人形クルトゥスです」


 疑いようのない証拠を突きつけられ、リーダーたちは唖然とする。


「……検査を受けたはずだろ?」


「人間は、けっこう先入観で決めつけます。あの程度のハンディ検査機ぐらい、簡単にハッキングできますし」


 外した一部をつけ直したネネッタは、付け加える。


「この2人は、生身です。信じるかどうかは、ご自由ですが……」


 仕草で武器を下ろすように示したリーダーは、座り直した。


「ここでクルトゥスと知られれば、袋叩きだ……。ああ、そうかい! お前らは壁内からのスパイってわけか! 俺らを一緒に連れて行ってくれるのなら、手伝ってやらんでもないぞ?」


 また雰囲気を変えたリーダーに、俺が答える。


「悪いが、そう簡単じゃない……。壁とは反対方向にあるエリアから、COSコスという化け物の群れが押し寄せてくるんだ」


「軍事衛星……上空からの撮影による推測ですが、最前線はもう実感しているはず」


 ネネッタの返答で、リーダーはそちらに尋ねる。


「どういう奴らだ?」


「分かりません。と言うのも、COSは汚染によるクリーチャーなので」


 カワサキ市の管理官である美優みゆに他言無用と言われていたが、ネネッタはこいつらを取り込むために話したようだ。


(逆に言えば、危険と判断したら始末するつもりか……)


 俺が思案している間にも、無表情のクール系であるネネッタは説明する。


「このグンマーにいる自衛隊の残党だけでは、対応しきれません」

「何で、言い切れる?」


 睨んだままのリーダーが、問い詰めた。


 いっぽう、ネネッタは分かりやすく諭す。


「あなたは、虫を知っていますよね? どれだけ潰しても湧いて出てくる。COSも、それと同じです……。旧自衛隊にはヘリや戦車を動かせるだけの部品や燃料もなく、まして爆撃機や攻撃機を飛ばすのはもってのほか! 練度が足りない、人手が足りない、本来ならあるはずの市民による抑制もない。今では、独裁者の私兵に過ぎません」


 誰も応じないことで、ネネッタは首をかしげた。


「私たちは地下で響く音のサーチから、COSの大規模攻勢を知りました。関東圏にある高い壁によるラインは、COSを寄せ付けないためです」


 リーダーは、かろうじて声を出す。


「その壁は、噂でしか知らねえよ……。何でお前らは、ウチを締め出しやがった!?」


「逆です。グンマーの支配者に何度も交渉しましたが、突っぱねられました。時間切れで、ここを除外したのです。せまい箱庭でも、自分たちが王様や貴族でいたかったのでしょう。私たちの庇護を受ければ、管理官のクルトゥスに従うしかありません」


「……マジかよ?」


 そこで、ネネッタは俺を見た。


 ここで丸投げかい! と思ったが、リーダーは俺だ。


「外壁がある方向からは、来ないだろう。北の山岳エリアから襲ってくるとして……。俺たちで現場を見に行かないか? たぶん、少数のCOSを防いでいる部隊がいると思う」


「ああ、お前らと同じ特人とくじんの奴らがな……。そっちの任務に付き合わないと、脱出させてくれないってか? 分かったよ! 伝手があるから、連絡してみるわ」


 そう言ったものの、リーダーに電話する素振りはない。


 …………


「あ! 携帯もないんだっけか」


「……上の連中は持っているようだがな? 高校生が持ち歩くわけねーだろ」


 呆れた様子のリーダーに、言われてしまった。

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