第13話 かりそめの平和を満喫する箱庭

「じゃーねー!」

「早く、部活へ行かねーと!」


 “県立第一高校”

 俺がコールドスリープに入る前と比べても、古く感じる。


 男子用のブレザーの制服を着たまま、放課後を知らせるチャイムの余韻を味わう。


(本当に、平成の前後だな……)


 年季を感じる、教室の机と椅子。

 カワサキ市のラシーヌ学園とは、かなり違う。


 自動人形クルトゥスの部隊に追われていた俺たちは、茶番のおかげでバリケードの内側へ入れてもらった。


 狙撃された片腕は、弾が貫通していたこともあり、今では動かすと痛むぐらい。

 回復が早いんだよ。


 この閉鎖されたグンマーを防衛している軍は、俺たちをあっさりと解放。

 簡単な事情聴取をしただけで、この第一高校に編入したのだ。


 ネネッタの談では、どうせ逃げられない、と考えたのでしょう。


 奥地は人が住める場所ではないようで、このグンマーで元々の大都市だった3つぐらいが生存圏。


(周りはバリケードと軍に囲まれていて、物資も配給だし……)


 考えつつも、支給された教科書やノートを放り込んだスクールバッグを肩掛けで、下駄箱へ。


 この第一高校は、タカサキ市にある。


 他の生徒と同じ方向へ歩き、やがて駅前に。

 有線かCDによるヒット曲が流れていて、携帯電話を使う人間はいない。


「文明崩壊後に、過去へ戻るとはな……」

「ただいま、到着しました」


 ネネッタの声に、振り向く。


 そこには、俺と同じ高校の制服を着た女子2人の姿。


 もう1人である井上いのうえ亜沙乃あさのが、キョロキョロとしつつ、感想を述べる。


「どれもこれも古い場所ね? クラスの女子と話しても、感覚がズレていると言うか……」


 若干の疲れを感じさせた声音に、亜沙乃を見た。


「俺たちは、スマホが当たり前だからな……」

「そうなのよ! ここじゃ、『誰それが言ってた』『あの子はハブろう』という話ばっかり! 上のグループにいないと、人権がないレベルね? それでなくても、まったく情報を得られない」


 無表情のネネッタも、呆れ顔だ。


「ドローンや監視カメラがないから、『やったもん勝ち』なのでしょう。情報の拡散も、新聞や雑誌、テレビ、あとは友人同士のお喋りだけ」


「腕力が強くて怖い先輩や友人と凄むか、数の暴力で口裏を合わせれば、世は事もなしか……」


 多少のことは、スクールカースト上位が徒党を組めば、もみ消せる。

 あるいは、権力者に忖度そんたくすると。


 息を吐いたあとに、提案する。


「俺たちは、ここに馴染むことが目的じゃない! とりあえず、今後の作戦を練るぞ?」



 ――ファーストフード店


 駅前にある、高校生が多い場所。


 適当に注文して、ボックス席を1つ確保した。


COSコスの群れが迫っている外周だな……」


「軍の精鋭がいるでしょう。ここの代表者に接触できれば、それも良いのですが」

「無理! 第一高校ですら、イジメられないよう気を遣うだけ!」


 ネネッタの意見に、井上亜沙乃は叫んだ。


「俺たち3人で集まれたのも、数日ぶりだしな? このまま流されても、しょうがない」


「外周を見ないと、今後の動きを決められません」


 冷静なネネッタの意見を採用して、その日は解散。


 今は紹介されたアパートに住んでおり、しばらくは家賃などを免除されている。

 いつまでも、とはいかないが。


(携帯がないせいか、どいつも他人の様子を気にしているんだよなあ……)


 第一高校の制服はもちろん、他の制服も見かけた。

 あの女子2人とベッタリしていれば、翌日には噂になるだろう。


 それを防ぐため、店内での会話に留めたのだが……。



 ――翌日の放課後


 人目につきにくい、校舎裏。

 用務員がゴミを燃やすための焼却炉ぐらいがある、物置き場を兼ねた場所だ。


 たむろしている、絵に描いたようなヤンキーどもが、俺にすごむ。


「オメーよお? 一緒に来た井上の姉妹と、仲がいいみたいだな?」


 そういえば、ネネッタの名字は井上にしたっけ……。


 俺が思い出していたら、背後から風を切る音。


 片足をズラしつつ、その重心移動のままに、鉄バットで殴ってきたヤンキーの背後から頭を押して、同時に片足を払う。


「ぶごっ!」


 痛そうな音と悲鳴で、襲ってきたヤンキーは顔から地面に突っ込んだ。


「テメエ――」


 奪った鉄バットの先を喋っていたリーダー格に突きつけた。


「これが、最後の警告だぞ?」


 イキっていた奴は、とたんに焦る。


「お前……。特人とくじんかよ!? チッ! わーった! 悪かったよ! ヤスも、今回は我慢しろ」


 手の平を向けた奴は、あっさりと降参した。


「……うっす」


 俺が地面に叩きつけた男子も、手で顔面を押さえつつ、しぶしぶ応じた。


 場の雰囲気が変わり、ナイフや鉄棒を持っていたヤンキーどもは臨戦態勢をやめる。


 周りを見たリーダー格は、息を吐く。


「もう、行っていいぞ!」

「あの2人に、何の用があったんだ?」


 片手でうなじを掻いたリーダー格は、すぐに答える。


「決まってんだろ! 俺たちの誰かが口説くつもりだったんだよ!」

「あんたらは、バリケードの外へ行ったことがあるのか?」


 俺の質問に、数人のヤンキーがまた違う雰囲気へ。

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