第二章 携帯電話がないグンマーの防衛戦

第12話 50万人のレスキュー依頼!?

『由々しき事態です……』


 セキュリティが完璧な通信室に、カワサキ市の管理官をしている美優みゆの姿。


 人形らしく、その端正な顔で説明する。


『とあるポイントに、COSコスの群れが押し寄せるとの報告が寄せられました。このままでは約50万人が犠牲になるため、あなた方に依頼します』


 絶句した俺は、かろうじて突っ込む。


「意味が分からん……」


 俺の隣に座っている井上いのうえ亜沙乃あさのも、コクコクと頷いた。


 頭の上のキツネ耳2つをピコピコと動かした美優は、言い直す。


『関東圏でも、壁の外にある一区画がありまして……。主要な都市とその周辺で合わせて50万人が住んでいるのです』


自動人形クルトゥスの部隊を出して避難させれば、いいだろう?」


『そのつもりですが……。その区画は私共わたくしどもが干渉しないことで続いてきて、情報が全くありません。あなたに分かりやすく言えば、「初期の携帯電話もない現代社会」のまま保全しています。昔の自然保護区のようなもの』


 平成に変わった前後ぐらいか……。


 理解した俺は、首肯する。


「何をすれば?」


『現地の高校で情報を集めてください。できれば、現地の指導者に協力をしてもらいたいですが――』

「俺たちが暗殺される未来しか見えない」


 シレッと、美優が説明に戻る。


『なので、可能な範囲で協力者を作りつつ、重要な施設、またはVIPの情報をください。最後はメックやパワードスーツの部隊でCOSを迎撃しますが、最悪の場合はあなた方だけ回収します』


「そっちで呼びかけは?」


『向こうの市庁舎にいる代表者や秘書は出ますが、話になりません。「あれを寄越せ、これをくれ」の一点張り……。あまりに引き篭もっていて、自分たちの状況を理解していないのでしょう』


「食料や生活必需品、電気のケーブルなどは?」


『ダミー会社を通して供給中……。それを自分の権力と勘違いしている節もありますね? 前に話しましたが、私共は人類とその文化を保護することが目的です。今となっては、対COSの防壁をあそこに作れなかったことが悔やまれます』


「場所は?」


『今では、グンマーと呼ばれています。地形的に守りやすく、昔から自治独立の気風が強い場所でしたが……』


 あそこかよ!?


 俺が微妙な顔をしている間にも、美優は淡々としゃべる。


『旧自衛隊の基地がいくつかありまして……。彼らが強気なのも、そのせいかと』


「今の規模は?」


『威嚇や暴動の鎮圧なら、ともかく……。稼働する兵器が、どれだけあるやら? 飢えないように食料は多めに渡しているため、その意味でのクーデターは心配いりません。小銃と手榴弾ぐらいは、同じくダミー会社で供給しています』


「COSに対しては?」


『話にならないと思います……。ただ、COSの抵抗値が高い人間はあなた方のように超人的なパワーを発揮します。そういった人たちで部隊を作っている可能性がありますね? 小規模のCOSであれば、装備が貧弱でも押し返せるはず』


「掃除係か……」


『ですが、彼らには知識がありません……。高天こうてんさんは、かつての文明がある時代を知っている貴重な人材です。あなたをリーダーとして、潜入してください』


「何かもう、やっていることが特殊部隊なんだが!?」


『レスキューには、違いありません……。健闘を祈ります』



 ◇



 俺はボロボロの服を着たまま、道なき道を走る。

 肩からスリングで小銃をかけており、振り返っては撃つ。


 返事のように、無数の小銃による発砲音と、周りの木々や岩が弾ける音。

 その破片の1つが頬をかすり、遅れて血が流れた。


 隣を走っている井上亜沙乃は、思わず絶叫する。


「あー、もう! 冗談じゃないわよ!!」


 銃が下手な亜沙乃は、誤射を避けるために持っていない。


 接近戦の距離でもない。


 いっぽう、ネネッタは途上国で使いそうな小銃を両手で構え、数発ずつの射撃。


「急ぎましょう! 境界線のバリケードは、すぐそこです!!」


 言いながらも、ポーチから新しいマガジンを取り出し、外れたマガジンを押しのけるように差し替えた。


 側面にあるチャージングハンドルを後ろへ引き、初弾を装填する。


 その間にも、激しい銃撃。

 少女らしき姿も……。


 クルトゥスの戦闘部隊だ。


 走り続ければ、ネネッタの言った通りに、バリケードがあった。

 コンテナのように頑丈な廃材を利用しており、外壁というには低い。


「おい、入れてくれ!」


 遮蔽しゃへいを取っているクルトゥスたちが、俺たちに射撃を加え続ける。


 バリケード側は、沈黙したまま。


 その間で、俺は弾切れに。


「もう弾がない! 頼む――」


 一発のライフル弾が、俺の腕を貫通した。


 抜けた方向に血が飛び、激痛が襲ってくる。


「ガアアァアアアッ!」


 抜けた方向から、その反対側を見れば……。


 ボルトアクション式のライフルで狙撃した少女が、側面に突き出たハンドルを後ろへ動かした後で戻した。


 スコープから目を離したあとで、俺にウィンクする。


 上手くやれたでしょ? ってか……。

 

(ふっざけんなよ、てめぇえええええええっ!)


 けれど、今の光景が決定打になったようで、バリケード側の銃撃が始まった。

 上から重機関銃のドドドという音。


 離れているクルトゥスの部隊は、反撃しつつも後退する。


 それを見たようで、バリケードの一部が開き、小銃を持っている男が叫ぶ。


「こっちだ! 早く来い!!」

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