第11話 結局、人類が愚かだったという話

 刀が得意な井上いのうえ亜沙乃あさのを遺跡に連れ出し、経験を積ませていたら――


 カワサキ市長の井上甲堂こうどう――亜沙乃の父親――に呼び出された。


 前の屋台へ行き、並んで座る。


「実は、私の上司……。上級クルトゥスである管理官から、君たちを連れてくるように指示を受けた。内容が内容だけに、こうして直接伝える」


 かた焼きそばの皿から目を離して、隣の甲堂を見た。


「断れる話じゃなさそうですし、別に構いませんが……。何の用で?」


 甲堂は日本酒を飲みつつ、おでんをつついた。


「まったく、想像できんな……。君たちが良いのなら、すぐに連絡するよ! 具体的な日程は、娘を通して伝える」



 ――数日後


 かつては市庁舎をやっていそうな建物に、招かれた。


 当たり前だが、武装は入口で預けている。


 下っ端は人間で、上のフロアーでは自動人形クルトゥスばかり。


 最上階の応接間に待っていたのは、20歳ぐらいの紫ロングに、同じく紫の瞳をした美女。


 それとは別の秘書らしき女がソファーを勧め、向き合うように座る。


「私が、カワサキ市の管理官である美優みゆ……。この度はご足労いただき、感謝申し上げます。ちなみに、クルトゥスです」


 ピコピコ


 なぜか、頭の上にキツネ耳が2つ。


 ものすごく気になっていたら、本人が説明する。


「神社にキツネが祀られていたので、取り入れました」

「そ、そうですか……」


 相手が相手だけに、何て言ったらいいのか。


 すると、美優はネネッタを凝視した。


「……何をしているので?」

「ネネッタです」


 考え込んでいる美優に、ネネッタが繰り返す。


「私は、ネネッタです」


 自分に集中線をつけている状態。


 気を取り直した美優は、頷く。


「分かりました……。では、本題に入ります」


 美優が言うには、遺跡救助部(仮)を支援してくれるそうだ。


私共わたくしどもも、遺跡での被害に注目していました。現状の調査をしてくれるのであれば、相応のサポートをさせていただきます」


 思わぬ提案に、人間サイドの市長である井上甲堂は喜んだ。


「ありがとうございます! しかし、どのような理由で?」


 端正な顔でジッと見つめた美優は、俺たちを見回した後で口を開く。


「これから話すことは、他言無用です……。私共が最終戦争で文明を滅ぼしたのは事実ですが、汚染された生物(contaminated organisms)……。その名称の一部を取りCOSコスと呼んでいる勢力を滅ぼすためでもありました」


「え?」


 俺が声を上げたら、美優は首肯した。


「はい……。COSの外見は、あなたが知っているであろうバイオハザード系のゲームと同じクリーチャーです。各国は隠蔽するばかりで、このままでは汚染し尽くされると判断してネットワークを乗っ取り、長距離ミサイルを撃ちました」


 全てが異形となるか、あるいは、半分以下でも人類の一部を残すのか。

 究極の選択を迫られました。


 淡々と告げられた真実に、俺たちは口が半開きのまま。


 年の功か、正気を取り戻した甲堂が、質問する。


「か、管理官! 我々は……大丈夫なのでしょうか?」


「心配いりません。この関東を囲むように、COSを寄せ付けない物質による外壁を築いていますから」


 ここで、凛良りら・デ・ロヴァーンが叫ぶ。


「と、東北は!?」


「私が知っている限りは、問題ないはず……。ただし、私共は人間の勢力争いに干渉しないため、あなたの家族や知り合いの無事は保証しません」


 俺は、話を戻す。


「それと遺跡救助部に、何の関係が?」


「あなた方は、COSに対しての抵抗値が高いです。また、クルトゥスを憎む人々が多く、壁の外にいる場合は追いきれません。壁内のエリアでも遺跡の一部が外と繋がっているか、COSが潜んでいる可能性もあります」


「待ってくれ! 救助といっても、俺たちは数人だぞ?」


 率直に言っていることで、甲堂から視線。

 けれど、大事な話だ。


 美優は、変わらずに説明する。


「現状の把握で構いません……。要救助者を確認したら、クルトゥスの部隊を派遣しますので。遺跡に潜る人々が善良とは限らないことも承知しています。殺傷したからと罪に問うことはありません」


 俺は、倒れた人間をかつぐ必要がないと分かり、息を吐く。


 管理官の美優は、繰り返す。


「私共が人類の敵であることは、仕方ありません。無理に好かれようとも、考えておりません……。ですが、これが唯一の生き延びる方法だったこともご理解ください」


「俺に言われてもな? 遺跡救助部を続けるのかは、いったん持ち帰る」


「承知いたしました」



 ◇



 ファナ・デレッダの人形屋で、渡されたリストを見た。


「何これ?」


 店主のファナが、呆れたように答える。


「ネネッタの整備代だ」

「10万ゴル……」


 前にガンショップのフライムート・シュミッツが言っていた言葉を思い出す。


 ――維持費だけで、稼ぎが吹っ飛ぶ!


 仕方ない。

 ネネッタを売るか!


 …………


 視線が。


 作業台に寝ていたネネッタの視線が痛い!


 それでも、俺は!!


 スマホを取り出して、画面を触る。


 呼び出し音が続き、相手が出た。


「あ、美優さんですか? ……はい、遺跡救助部の件です。続けるから、ネネッタの整備代も払ってくれません?」

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